どうして体の部位によって体温が違うの? どこで測るのが正解?
このコロナ禍において感染症対策の観点から、日常的に体温測定する機会が増えました。様々な測定方法がありますが、測定方法や測る部位によって体温に違いはあるのでしょうか。今回は、長い臨床経験において数多くの体温測定をしてきた「看護師」の繁さんに体温測定について詳しく伺いました。
監修看護師:
繁 和泉(看護師)
看護学校を卒業後、整形外科、消化器科、呼吸器科、小児科、手術室勤務を経験し、外来診療補助の一環として、放射線科の業務に従事する際はがん検査のPET検査などにも関わり、現在17年目。2児の子どもを出産後、看護師としての勤務をセーブしながら、ライターとしての活動を開始する。自身の経験から少しでもわかりやすく、日常生活に役立てられるような医療系記事を主軸とし、さまざまな分野で情報発信をしている。
目次 -INDEX-
体温の測定部位について
編集部
測る部位によって、体温に違いがあるのはなぜでしょうか?
繁さん
測定する体の部位によって体温が違う理由としては、その部位が体の中心部からどのくらい離れているのか、または測定の際に誤差が生じる環境にあるかなどがあげられます。体温の測定部位は、「腋窩(脇)」「口腔(口)」「直腸(肛門)」などが一般的ですが、最近では、赤外線を使用した体温計で「耳孔(耳)」や「前額部(額)」などで測ることもあります。哺乳類である人間は恒温動物なので、体の内部の中枢温は常に37±0.2℃になるように維持されています。中枢温を測定することで、正確な体温を測ることが可能ですが、中枢温は体の中心部や主要臓器の温度のことであり、皮膚表面の温度とは異なります。
編集部
脇で測る方法が一般的ですよね?
繁さん
一般的に普及している測定方法は、脇で測る「腋窩検温」です。これは、衛生的かつ、体に負担をかけることなく測定が可能で、主要な血管の走行があることから、脇をぴったりと閉じた時に中枢温に近い温度が得られやすいためです。成人の平熱は36.0~37.0℃で、正しく体温測定をするのにおすすめなのは、この「腋窩温」です。一般診療においても、医師や看護師は腋窩検温を多用します。
編集部
口やおしり(肛門)で測るのは、どんな時でしょうか?
繁さん
口の中に温度センサーを挿入して測る口腔温は、より中枢温に近い体温を測定でき、体への負担も少なくすみます。ただし、測定する場所や唾液の量に影響を受け、誤差が出やすいという欠点があります。おもに基礎体温の測定に使用しますが、何らかの理由で腋窩温が測れないときに用いられることが多いようです。また、おしり(肛門)で測る直腸温は、外気温や体液の影響を受けることなく測定できますが、専用の体温計が必要ですので、医療現場で正確な体温管理が必要な手術室やICU(集中治療室)などで使用されます。口腔温、直腸温ともに、腋窩温よりも0.5~1℃ほど高く測定される傾向にあります。
体温計の種類について
編集部
体温計の種類について、教えてください。
繁さん
体温計の種類には、「水銀式体温計」「電子体温計」「耳式体温計」「非接触型体温計」などがあります。水銀式体温計は、最近ではあまり見られませんが、ひと昔前までは一般的でした。水銀体温計はいわゆる「実測式」です。水銀計の溜まり部分を腋窩や口腔などに接触させ、体温で温められることで水銀が膨張し上昇します。その水銀が移動した部分を体温として測定するのが、水銀式体温計です。電子体温計は、「サーミスタ」と呼ばれる熱センサーを利用して体温測定をしています。これには実測式と予測式の両方があります。電子体温計の測定方法は、測定部位により異なりますが、サーミスタが感知した温度を体温として表示しています。また、耳式や非接触型の体温計は赤外線を使用しています。耳孔に沿ってあてることで体温を測定、もしくは、至近距離で赤外線センサーをあてて体温を感知します。
編集部
測定方法の「実測式」と「予測式」とは何ですか?
繁さん
実測式の体温計は、実際に測定する部位の温度変化をとらえ、体温として表示します。その部位の熱伝導を利用し、温度を実際に測定するので正確性は高いのですが、予測式にくらべて時間がかかるのがデメリットです。対して予測式の体温計は平均で1分程度、最近では数十秒で測定結果が表示されるものもあります。これは人間の体温上昇データをもとに、上昇の仕方を予測し、温度表示をしている測定方法になります。
編集部
最近よく見る、赤外線を使った非接触型の体温計はどんなものなのでしょうか?
繁さん
人や物からは温度に比例して赤外線が出ています。非接触型の体温計は、その赤外線量を測定し、体温として変換する方法を用いています。対象者にいっさい触れずに測定できるので、とても衛生的なのがメリットです。しかし、体の表面から出ている赤外線量を測定するので、寒い外から入ってきてすぐに測定すると、誤差が生じやすいなどのデメリットもあります。
正しい体温測定方法を知る
編集部
正しく体温を測るには、何に注意すればいいのでしょうか?
繁さん
誰でも簡単に正しく体温測定をするにおすすめなのは、やはり「腋窩温」での測定です。測定するタイミングは運動や入浴後30分以内は避け、脇の汗をしっかりと拭き取ることが、より正確な体温を測るためには大切です。測り方は脇の下のくぼみ、中央部分に体温計のセンサー部分をあて、ぴったりと脇を閉じます。こうすることで、より中枢温に近い体温を測定できます。そしてアラームが鳴るまで動かずにいましょう。実測式の場合は、その状態で5~10分程待ちます。
編集部
非接触型の体温計しかない場合、どうすればいいですか?
繁さん
その場合は、非接触型の体温計を使用していただいて構いません。医療機関を受診し体温を申告する場合は、「非接触型の体温計で測りました」と伝えてください。
編集部
体温管理で普段から気をつける点があれば教えてください。
繁さん
普段から自分や家族の平熱を知っておくことが大切です。元気な時に数回、体温測定をして平熱を確認しておきましょう。体調が悪いと感じた時に、平常時の体温との有意差がわかるので自分の健康状態を把握するのに役立ちます。
編集部まとめ
測定する部位によって体温が違うのは、体の中心の中枢温からどれだけ離れているか、また測定時の外的環境に左右されるためだということがわかりました。体温計はどの方法でも最近のものは精度が高く、短時間で測定できるようになってきました。医療の進化とともに体温測定の方法も多様化していくでしょう。正しい測定方法を身につけ、健康維持に役立てていきたいですね。