不安定な気分の変化、もしかしたら甲状腺の病気かも!?
「バセドウ病」や「橋本病」という病名を聞いたことがあるでしょうか。ともに甲状腺の疾患ではあるものの、興奮状態と意欲減退が症状として挙げられるように、それぞれ正反対のベクトルをもちます。はたして、両者が入れ替わることはあるのでしょうか。この謎を「仙川ひろクリニック」の鈴木先生が解説します。
監修医師:
鈴木 博史(仙川ひろクリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵会医科大学系列病院の医局を経て、2014年には東京慈恵会医科大学附属第三病院糖尿病・代謝・内分泌内科医長に就任。その後の2021年、東京都調布市に「仙川ひろクリニック」開院。縁のある地で地域医療に務めている。日本内科学会認定総合内科専門医、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医、日本内分泌学会認定内分泌代謝科専門医・指導医・評議員、難病指定医、日本医師会認定産業医。日本高血圧学会会員。
ホルモンが勝手な指示を出してしまう仕組み
編集部
「甲状腺」ってなかなか聞き慣れないのですが、どういう働きをしているのでしょうか?
鈴木先生
「甲状腺ホルモン」は、体の各部の働きを強めたり弱めたりする“調節役”のような存在でしょうか。脳からの指示とは別に、現場を任されています。例えば、体内温度が高まりすぎたときに、体にたくさん汗をかかせて冷却させるようなイメージです。
編集部
食欲や脈拍、ストレス、冷えなどにも関わっていますか?
鈴木先生
甲状腺ホルモンだけが体調管理をしているとは限りませんが、調節役を自ら買って出ていることも事実です。なお、甲状腺はときどき、脳による指令を無視して“暴走”することがあります。
編集部
必要ないのに、体を働かせすぎていることもあると?
鈴木先生
はい。それが「バセドウ病」の最たる症状です。逆に「必要なのに働いてくれない」ケースもあり、こちらは「橋本病」と呼ばれています。橋本病では、意欲減退や疲れやすさ、代謝低下による肥満、腸の活動低下による便秘などが起きます。
編集部
こうした甲状腺の不調は治るのですか?
鈴木先生
投薬による治療方法が確立されています。ホルモンバランスを正しくすれば治るので、オーバーワークなら「抑える薬」で、ヤル気が出ないなら「励ます薬」で、それぞれ調節していきます。
2つの病気が入れ替わる仕組み
編集部
バセドウ病や橋本病は、両方同時に現れるのでしょうか?
鈴木先生
いいえ、ほとんどのケースは「片方だけ」です。なお、バセドウ病も橋本病も、ともに自己抗体が自分の甲状腺を攻撃してしまう免疫異常の病気といえるでしょう。つまり、バセドウ病を起こす抗体と橋本病を起こす抗体が、それぞれ別に2種類存在しているということです。この2種類の抗体の勢力図が変わると、バセドウ病と橋本病は入れ替わります。
編集部
自己抗体の種類は、調べることができるのですか?
鈴木先生
血液検査で判明します。ただし、抗体があったからといって、症状に出ているとは限りません。また、確認された抗体が自然に消滅していくこともあります。ですから、両方の抗体をもっている場合、勢力図の変化が起きても不思議ではないのです。「若い時はバセドウ病で、年を取ってから橋本病」というケースも散見します。
編集部
たしかに、昨今のコロナ報道で「抗体が長持ちするとは限らない」と聞きます。
鈴木先生
ワクチン接種に関連しての報道ですよね。もちろん、バセドウ病や橋本病の抗体と新型コロナウイルスに向けた抗体を、同一に語ることはできません。ほかにも「一生に一度打てば十分」というワクチンがあります。しかし、大枠では同じような仕組みとしてご理解ください。
自然の増減をさらに加速させる仕組み
編集部
甲状腺の乱調を許している原因は、何でしょうか?
鈴木先生
主な原因は「出産」と「喫煙」の2つです。出産前後の女性ホルモンの乱れによって甲状腺ホルモンの乱れを起こす仕組みは、わかりやすい部類でしょう。出産に関しては、やむを得ないところもあります。一方のタバコに含まれる物質は刺激物ですから、甲状腺の病気に限らず、すべての病気の元凶です。
編集部
ほかに普段の生活で気をつけたいことは?
鈴木先生
定番ですが、十分な睡眠と栄養バランスでしょうか。「○○を食べるとイイ」の類いも、摂りすぎには注意してください。また、新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザを含めたあらゆる感染症に注意しましょう。バセドウ病も橋本病も「免疫疾患」の一種です。新たにかかった感染症によって、それぞれの抗体が興奮して悪化・再発を引き起こしてしまいかねません。
編集部
「気分の上下」と「甲状腺の病気」をどう見分ければいいでしょうか?
鈴木先生
一般人が見分ける必要はありません。病気の診断は医師の専管事項です。したがって、悩まれていることがあったら、ご自分で調べる前に身近な医療機関へご相談ください。加えて、自覚症状に敏感な人とそうでない人がいらっしゃいます。ホルモン値からするとバセドウ病(甲状腺機能亢進症)なのに、「全く平気」と感じている人もいますよね。もちろん、「気にしすぎ」という逆のパターンもあります。繰り返しになりますが、見分けるのは医師の役目です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
昨今、コロナ禍で自律神経が乱れて、バセドウ病や橋本病と似たような症状に悩まれている人を散見します。その際、「我流」でなんとかしようとは考えないでください。受診していただければ、免疫疾患という診断が付いたとしても“付かなかった”としても、適切な治療をご提供いたします。
編集部まとめ
バセドウ病と橋本病は入れ替わることがあるということでした。なぜなら、それぞれ「正反対の病気」というより、「抗体の勢力によって切り替わる親戚のような病気」だからです。そして、出産と喫煙に加え各種感染症への罹患が、このバランスを左右するとのこと。そのため、すでに処方を受けていたとしても、自覚などから変化が感じられたら、「薬の替え時」なのかもしれません。かかりつけ医と相談しつつ、随時、体調管理をおこなっていきましょう。
医院情報
所在地 | 〒182-0002 東京都調布市仙川町1-14-22 花輪ビル1階 |
アクセス | 京王線「仙川駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |