「太りすぎていると妊娠しにくい」という事実。胎児に悪影響のワケ
「太りすぎていると妊娠しにくい」という事実があります。それだけにとどまらず、妊娠してからも胎児への悪い影響を及ぼすリスクがあると言います。一体、肥満と妊娠にはどのような関係性があるのでしょうか? 横川レディースクリニックの横川智之院長に話を聞きました。
監修医師:
横川 智之(横川レディースクリニック 院長)
1974年順天堂大学卒業。同大学病院および大学関連病院にて産婦人科の医師として勤務。1981年 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座入局。1995年金町中央病院にて産婦人科開設。2003年横川レディースクリニックを開院。2018年11月に全館リニューアルを行い、分娩台の数を2台から3台に増設。これまで以上に安全で安心のお産をサポートできる環境を整備した。産科を中心に、小児科や婦人科、内科を併設。大学病院に在籍する医師や漢方専門医師の協力のもと、女性の一生に寄り添いながら、専門性の高い医療を提供している。
肥満と妊娠の関係性
編集部
妊活する前にダイエットした方がいいのか悩みます。太りすぎていると妊娠しにくいというのは、本当ですか?
横川先生
「太りすぎていると妊娠しにくい」という話は、本当です。実際、「標準体重の1.2倍以上になると、不妊症のリスクが2.1倍になる」という報告があります。ここで大事なのは、太りすぎてしまった原因を知ることです。太りすぎている女性の中には、「糖代謝異常」や「脂質代謝異常」を起こし、それにより、無排卵になっている人がいるからです。また、太りすぎている女性の中には「多嚢胞(たのうほう)性卵巣」という、排卵しにくい症状を合併しているケースもあるので、妊娠を考えている場合は、一度、婦人科で診察してもらうといいかもしれません。
編集部
「太りすぎ」が不妊につながる理由は、いろいろあるのですね。
横川先生
もう1つ、女性ホルモンも関係しています。太りすぎている人は脂肪細胞から女性ホルモンが出ているからです。普段は、脳から卵巣へ「女性ホルモンを出しなさい」という指令が届き、卵巣から女性ホルモンが分泌されるのですが、脂肪細胞からの分泌量が多いと、脳から卵巣への指令がストップしてしまうのです。その結果、卵巣の働きが鈍くなってしまいます。
編集部
「太りすぎている人は、妊娠できない」ということですか?
横川先生
そういう訳ではありません。太りすぎている人でも妊娠することはできます。しかし、妊娠しにくい可能性と、分娩が大変になる可能性が高くなります。
編集部
家族そろって肥満で、親は糖尿病。私はまだ糖尿病と診断されてはいないのですが、妊娠はできますか?
横川先生
両親のどちらかが糖尿病だったり、すでに医師から「糖尿病の気がある」と言われたことがあったりする人は、注意が必要です。なぜなら、糖尿病になりやすい体質の人は、排卵障害を起こしやすく、不妊になりやすいと言われているからです。
編集部
糖尿病でも、妊娠することはできるのですか?
横川先生
妊娠はできますが、血糖コントロールが悪いまま妊娠したり出産したりすると、奇形を持つ子どもの生まれる確率が高まります。また、内科医が血糖をコントロールしてくれる産婦人科でなければお産ができないなど、受け入れられる病院も限られます。妊娠する前に糖尿病があるかどうか検査し、糖尿病が見つかったら必ず治療を進めましょう。現在糖尿病の治療をしている方は、妊活開始前に妊娠しても大丈夫な状態かどうか、糖尿病の主治医の先生に確認しましょう。
肥満が胎児と妊婦に良くない影響を及ぼす可能性
編集部
標準体重をオーバーしている女性が妊活中の場合、妊娠する前にダイエットをした方がいいのでしょうか?
横川先生
肥満の程度にもよりますが、肥満は妊婦にも胎児にも、さまざまなリスクを与えます。そのため、妊娠前にダイエットしておいた方がいいでしょう。また、肥満の人が妊娠するとホルモンの関係でつい食べ過ぎてしまい、気が付くと体重が大幅に増加してしまった、ということも。その点からも、妊娠前に正しい生活習慣を身に付けておくと良いでしょう。
編集部
妊娠中、肥満はどのような悪影響をもたらすのですか?
横川先生
肥満は母体と胎児の両方にとってリスクです。よく知られているのは「妊娠高血圧症候群」。これは妊娠中に高血圧になることで、母体が「けいれん発作」や「脳出血」などを起こす可能性があり、胎児も「発育不全」や「機能不全」などを起こしやすくなる、という病気です。発症の原因は特定されていませんが、肥満の人が多く発症している、という報告があります。
編集部
ほかにどのような悪影響が考えられますか?
横川先生
「妊娠糖尿病」のリスクもあります。これは、妊娠中に母体が高血糖になることで、胎児まで高血糖になってしまう症状のことです。胎児が高血糖になってしまうと、巨大児や心臓肥大などの合併症のリスクが増えてしまいます。
編集部
妊婦の肥満は、胎児にも影響を与えるのですね。
横川先生
通常体型の人よりも高度肥満の人(BMI28以上)の方が、流産や早産の可能性は高まるという報告もあります。昔は、「妊娠中は2人分食べた方がいい」などと言われ、たくさん食べ、太ることが推奨されていましたが、今はむしろ逆です。肥満度が上がるごとに、胎児に良くない影響を及ぼしやすいことを覚えておきましょう。
編集部
「たくさん食べ、体を動かさない方がいい」とされていたのは、昔の話なのですね?
横川先生
一般に、里帰り出産をする人は、出産の前に体重が増えすぎてしまうリスクが高いようですが、これは年配のご家族が妊婦を過度にいたわってしまうケースが多いからだと思います。太りすぎに注意し、適度に散歩などの運動を取り入れながら、健康に配慮した生活を送りましょう。
過度なダイエットもまた悪影響
編集部
妊娠前にダイエットをして、妊娠に悪影響はないのでしょうか?
横川先生
もちろん、痩せ過ぎもまた不妊のリスクが大きいので、ダイエットをする場合も注意が必要です。一般に、標準体重の85%以下となった場合、不妊のリスクは4.7倍になるとも言われています。まずは自分の適正体重を知り、その範囲に入ることを目指しましょう。
編集部
適正体重は、どのように考えればいいでしょうか?
横川先生
一般的に、肥満度を表す体格指数(ボディマス指数=BMI)は「体重kg ÷ (身長m × 身長m)」の公式で算出できます。これを応用して、適正体重は「(身長m × 身長m)×22」の式で示されます。そのほか、標準体重で考える方法もあります。自分の体重が適性かどうかは、BMIまたは標準体重のいずれかでチェックすればいいでしょう。
編集部
妊娠前のダイエットでは、どのようなことに気を付ければいいでしょうか?
横川先生
急激なダイエットをすると、一時的に排卵が止まってしまうこともあり、妊活には逆効果ですので絶対にやめましょう。1か月の減量は3kg未満にとどめることが大切です。私は妊婦に、ひと月1kgまでの減量にすることをお勧めしています。
編集部
妊娠前のダイエットでは、どのような方法が向いていますか?
横川先生
妊娠中に規則正しい生活を継続できるよう、妊娠前から生活習慣を整えておくことです。そのため、妊活中のダイエットは、食習慣と運動習慣を見直すことが基本になります。過度の食事制限は禁物です。バランスの良い食事を意識しましょう。また、散歩など軽い運動を習慣化することも大切です。特に妊娠中、過剰に体重が増えることを避けるためにも、妊娠前から軽い運動習慣を身に付けておくといいでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
横川先生
ダイエットと言うと、「朝食抜き」「夕食抜き」など極端なことを始める人が多いのですが、それだと胎児に必要な栄養素を摂取することができません。ダイエットをする場合は、タンパク質や野菜をしっかり摂ることが大切です。そのうえで、糖質を控えるようにしましょう。バランスの悪いダイエットは悪影響を及ぼしがちなので、必要な栄養素はしっかりと確保するようにしましょう。
編集部まとめ
「太りすぎていると妊娠しにくい」のは事実ですが、とはいえ、極端なダイエットは体を悪くする原因になりがちです。まずは自分の適正体重を知ることが大切のようです。必要に応じて、かかりつけの産婦人科医に相談しながら、無理なくダイエットを進めましょう。
医院情報
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