急に胃が痛くなったときの対処法は? 治まったらそのまま放置しても大丈夫?
市販薬やトローチなどで胃痛が治まれば、それで根本的に解決といえるのでしょうか。今回の主題は、この考え方についてです。いつもと同じ生活をしているはずなのに、なぜ、突然胃痛が襲ってくるのか。その原因と真の対処法について、「千住・胃と腸のクリニック」の早坂先生を取材しました。
監修医師:
早坂 健司(千住・胃と腸のクリニック 院長)
防衛医科大学校卒業。2020年、東京都足立区に「千住・胃と腸のクリニック」開院。胃と腸の診療を中心とし、高度医療機関との綿密な連携に努めている。日本消化器内視鏡学会認定専門医・指導医、日本消化器病学会認定専門医、日本内科学会認定医・総合内科専門医。日本胆道学会、日本膵臓学会、日本門脈圧亢進症学会、日本肝臓学会の各会員。
今にはじまった胃痛ではない可能性も
編集部
胃痛の原因には、どんな種類がありますか?
早坂先生
胃炎や潰瘍のような変化・変質を伴う場合と、単に胃腸の動きがおかしくなった場合に分けられるでしょう。前者のような「器質性疾患」は、内視鏡検査や超音波検査、血液検査などで診断できます。病名がわかれば、個々の対策は取ることができます。ところが、後者の「機能性疾患」の場合、検査ではわかりにくいこともあります。どちらの場合も、胃酸の分泌を抑える薬が有効なことが多いですね。
編集部
市販薬の「H2ブロッカー」は処方箋医薬品と同等で、痛みに即効性があると聞いたことがあります。
早坂先生
たしかに、H2ブロッカーは即効性があります。しかし、医療機関で処方できる薬は、より胃酸を抑える効果が強く副作用もあまりないものがあるので、症状が強い場合は受診をおすすめします。また、市販薬で痛みが治まってしまうことで、「真の原因をわからなくさせてしまっている」側面もあると思います。痛みが引いたところで、病気は治癒せずに残っているかもしれません。
編集部
なるほど。急な胃痛って、そのうち勝手に治まることもありますよね?
早坂先生
胃や腸の諸症状は、精神的なストレスによっても起こるため、急に痛んだり日頃はなんともなかったりするのでしょう。なお、放っておいても治る胃痛なのか、治療のような対処法が必要な病気なのかは、医療機関を受診すればわかります。胃痛を繰り返す場合は、ぜひ受診してください。
ピロリ菌の有無に加え、便の様子と発熱に注意
編集部
やはり、その場の対症療法だけではなく、根本解決が必要でしょうか?
早坂先生
そうですね。まずは「自分の体に何が起こっているのか」を知っておくことが大切だと思います。胃潰瘍や十二指腸潰瘍など、ピロリ菌が原因となる疾患であれば、除菌治療により根治可能です。加えて、ピロリ菌の感染自体が発がんの原因となるので、内視鏡での定期的な経過観察を続けましょう。自覚症状の出ない早期胃がんが見つかることもあるので、5年以内に内視鏡検査をしていない場合は検査をおすすめします。
編集部
一方で、治療をしなくてもいい場合はありますか?
早坂先生
たしかにありますが、どのような病気なのかを知った上で生活する方が安心しますよね。やはり、医療機関を受診してしっかり診断をつけるべきでしょう。なお、軽度の逆流性食道炎などは「食べ過ぎに注意する」、「脂っこいものを食べ過ぎない」、「背筋を曲げないようにする」といった生活習慣の改善だけでよくなることもあります。
編集部
食物アレルギーという可能性は?
早坂先生
食物アレルギーを原因とする「好酸球性胃腸炎」という疾患が稀にみられます。ただし、“見る”内視鏡検査では「異常ナシ」と言われることがあるのです。その可能性が疑われるときは、同じ内視鏡でも、“組織を採取する検査”をしておきたいですね。血液検査と合わせて判断します。
編集部
ほか、危険な症例があったら教えてください。
早坂先生
下血や黒い便の多くは、胃や十二指腸から出血しているサインです。速やかに内視鏡検査をする必要があるでしょう。また、高熱は炎症が起きているサインです。「急性胆のう炎」や「胆管炎」、「虫垂炎」の可能性があります。
編集部
受診した結果、原因不明と言われることもあるのでしょうか?
早坂先生
はい。前述した検査に表れてこない機能性疾患ですね。胃腸から痛みを覚える感度が「人より敏感」になっていると考えられています。まずは、薬で症状をコントロールしていくものの、改善がみられない場合、専門医療機関での精査が必要です。
胃の痛みと同等に捉えて構わない症状
編集部
胃のトラブルって痛みに限らないと思うのですが?
早坂先生
ムカムカする感じや胸焼け、胃のゴロゴロする感じ、吐き気などですよね。現在では、これらの症状を抑えられる薬が多数、開発されています。治療によって症状が治まってしまえば投薬の必要はないので、再発しない限り、定期的な受診をしなくても構いません。
編集部
そもそも、痛みの出ている患部が胃ではないことってあり得ますか?
早坂先生
痛みは感覚なので、人により受け取り方が異なります。食道や十二指腸、肝臓、総胆管、胆のう、すい臓などの痛みを「胃痛」と訴える患者さんもいらっしゃるでしょう。あるいは、虫垂炎の初期症状かもしれないので、詳しく調べる必要があります。総じて、「痛みは不調のサイン」です。命に関わる痛みなのかどうかを、早急に調べてみましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
早坂先生
ほとんどの疾患は、自然と治ることが多いとされています。そのうえで、生活の質を下げるような症状は、市販薬で対処できることもあります。一方で、がんのような命に関わる疾患が隠れているのも事実です。そして、両者の鑑別は医療機関を受診しないとわかりません。症状が続く場合や気になる場合は、まず、医療機関を受診してください。何が胃痛の原因となっているのかを理解しておくことが重要です。
編集部まとめ
“急に”胃痛を覚えるのではなく、痛みが出たりひっこんだりしているのでしょう。したがって、「痛いときだけ我慢しよう」という発想は、病気を重篤化させる可能性があります。わかってはいるはずですが、やはり、市販薬でなんとかするよりも医師に調べてもらいましょう。命に関わる痛みだった場合が大変です。
医院情報
所在地 | 〒120-0034 東京都足立区千住1-11-2 北千住Vビルディング1階 |
アクセス | JR、東京メトロ、つくばエクスプレス「北千住駅」 徒歩7分 |
診療科目 | 胃腸科、消化器内科、内視鏡内科、肛門内科 |