「メガネで近視が進む」は誤解! 近視に関する「遺伝と環境」の影響を正しく理解しよう
近視を進行させるのは遺伝要因なのでしょうか、それとも環境要因なのでしょうか。「前橋みなみモール眼科」の高橋先生によると、ヒトは誰でも「遠視気味の目」をもって生まれ、「近視気味の目」へと育っていくそうです。そのうえで、遺伝と環境要因が関わってくるとのこと。詳しい解説をお願いしました。
監修医師:
高橋 大樹(前橋みなみモール眼科 院長)
山梨大学医学部卒業。大学病院や民間医療機関での眼科診療を経た2019年、群馬県前橋市に「前橋みなみモール眼科」開院。土日祝日対応の「通いやすいクリニック」を心がけている。日本眼科学会認定眼科専門医。日本眼科医会、日本小児眼科学会、日本近視学会、日本弱視斜視学会、日本眼科アレルギー学会、日本網膜硝子体学会の各会員。
環境要因なら「30分に1度の休憩」という手が打てる
編集部
例えば「親子で近視」という場合、遺伝のせいでしょうか、同じような生活をしているからでしょうか?
高橋先生
日本弱視斜視学会は近視について、遺伝と環境の双方が関係しているとしています。アジア人を対象にした追跡調査によると、片親が近視の場合は2倍、両親が近視の場合には約5倍の確率で、お子さんが近視になりやすいそうです。
編集部
他方の環境要因による近視はわかりやすいです。
高橋先生
近視には、モノを近くで見て作業する「近業」の影響が大きいとされています。赤ちゃんの目はもともと遠視気味で、そこから成長に伴い15~18歳にかけて、目が近視の方向へ育っていきます。具体的にいうと眼球が前後方向に伸びるのですが、背が一旦伸びると縮まないのと同じように、この過程は止められません。さらに近業が過ぎると、眼球はラグビーボールのように細長くなってしまいます。網膜が本来の位置よりも遠いので、遠距離側だけ見えにくくなる仕組みです。そして、1度ラグビーボール化したら、丸くは戻せません。
編集部
環境に働きかけていくとしたら、どのようにすればいいでしょう?
高橋先生
眼科医の中でコンセンサスが取れている近視の進む行動は、「手元で物を30分以上連続して見ること」です。近業を30分続けたら、「5m以上の遠くの物を、20~30秒ほど見る」ようにしてください。5m以上遠くなら、目のピント調節筋は完全に緩みます。つまり、目の筋肉が凝り固まらないような休憩を与えて「リセット」するということです。
編集部
近業そのものが悪いということではなく、「リセット」の仕方が問われると?
高橋先生
長時間の“連続した”近業が悪いということですね。例えばゲームを1時間したとして、リセットを挟んだ「30分ずつ2回」なら、近視の進行抑制策になります。このとき、なんとなく遠くを見るのではなく、5m以上の遠くの物に“意識して”ピントを合わせると効果的です。意識して筋肉を伸ばすという意味では、ストレッチ運動と同じかもしれないですね。脱力しているだけでは筋肉が伸ばせません。
眼鏡をかけても、かけなくても「近視は進む」
編集部
近視が始まってしまった時に、眼鏡はいつから必要でしょうか?
高橋先生
視力0.7を切ると、教室の後ろの席から黒板の文字が見えづらくなるとされています。こうした「生活上の不具合を解決するための道具」が眼鏡です。ただし、学校健診などで「近視」が指摘されるのは、視力1.0を切った段階です。視力1.0~0.7までの間はグレーゾーンで、眼鏡をかけたほうが楽なのか、それともスポーツなどで邪魔なのかによって、判断してください。
編集部
眼鏡をかけると近視が進むというのは本当ですか?
高橋先生
よく聞かれる質問ですが、答えは「いいえ」です。勘違いの多いところですが、「眼球の前後方向の伸び」は、18歳くらいまでの誰にでも起きていて、成長に伴う止められない現象です。目が見えづらくなったときに眼鏡をかけて見えやすくしても、眼鏡をかけずに見えにくい状態で頑張っても、大人になるまで眼球は伸び続けます。つまり眼鏡の有無にかかわらず、近視は進行し続けます。
親が正しい知識を得ていないと空回りに終わる
編集部
そうなると、近視進行を抑制した場合はどうすれば良いでしょうか?
高橋先生
近視進行抑制には、「オルソケラトロジー」というコンタクトレンズが有効です。お子さんの就寝中に装着していただいて、ラグビーボールのとがったほうの面を、ハードコンタクトレンズで緩やかなカーブに矯正していきます。近視矯正の効果もありますので日中は裸眼で視力が1.0程度まで見えるようになります。加えて、低濃度アトロピンという目薬にも、近視進行抑制効果が認められています。どちらも使用しない場合と比べ50%程度の近視進行抑制があるとされています。
編集部
オルソケラトロジーは近視の進行を抑えつつ、視力を改善するということですか?
高橋先生
はい。当院において、学校健診で視力低下を指摘され眼鏡を作り直した場合、翌年の学校健診でその眼鏡での視力低下を再び指摘されることはよくありますが、オルソケラトロジーは2年ほど度数を変えなくても裸眼視力が下がらないケースが多く、近視進行抑制効果と考えています。総じて、お子さんの近視に対して大切なことは、ご両親が近視や近視抑制方法に関する正しい知識をもっているか。次に、どこまでお子さんに対策を取れるか、この2点が重要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
高橋先生
お子さんがスマホやゲーム機などを近距離で操作していると、親としてはついつい、しかってしまいますよね。「近くで見すぎている場合や、30分以上近くで見ている場合」に注意するようにしてもらうと、一つのルールとして子供にも理解されやすいかもしれません。まずはお子さんの視力を調べてみて、見えるなら遠くから見るように促すか、30分に1度リセットの時間を取り、見えないなら遠くから見える眼鏡を作ってあげるなど、「実の伴う対策」に留意してあげてください。
編集部まとめ
どうやら、ヒトは共通して「遠視から近視へ進み続ける目」をもっているようです。そのスピードが緩やかなら、見えの不具合を一生、感じません。遺伝や環境は、近視化のスピードを上げる副次要因にすぎないのでした。逆に眼鏡は、アクセルでもブレーキでもありません。単に、今の見え方によって、眼鏡の「合う、合わない」が生じるだけなのでした。
医院情報
所在地 | 〒379-2143 群馬県前橋市新堀町1047 前橋みなみモール |
アクセス | 前橋南I.Cすぐ 主要駅「前橋」「高崎」「伊勢崎」 |
診療科目 | 眼科、小児眼科、アレルギー科 |