【緑内障】日本人の多くは正常眼圧で発症している! どうやって気づき、いかに防ぐか
高い眼圧によって生じると考えられてきた緑内障。しかし、日本人においてその実態は当てはまらなさそうです。そもそもなぜ、緑内障で視野の欠損が起きるのでしょう。「前橋みなみモール眼科」の高橋先生に、誰にでもわかる「目からウロコ」の解説をお願いしました。
監修医師:
高橋 大樹(前橋みなみモール眼科 院長)
山梨大学医学部卒業。大学病院や民間医療機関での眼科診療を経た2019年、群馬県前橋市に「前橋みなみモール眼科」開院。土日祝日対応の「通いやすいクリニック」を心がけている。日本眼科学会認定眼科専門医。日本眼科医会、日本小児眼科学会、日本近視学会、日本弱視斜視学会、日本眼科アレルギー学会、日本網膜硝子体学会の各会員。
眼圧によって視神経がダメージを受ける病気
編集部
緑内障は、眼圧の高い人に起きる病気だと思っていました。
高橋先生
ところが、国内の研究で追跡調査をしたところ、緑内障を発症した日本人のうち「約7割」が正常眼圧でした。地球上の全人種で見れば、「緑内障は、眼圧の高い人に起きやすい病気」なのかもしれません。しかし、我々モンゴロイド人種に限っていうと、その誤解によって弊害すら被る恐れがあります。つまり、「自分の眼圧は正常だから、緑内障にならないはずだ」という勘違いですね。
編集部
しかし、健康診断で眼圧の検査をしますよね?
高橋先生
眼圧の基準値は10~21mmHgです。今までは、この基準値を超えたら「緑内障の危険がある」と考えられていました。しかし現在の解釈では、眼圧の数字にかかわらず、「今の眼圧で、視神経がダメージを受けていないかどうか」という方向に変わってきています。
編集部
たしかに、緑内障は視野が欠ける病気だと聞きます。
高橋先生
はい。眼球の中のちょうど後側に、網膜の各所から神経繊維が集まっている「視神経乳頭」という場所があります。神経線維の束は、ここから目の奥へ抜けて視神経となり、脳へとつながっています。ここで問題なのは、眼圧によって視神経乳頭が押されると、視神経乳頭が凹んでしまうことです。すると、網膜の神経線維と視神経の移行部の構造が壊れるため神経線維への栄養供給が滞り網膜がダメージを受け(薄くなり)、視野が欠けていきます。
編集部
眼圧によらず緑内障になってしまう可能性が誰にでもあるということですか?
高橋先生
それが緑内障の正しい解釈です。どれだけ視神経乳頭が凹んでしまうのかは、その人ごとの体質です。血縁者に緑内障の人がいたり、近視があると緑内障になるリスクは高くなります。逆に眼圧が高めでも、視神経乳頭が丈夫な人なら、緑内障にかかりにくいということです。
無自覚でも調べてもらうのが現実的な予防方法
編集部
緑内障はどうやって検査、判明していくのでしょう?
高橋先生
最も確実なのは「OCT」という網膜の厚さを解析できる機器を使う検査です。網膜が薄くなる変化が緑内障の初期変化として現れるので、OCTは緑内障のスクリーニング検査として有効です。OCT以外だと、眼底写真になるでしょうか。健診や人間ドックで眼底写真を撮られる機会があると思います。ただ、眼底写真を撮る目的は動脈硬化を発見するためという意味合いもあり、内科医がチェックすることも多いと思います。その際は緑内障の発見はやや難しくなります。
編集部
網膜の神経線維が薄くなっているところで、視野の欠けが生じるのですね?
高橋先生
基本的にはそうですが、神経線維が薄くなっているものの、視野の障害はまだない前視野緑内障という段階もあります。より早期に発見できれば、失明するまで進行してしまうリスクを下げることができます。
編集部
「視野の欠け」が起きてからでは遅いとすると、無自覚なうちに検査するべきでしょうか?
高橋先生
40歳以上の20人に1人、400万人が緑内障と言われています。糖尿病患者数は約1000万人と言われていますので緑内障は思ったより多い病気です。年齢に応じて最寄りの眼科へ「緑内障が心配なので、詳しく調べてほしい」と申告してみてはいかがでしょうか。あるいは、近視も緑内障のリスク要因ですから、メガネの作り替えやコンタクトレンズの処方時に、緑内障の検査をお願いしてみてもいいでしょう。「緑内障」というキーワードを出さず、単に「目の検査」を依頼すると、眼底まで診てもらえないかもしれませんのでご注意ください。
編集部
仮に緑内障がみつかった場合、どういう治療をするのでしょう?
高橋先生
眼圧の正常・異常に関わらず、眼圧を下げる目薬が治療の第一選択肢になります。この場合の治療の目標は、「緑内障が進まなくなる眼圧まで下げること」で、人によりその数値は異なります。ですから、経過観察が重要です。
編集部
治療をしていく中での注意点はありますか?
高橋先生
現実には点眼治療を始めて1年以内に50%程度の人が治療を自己中断してしまいます。緑内障治療は「自覚症状が無い状態」を維持することが目的なので、治療を継続するモチベーションを維持してもらうことが非常に難しいからです。
編集部
たしかに簡単ではなさそうです。
高橋先生
目が痒い、痛いとき点眼を積極的にすると思いますが、症状が和らいでくると途端にサボってしまう、こんな経験は誰にでもあると思います。自覚症状がなければ、点眼を継続することは本来難しいことなのです。我々眼科医は、日々初期の方から末期の方まで診ているので、症状が進行した人がどうなるかを知っています。ですが、初期で見つかった方は、末期になるとどうなるか、想像することは難しいのが現状です。普段の診療では緑内障と診断した時点で、なるべく治療を継続してもらえるよう上記のような話を交えて工夫してお話するように心がけています。
眼科受診のきっかけを上手に活用する
編集部
日本人では少数派ですが、高い眼圧で起きる緑内障もあるということでしたが。
高橋先生
はい。やはり目薬による治療をおこなってみて、それでも視野障害の進行が止まらないようなら、手術の適応になります。高い眼圧は、目の中の水がうまく抜けずに詰まってしまうために起こるので、排水口に該当する部分の掃除や、場合によってはバイパスで眼の外に水を逃すルートを作ります。
編集部
手術でも、その目的は、緑内障の進行を遅らせることなのですよね?
高橋先生
そういうことです。なお、眼の中の水は静脈に帰るので眼圧は、静脈の圧以下には下げられません。ですから目薬や手術を行った結果、眼圧が下がっても緑内障が進行する場合、それ以上対応できないこともありえるということです。
編集部
なおのこと、緑内障には早期発見が必須ですね?
高橋先生
なにかのタイミングで眼科を受診したら、問診票に「緑内障が心配です」と書いてもいいくらいですね。受診のきっかけは、コンタクトレンズの処方でも、老眼の受診でも、なんでも構いません。緑内障を「思いのほか身近な病気」と捉え直していただければうれしいです。
編集部まとめ
緑内障は正常眼圧でも、言い換えるなら「誰にでも」起きる目の病気です。その仕組みは、眼圧による網膜の神経線維と視神経の移行部(視神経乳頭)の構造的変化です。つまり、網膜のある「眼底」を調べてもらわないと鑑別できません。視力検査や目の表面の検査では拾いきれませんので、その意味で「緑内障が心配」と言及しておきましょう。緑内障の自覚症状が出るのは進行してからなので、自覚症状が出てからの発見になると、治療を開始しても視野を失ったままの生活になります。早期発見、早期治療を心がけましょう。
医院情報
所在地 | 〒379-2143 群馬県前橋市新堀町1047 前橋みなみモール |
アクセス | 前橋南I.Cすぐ 主要駅「前橋」「高崎」「伊勢崎」 |
診療科目 | 眼科、小児眼科、アレルギー科 |