「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができない」このウワサの真意に迫る
インフルエンザのシーズンが近づくにつれ、「毎年、予防接種を欠かさず受けている」という人も多いでしょう。そんな中、「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができない」というウワサが一部では浸透しているようです。はたして、その説は本当なのでしょうか。今回は「手稲クローバー耳鼻咽喉科」の関先生に、ウワサの真相を教えていただきました。
監修医師:
関 伸彦(手稲クローバー耳鼻咽喉科 院長)
札幌医科大学卒業。その後、函館五稜郭病院耳鼻咽喉科、厚別耳鼻咽喉科病院にて勤務、札幌医科大学耳鼻咽喉科助教を務める。2015年、北海道札幌市に「手稲クローバー耳鼻咽喉科」を開院。誰もが気軽に訪ねることができて、適切かつ迅速な処置が受けられるクリニックづくりを心がけている。医学博士。日本耳鼻咽喉科学会専門医・補聴器相談医、日本アレルギー学会専門医。
卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができない?
編集部
「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができない」と聞きました。これって本当なのでしょうか?
関先生
たしかに、打てないと思っている人が多いのは事実です。しかし結論からいうと、卵アレルギーがあってもインフルエンザワクチンを接種することはできます。ただし、過去にワクチンを打って重篤なアレルギー症状や全身症状を起こしたことがある人は、接種を見合わせた方がいいと考えます。
編集部
必ずしも、「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種を受けられない」というわけではないのですね。
関先生
そうです。インフルエンザワクチンの製造過程で鶏卵が用いられていることから、過去にそうした説が広まり、今でも一部で信じられているようです。しかし、現在の一般的な認識としては、「卵アレルギーがあってもインフルエンザの予防接種は可能」とされています。
編集部
大丈夫な根拠についても、ご説明をお願いします。
関先生
インフルエンザワクチンによるアレルギー反応は、鶏卵タンパクの混入が原因であると、以前は考えられていました。しかし、最近の研究によって、インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーショックなどの重篤なアレルギー反応は、インフルエンザワクチンに含まれるタンパク質が原因であることが分かりました。卵とは関係ないことが判明したため、卵アレルギーの人がインフルエンザワクチンを接種しても問題ないと考えられるようになりました。
卵以外の食物アレルギーがある場合は?
編集部
インフルエンザワクチン以外にも様々な種類のワクチンがありますが、それらも重篤な卵アレルギーの人は気をつけた方がいいのですか?
関先生
インフルエンザワクチン同様、製造に鶏卵が関与するワクチンには、「麻しん風しん混合ワクチン」と「おたふくかぜワクチン」があります。これらも基本的には、卵アレルギーがあっても接種できます。ただし、卵による重症のアレルギー症状を過去に起こしたことがある場合は、念のため医師に確認してください。
編集部
卵以外の食物アレルギーがある場合、接種しても問題ないでしょうか?
関先生
卵アレルギー以外にも、小麦や牛乳、蕎麦などの様々な食物アレルギーがありますが、これらのアレルギーがあったとしても基本的にワクチンを接種することができます。ただし、卵アレルギーと同様、以前に強いアレルギー症状が出たのであれば医師に相談しましょう。
編集部
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などは関係ありますか?
関先生
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、気管支喘息などのアレルギー体質でも、インフルエンザワクチンを接種できます。しかし、過去にワクチンを受けてひどいアレルギー反応やショック症状を起こしたことがある人は、その旨を接種前に伝えておきましょう。
ワクチン接種ができない場合は、どうやって予防する?
編集部
インフルエンザワクチンを接種することができない場合、どのような対策を講じればいいでしょうか?
関先生
風邪と同様に、マスクの着用や手指消毒、帰宅後の手洗いうがいが重要です。そして、高熱や関節痛、筋肉痛などの症状が出たら、早めに医療機関を受診しましょう。インフルエンザの診断が付けば、「抗インフルエンザ薬」が処方されます。
編集部
抗インフルエンザ薬は、どのタイミングで服用するのが効果的なのですか?
関先生
一般的に「発熱から48時間以内」でなければ、効果がありません。なお、抗インフルエンザ薬には大きく分けて、「飲み薬」、「吸入薬」、「点滴」がありますが、いずれも有効な治療法です。効果が出ないのを避けるためにも、インフルエンザの疑いがあれば、すぐに受診することが重要になってきます。
編集部
ワクチンを接種する以外、予防する方法はないのですか?
関先生
例えば、同居する家族がインフルエンザにかかってしまい、ご自身も感染する可能性が高い場合、抗インフルエンザ薬を使用することで一定の予防効果は期待できます。ただし、あくまでも予防目的であり、治療のために使用するものではないので、保険適用外となります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
関先生
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ワクチンについての認識が広がりました。しかし、いまだに「もうワクチンを打ったから大丈夫」と勘違いしている人も少なくありません。ワクチンを打っても感染症にかかる可能性はあります。他方で、ワクチンを打つことによって期待できるのは「感染症にかかっても重症化しない」という効果です。他人への感染を考えれば、ワクチンを打ったとしても油断は禁物です。誤った情報や出どころが曖昧な情報に惑わされず、落ち着いて行動していただきたいと思います。
編集部まとめ
今回のテーマである「卵アレルギーの人はインフルエンザの予防接種ができない」という説は、一昔前に広まったウワサに過ぎず、現在は接種しても問題ないと証明されているとのことでした。また、今回の説に限らず、不明確な情報が出回っていることが少なくありません。過去にはそれが常識であっても、医学は常に進歩していますし、過去の常識が現在の非常識になっていることも大いにあります。最新の情報にアンテナを張って、冷静な行動を心がけましょう。
医院情報
所在地 | 〒006-0022 北海道札幌市手稲区手稲本町2条4丁目 2-22 手稲メディカルビル 1F |
アクセス | JR函館本線「手稲駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 耳鼻咽喉科、アレルギー科 |