「ストレスが原因で胃潰瘍に…」は少数派、本当に注意すべき点とは
「ストレスが原因で胃に穴が空き、胃潰瘍になってしまった」。こんな話を耳にしたことがある人も多いでしょう。しかし、胃潰瘍の原因のほとんどはピロリ菌の感染です。はたして、ストレスで胃に穴が空くというのは本当なのでしょうか。もし事実なら、どのような機序で胃潰瘍が起こるのかについて、「おおつ消化器・呼吸器内科クリニック」の大津先生に詳しく教えていただきました。
監修医師:
大津 威一郎(おおつ消化器・呼吸器内科クリニック 院長)
昭和大学医学部医学科卒業。その後、さいたま赤十字病院総合臨床内科、消化管内科などで経験を積む。2021年、埼玉県北足立郡に「おおつ消化器・呼吸器内科クリニック」を開院。「地域の方々に安心・安全で適切な医療を提供したい」という想いを掲げ、地域医療に貢献している。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化管学会胃腸科専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会 H.pylori(ピロリ菌)感染症認定医、日本がん治療認定医機構認定医。
気になる胃の痛み、もしかしたら「胃潰瘍」かも
編集部
そもそも胃潰瘍とは、どんな病気なのでしょうか?
大津先生
胃潰瘍とは、胃の粘膜がただれて胃壁が傷ついた状態のことを指します。傷が浅い場合は「びらん」と呼ばれ、深くなると「潰瘍」と呼ばれます。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
大津先生
胃の中では、強力な酸性の胃酸や消化酵素が分泌されています。これらは、食物を消化したり口から入ってきた細菌を殺菌したりする役割を担っています。通常、胃の粘膜は粘液に守られているため、胃酸や消化酵素で溶かされることはありません。しかし、何らかの原因で胃酸の量が多くなり過ぎたり粘液が少なくなったりすると、胃の粘膜層が破壊されて、びらんや潰瘍などを引き起こしてしまうのです。
編集部
胃潰瘍になると、どのような症状がみられますか?
大津先生
みぞおちの痛みや酸っぱいものが口や喉までこみ上げる呑酸(どんさん)、げっぷの頻発、吐き気、食欲不振、体重減少などがあります。また、潰瘍から出血が起こっている場合は、吐血や黒色便がみられることもあります。逆に無症状のものも10%程度あり、高齢者では自覚症状がなく、潰瘍が大きくなることがあります。
編集部
どういった年代の人に多く発症するのですか?
大津先生
以前は、40~50代の男性が顕著でしたが、最近では中高年の女性でも多くみられるようになってきました。その理由は、胃の粘膜を守る粘液は、男女関係なく加齢とともに分泌量が減少するからです。そのため、年齢を重ねるにつれて、胃の不調を訴えやすくなる傾向にあります。
「ストレスで胃に穴が空く」は本当?
編集部
胃潰瘍の原因はなんですか?
大津先生
主な原因は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染です。胃には強酸性の胃酸があるため、昔から細菌はいないと考えられていました。しかし近年、ピロリ菌の存在が胃内で確認され、胃炎や胃潰瘍などに深く関わっていることが判明しました。
編集部
そうなると、やはり除去すべきですか?
大津先生
はい。ピロリ菌が見つかったら、早めに除去した方がいいでしょう。一度、ピロリ菌に感染すると、「抗生物質で完全に除菌するか」、あるいは「胃全体に炎症が広がってピロリ菌が住み続けられなくなるか」のどちらかの状態にならない限り、ピロリ菌は胃の中に住み続けて慢性的に炎症を引き起こします。加えて、胃の粘膜を防御する力が弱まり、胃がんのリスクになることも明らかになっています。
編集部
ピロリ菌以外にも、胃潰瘍の原因はありますか?
大津先生
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用による胃潰瘍が、ピロリ菌と並んで2大原因とされています。NSAIDsは痛み止め(鎮痛薬)として処方されることが多いのですが、実はNSAIDsには、胃の粘膜を保護する粘液を抑える働きがあります。そのため、胃酸によって胃の粘膜が傷つきやすくなってしまうのです。
編集部
よく、「ストレスで胃に穴が開く」と言いますが、ストレスも胃潰瘍の原因になるのですか?
大津先生
はい。イライラや過労、睡眠不足、緊張、不安などといった肉体的・精神的ストレスが、胃潰瘍の原因となることもあります。強いストレスが急激にかかると、急性胃潰瘍を引き起こしやすいということも判明しています。ただし、先述したピロリ菌と痛み止めが胃潰瘍の原因のトップ2で、これらに比べると可能性としてははるかに少ないですね。
編集部
どうして、ストレスが胃潰瘍の原因になるのですか?
大津先生
ストレスが大きくなると胃粘膜を守る防御機能が低下するからです。普段、胃の働きは自律神経によってコントロールされています。しかし、ストレスが大きくなると自律神経がバランスを崩し、胃酸を過剰に分泌したり、胃を守る胃粘膜の機能が低下したりしてしまいます。その結果、胃潰瘍を引き起こすというわけです。
胃潰瘍の治療について
編集部
胃潰瘍は、どのように治していくのでしょうか?
大津先生
内視鏡検査で潰瘍を観察して、露出血管を認める場合には内視鏡的に止血処置をおこないます。血管が太すぎる場合や出血が止まらない場合には、カテーテル治療や手術となります。また、穿孔といって、穴があいてしまっている場合は手術となります。いずれの場合でも薬物療法としては、胃酸の分泌を抑制する薬や胃の粘膜を保護する薬を使用します。しかし、「症状が軽くなった」からといって、自己判断で服薬を中断してしまうと再発を繰り返したり、潰瘍を悪化させてしまったりすることもあります。そのため、医師の指示を守って治療を継続していきましょう。
編集部
そのほかには、どのような治療法がありますか?
大津先生
ピロリ菌感染が原因の場合は、ピロリ菌を除菌します。まずは胃酸を抑える薬の服用を1〜2カ月ほど継続し、胃カメラで胃潰瘍が治ったのを確認してから、ピロリ菌を除去するために抗生物質を1週間服用します。また、非ステロイド系の鎮痛薬が原因の場合は、内服していた薬は中止とします。
編集部
普段の生活で注意することはありますか?
大津先生
ストレスも胃潰瘍の原因となり得ることから、日頃からストレスをためない生活を送ることが大事だと思います。自分にあったストレス解消法を見つけ、規則正しい生活や食事を心がけて、休養もしっかり取るようにしましょう。
編集部
胃と関係が深そうな食生活の面で気をつけることはありますか?
大津先生
「消化のいい食べ物を摂る」、「就寝直前の飲食を避ける」、「暴飲暴食をしない」などを意識しましょう。また、大量の飲酒やコーヒーは胃に負担がかかり、胃潰瘍の原因となることがあります。加えて、喫煙は胃粘膜の血流を低下させ、胃潰瘍の引き金となる可能性があります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大津先生
「重い感じがする」や「チクチクするような痛みがある」など、人によって胃の痛みの訴えは異なります。しかし、どのような場合でも、胃の痛みが長く続くようなら専門医と相談すべきということは共通しています。もしかするとその痛みは、胃潰瘍ではなく、逆流性食道炎や胃がんなどが原因となっているかもしれません。そして、原因がわかれば、適切に治療をおこなうことができます。慢性的な胃の痛みは、日常生活の質を大きく下げるリスクにもなるため、くれぐれも放置しないようにしましょう。
編集部まとめ
「ストレスで胃潰瘍になる」という説には根拠があるとのことでしたが、ピロリ菌と痛み止めが原因のほとんどです。ストレスで胃潰瘍になった場合、潰瘍を治療することも大切ですが、その前に病気の原因となったストレスを取り除くなど、生活を見直すこともときには必要です。自分なりのストレス発散法を知っておいて、日頃から心身ともに健康な生活を意識しましょう。
医院情報
所在地 | 〒362-0806 埼玉県北足立郡伊奈町小室 3188-6 |
アクセス | JR宇都宮線「蓮田駅」 徒歩23分 |
診療科目 | 消化器内科、呼吸器内科、一般内科 |