「多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害と診断された…」妊娠を諦めるしかないの?
排卵障害の一種である「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」。患ってしまうと、排卵しなくなり、自然な妊娠ができなくなってしまうのでしょうか。また、多嚢胞性卵巣症候群とどのように向き合えばいいのか、どのように治療すればいいのか。これらの疑問を、「はらメディカルクリニック」の宮﨑先生に投げかけてみました。
監修医師:
宮﨑 薫(はらメディカルクリニック 院長)
慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学大学院医学研究科修了。国内外における大学病院の産婦人科助教・研究助教授や一般医療機関での産婦人科勤務を経た2020年、東京都渋谷区に位置する「はらメディカルクリニック」の院長就任。医療方針は「最先端の医療で最短の妊娠を」。医学博士。日本産科婦人科学会認定専門医・指導医、日本生殖医学会認定専門医、日本再生医療学会認定再生医療認定医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医。
日本人女性の20〜30人に1人が「多嚢胞性卵巣症候群」
編集部
多嚢胞性卵巣症候群について教えてください。
宮﨑先生
多嚢胞性卵巣症候群は一種の排卵障害であり、文字通り、卵巣に嚢胞がたくさんできてしまう状態のことをいいます。通常、嚢胞とは液体が詰まった袋状のものを指しますが、多嚢胞性卵巣症候群の場合は、うまく育たなかった卵胞が嚢胞化して、卵巣にたくさん作られます。そのため、卵巣が肥大化したり、腫れ上がったりしてしまいます。
編集部
排卵障害の一種なのですね。
宮﨑先生
そうです。排卵がうまくできないということは、不妊の原因にもなり得ます。また、日本人女性にはあまり多くありませんが、多嚢胞性卵巣症候群になると卵巣で男性ホルモンが増え、多毛やニキビなどの「男性化徴候」がみられる場合もあります。
編集部
多嚢胞性卵巣症候群に悩む人は多いのでしょうか?
宮﨑先生
報告によると、「日本人女性の場合は、20〜30人に1人の割合で発症する」と言われていますから、それほど珍しい病気ではありません。
編集部
どのようにして診断されるのですか?
宮﨑先生
主に血液検査と超音波検査で調べます。具体的には、「月経に異常がある(月経不順、無月経)」、「超音波検査により卵巣に卵胞がたくさん連なってみえるのが確認できる」、「血中の男性ホルモンが高値である、またはLH(黄体化ホルモン)が高値で、FSH(卵胞刺激ホルモン)が正常である」といった診断基準をもとに、多嚢胞性卵巣症候群かどうかを診断します。
多嚢胞性卵巣症候群は自然治癒する?
編集部
なぜ、多嚢胞性卵巣症候群が発症するのでしょうか?
宮﨑先生
実のところ、詳しい原因はまだ解明されていませんが、「脳下垂体から分泌されるホルモンの異常」や「男性ホルモンの分泌の増加」が原因ではないかと考えられています。
編集部
多嚢胞性卵巣症候群と診断された場合、治療は必要ですか? 自然治癒することはないのですか?
宮﨑先生
多嚢胞性卵巣症候群は、年齢が上がるとともに症状が治まっていくことが判明しています。しかし、治療せずに放置しておくと、子宮体がんのリスクになることがあります。また、卵胞がうまく育たず定期的に排卵されないと、健康な人に比べて妊娠しづらくなるという問題もあります。そのため、妊娠を希望する場合は速やかに治療を開始し、排卵を促した方がいいでしょう。
編集部
妊娠を希望しない場合は、放置していてもいいのですか?
宮﨑先生
妊娠を希望しない場合でも、治療をおこなうことをおすすめします。理由としては、男性ホルモンの影響によって、「体毛が濃くなる」、「ニキビができる」、「肥満になる」、「血糖値が上昇する」といったリスクが考えられるからです。また、今のところは妊娠を希望しない場合でも、やがて妊娠を望むこともあるでしょう。その際、放置しておくと先述した子宮体がんになる可能性があるので、やはり治療すべきだと考えます。
多嚢胞性卵巣症候群でも、妊娠を諦めないで大丈夫
編集部
どのような治療をおこなうのですか?
宮﨑先生
妊娠を希望する場合は、主に排卵誘発剤を使用して妊娠を促します。排卵誘発剤には、脳の視床下部に働きかけて排卵が起こるようにしたり、直接卵巣に働きかけて排卵を起こしたりする薬があります。
編集部
多嚢胞性卵巣症候群の場合、自然妊娠の可能性はないのですか?
宮﨑先生
いいえ。「多嚢胞性卵巣症候群が軽症」、「年齢が30代前半」、「パートナーの精液に異常がない」といった一定の条件を満たしていれば、排卵誘発剤を使用せず、妊娠しやすい最適な日時に性交渉をもつ「タイミング法」をおこなうこともあります。それでも妊娠が難しい場合は、「体外受精」や「胚移植」を検討していきます。
編集部
一方、多嚢胞性卵巣症候群の患者さんで今すぐ妊娠を希望しない、という場合はどのような治療をするのですか?
宮﨑先生
その場合は、月経をきちんと起こすためにピルを処方するのが一般的です。ちなみに、ピルには体毛が濃くなったり、ニキビができたりする男性化徴候を抑える働きもあります。
編集部
「将来、妊娠をしたいと思った時のために、若いうちに卵子を凍結保存しておく」という話を耳にすることがあります。
宮﨑先生
しばらく結婚する予定はないけれど、いずれ子どもを産みたいという場合は、若くて卵子が健康なうちに、「卵子凍結」をする選択肢もあります。多嚢胞性卵巣症候群によって排卵が難しくなるだけでなく、ホルモン異常を起こしている場合、妊娠しにくい体質になっていることもあります。そのため、将来の妊娠に備えて、若いうちにできるだけ良質な卵子を凍結保存しておくのも、選択肢の1つだと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宮﨑先生
多嚢胞性卵巣症候群と診断されたからといって、妊娠できないということではありません。たまたま排卵した時に性交渉をもてば妊娠することもありますし、排卵誘発剤などを使用すれば妊娠を促すこともできます。多嚢胞性卵巣症候群と診断された場合でも、妊娠を諦めず婦人科医にご相談ください。また、「子どもがほしいけれど月経不順で、タイミングを見極めるのが難しい」という理由で婦人科を受診したところ、検査の結果、多嚢胞性卵巣症候群が見つかったという人もいます。不妊と月経不順で悩んでいる人も、一度、婦人科を受診されたらいいのではないかと思います。
編集部まとめ
妊娠は人生のなかでも、最も大きなイベントの1つです。年齢や既往歴、ライフスタイル、バックグラウンドなどによっても、多嚢胞性卵巣症候群に対する治療の考え方や治療法の選択肢は変わってきます。どんなことも気兼ねなく相談できる婦人科をかかりつけにして、いつでも気軽に相談できる関係を作りたいですね。
医院情報
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診療科目 | 婦人科、不妊治療 |