赤ちゃんの目ヤニ、涙が止まらない「先天性鼻涙管閉塞」 原因・治療法・注意点を解説
新生児に多く見られる先天性鼻涙管閉塞。鼻と目をつなぐ管が閉塞してしまっているため、涙や目ヤニなどが止まらないという病気です。生まれたばかりの赤ちゃんであるため、治療の方針に迷うお父さんやお母さんも多いのではないでしょうか。一体どのように対処すれば良いのか、ごたんだ眼科クリニックの逢坂さやか先生にお聞きしました。
監修医師:
逢坂 さやか(ごたんだ眼科クリニック 院長)
金沢大学卒業。その後、金沢大学医学部眼科学教室入局。八尾総合病院眼科医長、北里大学眼科講師、静岡市立清水病院眼科医長、大崎眼科クリニック院長などを経て、ごたんだ眼科クリニック開設。院内には多彩な検査機器を完備。一般診療に加え、ものもらいの切開や新生児の涙と目ヤニ(先天性鼻涙管閉塞)の治療も行う。患者の気持ちに寄り添い、女性医師ならではのきめ細やかな心配りと声かけで、安心して診察を受けてもらえるクリニックをめざしている。
「先天性鼻涙管閉塞」という病気
編集部
「先天性鼻涙管閉塞」とはどのようなものですか?
逢坂先生
鼻と目をつなぐ管のことを「鼻涙管」と言いますが、この管が何らかの原因で閉塞したり、詰まったりすることがあります。そのような状態を、「鼻涙管閉塞」といいます。そして、生まれつきこの状態にあることを、「先天性鼻涙管閉塞」といいます。
編集部
鼻と目はつながっているんですね。
逢坂先生
涙が出ると、一緒に鼻水が出ることがありますよね。それは、目と鼻がつながっているためです。目と鼻だけでなく、のどもつながっていて、目薬をさすと、のどが苦しくなることがあるのは、そのためです。
編集部
「先天性」ということは、生まれつきということですよね。なぜ、生まれつき鼻涙管が閉塞してしまうのですか?
逢坂先生
本来、まぶたの上にある涙腺で作られた涙は、目頭にある涙嚢(るいのう)内に入り、鼻涙管を伝って鼻から出るという仕組みになっています。しかし赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるとき、鼻涙管が作られるタイミングでうまく通り道ができないと、鼻涙管が閉塞してしまうと考えられています。ただし多くの場合、生後12か月以内に自然と治癒するとされています。学会の報告では、生後12か月以内に自然治癒するのは、全体の約8割といわれています。
先天性鼻涙管閉塞の症状とは?
編集部
先天性鼻涙管閉塞では、どのような症状が見られるのですか?
逢坂先生
泣いていないのに常に目に涙がたまっていたり、下まぶたに涙がたまり、たえず涙が流れ続けたりといった症状が見られます。また、鼻涙管が閉塞しているために雑菌が溜まり、目ヤニが多く出ることもあります。
編集部
合併症のリスクもありますか?
逢坂先生
鼻涙管が細菌感染を起こし、涙嚢炎を合併することもあります。涙や目ヤニが多くなるだけでなく、症状がひどくなると涙嚢の周囲にも炎症が広がり、涙嚢の部分の皮膚が赤く腫れたり、痛みを伴ったりすることもあります。
編集部
ちなみに先天性だけでなく、後天性の鼻涙管閉塞もあるのですか?
逢坂先生
あります。後天性の鼻涙管閉塞は、大きく二つのタイプに分けられます。一つ目は、鼻炎、蓄膿症、ポリープなど鼻の病気が原因で起こったもの。もう一つが、結膜炎など目の病気が原因で起こったもの。後天性の鼻涙管閉塞は、高齢の人に多く見られます。
先天性鼻涙管閉塞の治療は、いつ行うべき?
編集部
先天性鼻涙管閉塞は、約8割が生後12か月で自然治癒するのですよね。そもそも治療は必要なのでしょうか?
逢坂先生
この点は、医師の間でも見解が分かれるところです。1年待てば多くのケースで自然治癒するので、わざわざ赤ちゃんに治療を行う必要がない、と考える医師も少なくありません。しかしお父さんやお母さんの立場からすれば、生まれてまもない赤ちゃんが、たえず涙を流していたり、目ヤニが多くなっていたりするのは、辛いことだと思います。そのため当院では、ご両親のご希望を聞いたうえで、症状がひどい場合は生後6〜12か月の間で治療を行うこともあります。
編集部
先天性鼻涙管閉塞の治療は、どのように行われるのですか?
逢坂先生
通常、段階に分けて治療を進めます。まず行われるのが、点眼治療と涙道マッサージです。マッサージでは、目頭から鼻の付け根にかけて、指で圧迫しながら押し下げ、鼻涙管の閉塞を開放しやすくします。
編集部
それでも治らない場合は、どうするのですか?
逢坂先生
次に行われる治療が、「涙道ブジー」と呼ばれる治療法です。ブジーとは、治療に用いられる金属の細い棒のこと。涙点という、涙が排出される地点からブジーを入れて鼻涙管まで通し、狭くなったり、詰まったりしている涙道を開通させます。大抵の場合、一度しっかり開通できれば涙や目ヤニがなくなります。
編集部
新生児に行う場合、負担は大きくないのですか?
逢坂先生
涙道ブジーの治療自体は、点眼麻酔後、早ければ1〜2分、だいたい5分以内で終わるので、それほど大変なものではありません。ただし、治療を行う時期については眼科医のなかでも見解が分かれていますし、症状によっても異なりますから、いつ、どのような治療を行うべきかは、担当医としっかり相談した方が良いでしょう
編集部
生後12か月経っても治らない場合は、どのような治療を行うのですか?
逢坂先生
その場合は、シリコンチューブを数週間から数か月留置したり、内視鏡手術を行ったりして、開通させることもあります。特に、生後12か月の赤ちゃんは、涙道が大人とほぼ同じように成長しているため、内視鏡手術の方が確実に開通させることができ、再癒着を防げるというメリットがあります。
編集部
当面、治療を見送って自然治癒を待つ場合、日常生活ではどのような点に注意したら良いでしょうか?
逢坂先生
目ヤニがたくさん出る場合は、清潔な布でふきとるなど、常に衛生的な環境を心がけましょう。ただし、それでも目ヤニがたくさん出たり、常に涙が溜まっていたりする場合は、眼科を受診しましょう。放置しておくと、慢性涙嚢炎や急性涙嚢炎など、感染性の病気を引き起こすこともあります。まずは医師の診察を仰ぐことをお勧めします。
編集部
最後にメッセージをお願いします。
逢坂先生
生まれてすぐの赤ちゃんが、強い目ヤニや涙で悩まされる様子を見るのは、ご家族にとってとても大きなストレスになると思います。いつ治療を行うべきかという点は、医師によって大きく見解が分かれますが、まずは信頼できる眼科医に相談すると良いでしょう。1軒だけでなく、2〜3軒眼科を訪ねて、セカンドオピニオンを聞くのもお勧めです。その際、涙道ブジーの治療を行なっているクリニックはそれほど多くないので、できれば、そうした選択肢のあるクリニックで話を聞くと良いでしょう。
編集部まとめ
「生後1年でほとんどの赤ちゃんが良くなる」と聞いても、お父さん、お母さんは、少しでも早くなんとかしてほしいと思うかもしれません。そんなときは、いろいろな医師に意見を聞いてみること。大事な赤ちゃんのことですから、長期的な視点で正しい選択をしたいですね。
医院情報
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アクセス | JR・東急・浅草線「五反田駅」より徒歩4分 |
診療科目 | 眼科、小児眼科 |