~実録・闘病体験記~ 本来、自分の体を守ってくれるはずの白血球ががん化する、難治性のリンパ腫
水泳の池江璃花子選手が発症したことでも周知が進んだ白血病。今回話を聞いた赤松さん(仮称)も、似たような「血液のがん」を、ほぼ同時期に宣告されました。下された病名は「難治性びまん性大細胞型b細胞リンパ腫」。局所のがんと違って血液のがんは、ただちに摘出することができません。はたして、どのように治療していくのでしょう。そこから我々が学ぶべきことは。「がん」のもつ知られざる側面に迫ります。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年7月取材。
体験者プロフィール:
赤松さん(仮称)
関西圏在住、1992年生まれ。母親との2人暮らしで、診断時は美容・エステ関連の事務職に就いていた。寛解と再発を経た2019年、最終的に判明した正式病名は「難治性びまん性大細胞型b細胞リンパ腫」。各種治療を終えた現在、腫瘍の影はなくなり経過観察中。以前とは別の会社に就職し、日常を取り戻しつつある。
記事監修医師:
楯 直晃(宮本内科小児科医院 副院長)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
目次 -INDEX-
びまん性大細胞型b細胞リンパ腫(DLBCL)とはどういう病気
編集部
「難治性びまん性大細胞型b細胞リンパ腫」とは、どういう病気なのでしょうか?
赤松さん
私としては「血液のがん」という認識です。いくつかある白血球の1種ががん化して、血液に乗って全身を巡っているようなイメージですね。この病気の顕著な自覚症状に「寝汗」や「体重減」があるそうですが、私の場合は一切、起こりませんでした。
編集部
無自覚・無症状だったと?
赤松さん
あえて言えば、受診の直前に、ちょっとだけ「おなかが痛くなった」くらいでしょうか。ですから、最初に受診したのも身近なクリニックで、「盲腸かもしれませんね。精密検査を受けたほうがよさそうなので、ご希望なら総合病院への紹介状を書きますが、どうしますか?」と言われました。
編集部
大きな分岐点ですね。結局は、精密検査を経て発覚したのですか?
赤松さん
別の病院でPET検査を受けることになりました。PET検査で用いる試料はCTに光って反応し、しかも、がん組織のあるところに集まるのだそうです。検査結果を見たところ、卵巣とすい臓に加え、全身が光っていました。なお、最終的な診断は、卵巣の細胞を摘出して判明することになります。
編集部
今回の病名には「難治性」という言葉が含まれていますね?
赤松さん
「難治性」が付されたのは、いろいろな治療を繰り返した後です。実は、抗がん剤の投与や自家造血幹細胞移植をした結果、いったん「寛解」という、PET検査で光らなくなる状態にまでなりました。しかし再発してしまったため、改めて「“難治性”びまん性大細胞型b細胞リンパ腫」と診断されたという経緯です。
編集部
特定部位を意味しない「びまん性」なのに、卵巣やすい臓にも腫瘍があった?
赤松さん
そのほか、骨の中にもがんができていたそうなので、やはり「全身疾患」という扱いなのでしょう。悪さをしているのは血管の中の白血球ですから、どこで何が起こるかはわかりません。卵巣やすい臓の腫瘍は「全身疾患の結果として生じたもの」と理解しています。
ガイドラインの治療だけでは治らなかったびまん性大細胞型b細胞リンパ腫(DLBCL)
編集部
闘病中、仕事や生活は、どうされましたか?
赤松さん
まずは「休職」という扱いにしていただきました。しかし、再発してしまいましたし、相互に納得の上で離職しました。一方の生活は、本当なら細菌やウイルスをやっつけてくれる白血球が正常に機能していないので、主に入院先や自宅で過ごさざるをえません。もともとゲームやパズル類が好きでやっていましたが、さすがに飽きました(笑)。
編集部
先ほど、抗がん剤の話が出ていましたね?
赤松さん
はい。「4週間のうち1週間は入院して抗がん剤の点滴を受け、続く2週間はそのまま入院、残りの1週間で自宅に戻る」というサイクルを、6クール繰り返すことになりました。骨の中に抗がん剤を入れる髄液注射をしたのも、1~4クールの間です。もちろん、抜け毛などの副作用もありました。
編集部
まずは、体の隅々からがん細胞をなくすと?
赤松さん
そういうことだと思います。がん細胞が見られなくなってから、自家造血幹細胞移植という「正常な血がつくれる治療」を受けました。ここで、ひとまず「寛解」を得ることができたようです。しかし、後の経過観察で再発が確認されることになります。
編集部
「難治性」が付されたということでしたよね?
赤松さん
はい。「寛解」と言われてから3カ月後のPET検査で、再び私の体が光ってしまったんですね。この段階で、他の種類の抗がん剤を含め、「確たる治療法はない」との説明がありました。つまり「難治性」ということです。考えられる手としては「骨髄移植」なのですが、ドナーさんがいつ現れるかわかりません。そこで、医師と相談のうえ、「CAR-T療法」を試みることになりました。この治療方法が効いているからなのか、がんを抑えられているようです。
編集部
「CAR-T療法」とは?
赤松さん
簡単に言うと、自分の血液からお薬をつくる治療方法なのだとか。ただし、血液のがんに対して初手から用いられるような治療方法ではないとのことです。難治性のがんや、そもそも移植手術ができない患者に対して検討されるとの説明を受けました。それでも、ドナーさんを待つ必要がありません。骨髄移植の場合ドナーさんの入院費用などもコチラ負担です。ですから、「骨髄移植」と「CAR-T療法」の二択だったら、後者にしようと考えました。
「励まし」も、1歩間違えればフライングに
編集部
実際、赤松さんの医療費はどれくらいかかっているのでしょう?
赤松さん
高額療養費制度があるので、医療費の自己負担額としては月6万円程度です。ただし、入院中の食費や雑費もあるので、トータルの出費は月10万円以上かかっているでしょうか。とにかく、「病気になった事実そのもの」よりも「医療費がどれくらいかかるのか」が心配で、“将来が心配で泣きくれる”という余裕すらありません。ただ、すい臓にがんが見つかった時点で「死」を予感していましたので、「治す方法がある」ということだけでも励みになりました。
編集部
民間の生命保険は加入していらっしゃいましたか?
赤松さん
入っていました。とくに、一時金として支給される“まとまった額”がありがたかったです。使い道がこちらで決められますし、加入していて損はない印象ですね。入院保険も下りたのですが、支給日数に限りがあり、その日数を使い切ると一定期間を空けないと再度給付されなくなってしまいます。そう考えると、「がん特約の診断一時金は必須」という印象です。
編集部
ところで、血液のがんに予防は可能だと思いますか?
赤松さん
難しいのではないでしょうか。私自身、原因までは判明できていません。生活習慣が関係しているというわけでもなく、「突然のもらい事故」という気すらしています。がんの家族歴も心当たりがありませんので、唯一、考えられるとしたら、祖母の「リウマチ」でしょうか。私の担当医も、「免疫疾患という点では遺伝要因があるかもね」と話していました。
編集部
この機に、医療従事者へ望むことは?
赤松さん
悪意はなかったと思うのですが、医療従事者の何気ない一言に傷つくことがありました。じつは、診断がつく前に看護師さんから「これから先、つらいと思うけど頑張って」と言われたのです。私としては、まだがんだと知らされていませんから、心の準備ができていませんよね。せめて告知後だったら、受け止められていたかもしれません。“事情を知っている側”が“事情を知っていない側”に話すときは、よくタイミングや空気に留意すべきでしょう。私にとっては、「完全なフライング」でした。
編集部
言葉としては同じでも、時期によって受け止めが違うと?
赤松さん
難しい部分ですよね。総じて、懇意になっていない段階では、「ある程度の遠慮や気遣い」が必要なのではないでしょうか。ケースによっては、理解者としてそばにいてくれることを強調するより、普通に接していただいているほうが、こちらとしても楽です。「代わってあげたい」というような非現実的な声がけも、私は気に障るかもしれません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
赤松さん
私が最初に受診したのは、日常的な風邪などでたびたび、お世話になっていたクリニックでした。持病の有無に関わらず、「自分のことをよく知っている医師」がいると、初動がブレないのかもしれません。より、親身にもなっていただけるでしょう。患者側にしても、「この先生が言うなら」と信頼を置けます。加えて、もう1点だけ、女性に向けたメッセージがあります。
編集部
なんでしょう、お願いします。
赤松さん
なにかしらの治療が開始される前に、将来的な“妊娠との関わり”を必ず確認しておいてください。医師の言及がなくても、自分から質問しましょう。とくに、抗がん剤の影響は多岐にわたります。投与を終えてから、「じつは、妊娠できなくなりました」では切なすぎます。場合によっては、卵子の凍結保存を前向きに考えてみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
血液のがんの場合、まずは投薬によって全身のがん組織を退治し、その後に「正常な血液をつくれる体」にするプロセスが待っています。正常な白血球をもたないことには外敵に対して無防備な状態であり、難治性に分類されると、選べる治療方法に限りが生じるようです。また、生命保険加入の必要性、周りからの理解、患者へ向けた声がけのタイミング、妊娠の可能性について確認など、「生きた知恵」が伝わってきました。