「高齢出産」を難しくするリスクの正体とは? 専門医が妊娠にしにくくなる理由を解説
「日本産科婦人科学会」によれば、35歳以上が高齢出産となります。かつては30歳以上が高齢出産でした。加齢するほど、卵子の質が低下し婦人科疾患などのリスクが高まるため、妊娠しにくくなる要因は増えるそうです。そこで出産年齢が上昇している今、知っておくべき高齢出産の知識を、横川レディースクリニックの横川智之院長に教えてもらいました。
監修医師:
横川 智之(横川レディースクリニック 院長)
1974年順天堂大学卒業。同大学病院および大学関連病院にて産婦人科の医師として勤務。1981年 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座入局。1995年金町中央病院にて産婦人科開設。2003年横川レディースクリニックを開院。2018年11月に全館リニューアルを行い、分娩台の数を2台から3台に増設。これまで以上に安全で安心のお産をサポートできる環境を整備した。産科を中心に、小児科や婦人科、内科を併設。大学病院に在籍する医師や漢方専門医師の協力のもと、女性の一生に寄り添いながら、専門性の高い医療を提供している。
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高齢出産に定義はないが、35歳以上で「ハイリスク妊娠」
編集部
ずばり、高齢出産は何歳まで大丈夫ですか?
横川先生
はっきりお答えして、「何歳まで」という期限はありません。実際、日本でも50歳で妊娠し、無事出産したという人もいますし、当院でも49歳で出産した人もいます。厚生労働省が公表している、平成30年人口動態統計の、「母の年齢(5歳階級)・出生順位別にみた出生数」を見れば、2018年は全国で68人の赤ちゃんが50歳以上の女性から生まれています。ただし、これには人工受精も含まれているため、自然妊娠での出産はかなり難しいと言えるでしょう。
編集部
自然妊娠での限界は、どれくらいですか?
横川先生
自然妊娠での最高年齢はさまざまですが、一説には45歳程度が限界と言われています。年齢が上がるとともに、妊娠できたとしても流産の可能性が大きくなります。
編集部
「高齢出産」とは、何歳以上のことをいうのですか?
横川先生
高齢出産というと、40代の出産をイメージする方が多いかもしれませんが、実は、高齢出産の定義はそれよりずっと若いのです。日本では、厚生労働省の定義はありませんが、「日本産科婦人科学会」が提唱している高齢初産は、35歳以上の初産を高齢出産と定義しています。
編集部
漠然と持っていたイメージより、だいぶ若い感じがします。
横川先生
日本産科婦人科学会の提唱によれば、出産回数にかかわらず、おおむね35歳以上の妊娠では、それより若い場合と比べてさまざまなリスクが高いので、「ハイリスク妊娠」とされています。つまり、「子供を産む」という点で考えれば、30代半ばでもすでに「高齢」に当たるのです。日本産科婦人科学会が語っている「高齢初産」の定義は、1993年以前は30歳以上でした。しかし現在は、生活スタイルの変化や医療水準の向上、さらに、女性の社会進出などの影響を受け、女性の出産年齢が上がっています。そのため、全体的に高齢出産をする人が増えているのです。
高齢出産が難しい理由 ハイリスク妊娠では流産率が2割以上
編集部
なぜ高齢だと妊娠することが難しいのでしょうか?
横川先生
それは「卵子の質」が高齢になるほど低下するためです。女性は生まれた時から卵子を卵巣内に持っていて、数十年にわたって保持しながら排卵します。このとき、加齢によって数が減少していくだけでなく、質も低下していくことがわかっています。これが卵子の老化現象です。すなわち、年齢の高い女性の卵母細胞ほど卵子に成長するときに問題が起こりやすく、妊娠に結びつきにくい卵子ができてしまうのです。
編集部
ほかに、加齢が与える影響はありますか?
横川先生
年齢が上がると、子宮筋腫や内膜症などの婦人科疾患にかかる割合が増えてしまいます。実は、こうした病気があると妊娠しにくいのです。たとえば、子宮筋腫が大きくなると筋腫が邪魔になり、受精卵が着床したり、お腹の赤ちゃんが成長するのを阻害したりしてしまいます。さらにこうした婦人科疾患は女性ホルモンのバランスの乱れなども伴うため、妊娠につながりにくくなると考えられています。
編集部
年齢が上がるにつれて、障害が多くなるのですね?
横川先生
そのほかにも、30代以降になると仕事で大役を任されるなど、社会的ストレスも大きくなります。そのためにホルモンバランスが乱れ、月経も不定期になるかもしれません。これらの影響を受け、30代後半から自然妊娠の可能性が落ちてきます。30代後半以降で妊娠を望む場合は、自然妊娠にこだわりすぎず、医療に頼る方がベターだと思います。
編集部
高齢になると、出産だけでなく、妊娠すること自体が難しくなるのですね?
横川先生
そのほか、流産のリスクも高まります。厚生労働省が発表している流産率のデータによれば、「34歳以下=10.9%」「35~39歳=20.7%」「40歳以上=41.3%」です。このように、妊娠しづらく、流産しやすいということも、高齢出産を難しくする原因となっています。
生殖補助医療でも、高齢出産より若い人の方が流産リスクは低い
編集部
加齢が進んで閉経が起きることも、高齢出産の壁になっていますね。
横川先生
一般に閉経とは「月経が永久に停止した」状態のことを言いますが、日本人の場合、早い人では40代前半、遅い人では50代後半に閉経を迎えます。閉経を迎えると、排卵や排卵に必要な卵巣の働きが止まるため、妊娠・出産はできなくなってしまいます。ただ、この閉経について、誤解している方が多いのも事実。そもそも、日本産科婦人科学会によれば、「月経が来ない状態が12か月以上続いたときに、『1年前を振り返って』閉経とする」とされています。つまり、今現在、自分が閉経しているかどうか知ることは難しいということ。そのため、自分は「閉経した」と勘違いした結果、妊娠をするケースも少なからずあります。
編集部
もし、高齢で妊娠を望む場合はどうしたら良いのでしょうか?
横川先生
1日も早く専門家に相談することが必要です。現在、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)の技術は著しく進化しています。生殖補助医療には、卵巣から卵子を採取して、体外で精子と受精させ、数日後に受精卵を子宮内に戻す「体外受精」や、ガラス針の先端に1個の精子を入れて卵子に顕微鏡で確認しながら直接注入する「顕微授精」などがあります。もちろん、こうした生殖補助医療を行う場合も、若い方の方が成功する確率が高くなるため、もし、妊娠を望むなら少しでも早めに医師と相談しましょう。
編集部
その場合、どういった医療機関に相談すれば良いでしょうか?
横川先生
通常の産婦人科ではなく、不妊治療を専門とした医療機関を訪れましょう。不妊治療は時間がかかることが多いため、不妊治療の専門機関の方が、効率良く治療を進めることができます。
編集部
高齢出産というと、リスクが高いなどマイナスな点が強調されますが、逆にメリットもあるのでしょうか。
横川先生
出産するまでに豊富な人生経験を重ねている分、精神的なゆとりがあり、経済的な余裕もあることから、落ち着いて出産に臨めることが期待されます。また、若いうちに自分の趣味ややりたいことに時間を使っておけば、母親になるときには子育てに情熱を注ぎやすくなるかもしれません。高齢出産を目指す場合は、母子の健康状態には最善の配慮をして、安全な出産を目指すことが大切です。そのため、かかりつけの婦人科医に相談し、医療機関のサポートを受けるようにしましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
横川先生
当院でも「気づいたら40歳になっていた。これから妊娠を考えたい」と相談を受けるケースがあります。その場合、私は不妊治療の専門機関を紹介しています。30代半ば以降で妊娠したい場合は、自然妊娠にこだわらず、人工的な技術に頼る方がベターだと。ただし、不妊治療には、費用も時間もかかります。ご主人やパートナーとしっかり話し合い、覚悟を持って臨まれると良いでしょう。
編集部まとめ
女性の社会進出が進み、40代で出産する人も少なくない現在。とはいえ、若いときに比べ、妊娠や出産が難しくなるのは確かです。妊娠を希望する場合は、1日も早く専門機関に相談することが重要です。自然妊娠でも人工的な妊娠でも、若い方が好ましいということは覚えておきましょう。
医院情報
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診療科目 | 小児科、産婦人科、内科 |