新しい大腸ポリープの内視鏡切除法「コールドポリペクトミー」、従来の方法との違いは?
大腸カメラの検査でポリープが見つかった場合、切除を考える人も多いのではないでしょうか。近年では、日帰りでも処置をおこなえるようになりました。なかでも低侵襲の「コールドポリペクトミー」という方法は、術後の出血量が少なく、安全な切除法として注目を集めています。一体どのような治療法なのか、従来の方法と比べてどのようなメリットがあるのか。「松風台クリニック」の塙先生に詳しく教えていただきました。
監修医師:
塙 秀暁(松風台クリニック 院長)
日本医科大学医学部卒業。その後、消化器外科を専門にいくつかの病院で経験を積む。2021年、神奈川県横浜市青葉台区に「松風台クリニック」を開業。最先端の医療に加えて、在宅医療を含めた地域医療に携わってきた経験を活かし、「地域のかかりつけ医」になることを目指している。日本消化器病学会消化器病専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会胃腸科専門医・指導医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本超音波医学会超音波専門医、日本外科学会外科専門医ほか。
コールドポリペクトミーは、通電させずに小さなポリープを切除
編集部
大腸ポリープの新しい治療法があると聞きました。
塙先生
コールドポリペクトミーのことですね。大腸にできたポリープを切除する方法の1つであり、対象となるのは1cmまでで、隆起しているような形状のポリープとなります。
編集部
1cmまでの小さなポリープが対象なのですね。
塙先生
これまでは、「5mm未満の微小なポリープは切除せず、経過観察すべき」との考えもありました。ところが、放置した場合、増大したりがん化したりする可能性も指摘されています。また欧米では、大腸内のすべてのポリープを摘出する、いわゆる「クリーンコロン」が推奨されています。そのため、日本でも小さなポリープでも切除した方がいいと考える医師が近年では増えてきました。
編集部
具体的にコールドポリペクトミーとは、どのような治療なのでしょうか?
塙先生
コールドポリペクトミーの一番の特徴は、通電させずにポリープを切除できることです。スネアという金属製の輪のようなものをポリープに引っかけて切り取るか、鉗子(かんし)と呼ばれるハサミのような器具を使って摘み取ります。このコールドポリペクトミーは、近年開発された比較的新しい切除法です。
編集部
コールドポリペクトミーで切除することは、患者さんにとってどのようなメリットがありますか?
塙先生
従来の技法に比べてコールドポリペクトミーは、術後の出血や腸に穴があく「穿孔(せんこう)」のリスクが軽減される、といった報告が多数あります。安心かつ患者さんの体への負担が少ない治療法と言えるのではないでしょうか。
従来の大腸ポリープ治療とコールドポリペクトミーを比較する
編集部
コールドポリペクトミーの導入以前は、どのような治療法が用いられていたのですか?
塙先生
代表的なものとして、「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」と「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という方法があります。EMRは、粘膜の下に薬液を注入して病変を持ち上げ、スネアを引っかけて切り取る方法です。もう一方、ESDは、粘膜の下に薬液を注入して、専用の電気メスで病変の周囲の粘膜を切開し、病変を少しずつ剥離して切除する方法です。通常はEMRの術式が用いられ、ESDは大きな病変や薬液で病変が持ち上がらないケースなどに用いられます。
編集部
どちらも電気を使う方法なのですね。従来の方法とコールドポリペクトミーの違いはありますか?
塙先生
対象となるポリープのサイズが異なります。コールドポリペクトミーは1cmまでの小さなポリープが対象なのに対して、EMRは、もう少し大きなポリープも対象となります。
編集部
具体的に、EMRはどのように治療をおこなうのですか?
塙先生
内視鏡の先端に取りつけたスネアを病変に引っかけて締めつけ、そこに高周波電流を流して切除します。現在、一般に用いられているスネアのサイズが2〜3cmです。そのため、病変の取り残しがない、かつ安全に無理なく一括切除できる大きさの目安が2cm以下となります。
編集部
2cmよりも大きな病変の場合は、どのように切除するのでしょうか?
塙先生
ESDは、2cm以上のポリープについても、内視鏡治療の対象となります。ただし、ESDは高度な技術を要する上に、EMRと比較して穿孔などの偶発症発生率が高いという難点があります。加えて、必ず入院しなければなりません。治療を希望する場合は、主治医とじっくりご相談されることをおすすめします。
治療法の選択基準は「大きさ」
編集部
大腸ポリープの切除をする際、どのようにして切除方法を選べばいいですか? 選択基準が知りたいです。
塙先生
基本的には、ポリープの「大きさ」が判断基準となります。もし、1cm以下の小さなポリープであれば、コールドポリペクトミーが第一選択肢となるでしょう。通電させないため、切除後の出血や穿孔リスクを低く抑えることができ、治療後に行動が制限されるのも数日程度です。また、高血圧などの治療で、血液をサラサラにする薬を使用している人の場合、通常の電気を使う治療法だと、治療後の出血が心配されていました。しかし、コールドポリペクトミーだとそうした薬を内服中でも、治療後の出血リスクが上がらないということが報告されています。
編集部
ポリープが1cm以上の場合は、従来の治療法を選択するということですね。
塙先生
はい。当院でも、明らかに良性の病変や小さい病変はコールドポリペクトミーで安全に切除できるため、積極的にコールドポリペクトミーをおこなっています。しかし、がんが疑われる病変や1cmを超える病変では、EMRを採用しています。
編集部
EMRよりもコールドポリペクトミーの方が、安全かつ負担が少ないと考えていいでしょうか?
塙先生
基本的にはそうなのですが、注意点もあります。コールドポリペクトミーの場合、微小なポリープの取り残しがあるかもしれないので、気をつける必要はあります。EMRのようにポリープを焼き切る方法では余裕を持って切除します。しかし、コールドポリペクトミーだと、周辺組織に取り残しがあるかもしれません。その場合、ポリープの再発リスクとなってしまいます。そのため、がんが疑われる病変の場合や、完璧にポリープを除去したいという場合は、EMRを選択した方が確実かもしれませんね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
塙先生
大腸ポリープが見つかったら、切除を考える人も多いと思います。コールドポリペクトミーでも従来の方法でも、切除後に行動が制限されることはほとんどないので、安心して受けていただければと思います。ただし、コールドポリペクトミーは比較的新しい技術のため、対応している医療機関はそれほど多くありません。コールドポリペクトミーによるポリープ切除を検討する際は、「症例数が多い」、「医師の技術が信頼できる」などを基準に、受診先を選択することを推奨します。
編集部まとめ
欧米で一般的な「クリーンコロン」の考え方が、日本でも徐々に広がっているようです。大腸にポリープが見つかった場合、コールドポリペクトミーを治療選択肢に入れておきましょう。また、どの治療法にせよ日常生活への支障はほとんどないので、ポリープが見つかったら悪化しないうちに切除するのがおすすめです。
医院情報
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診療科目 | 内科・消化器内科・内視鏡内科・外科 |