「胆嚢ポリープ」と診断されたら、精密検査をした方がいいの? 大きくなるスピードで対処方法が違う
企業健診のような「医師と面会する機会が少ない」検査によっては、紙一枚で結果を通知してくるケースもあり得るでしょう。詳しい説明を受ける機会は少ないのが現状です。その中で、「胆嚢ポリープ」が見つかるということは、なにを意味しているのでしょう。健診では聞けない話を、「東長崎駅前内科クリニック」の吉良先生に伺いました。
監修医師:
吉良 文孝(東長崎駅前内科クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。医療機関の入局や医学系企業への参画を経た2018年、東京都豊島区に「東長崎駅前内科クリニック」開院。“生きがい”のサポートを目指した診療を続けている。日本消化管学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会認定医。
自覚の乏しい「胆嚢がん」かもしれない
編集部
どうやら、胆嚢にポリープができているようです。
吉良先生
おそらくは、企業健診や特定健診の超音波検査で見つかったのでしょう。腹部にゼリーを塗ってゴリゴリ当てる検査です。問題はその後ですが、やはり怖いのは「がんなのかどうか」ですね。がんなら組織が大きくなっていくはずですから、大きくなっているかどうかのチェックが必要です。
編集部
つまり、精密検査を受けた方がいいと?
吉良先生
なにをもって精密検査とするかにもよります。1cm以上ある大きめの胆嚢ポリープの場合、すぐに生体検査はおこなわず、CTやMRIにかけてみることが多いでしょうか。また、一部の病院では、先端に超音波装置が装着された内視鏡を胆嚢の近くまで挿入して調べています。
編集部
一般的な企業健診では、医師から直接「精密検査を受けましょう」と言われないですよね。
吉良先生
たしかにそうかもしれませんが、それでも気にされる人は多いようです。当院の場合「半年から1年後に、もう一度検査しましょう」と所見を書くのですが、たいていの患者さんは、すぐに来院されます。ちなみに、企業健診で超音波検査をおこなっているのは臨床検査技師や超音波検査士で、医師ではありません。そのため、改めて「医師に診てもらいたい、意見を聞きたい」と考える人が多いのではないでしょうか。
編集部
今回のテーマは、精密検査を勧められたケースです。
吉良先生
最寄りの内科か消化器内科に電話して、予約を取ってください。このケースで我々医師が恐れているのは“がん”です。CTやMRIで調べて、がんの可能性があり得る場合、胆嚢を摘出する手術をすることがあります。手術の結果、がんではなかったということもあり得ますが、手術をしないと判断ができないケースがあるのも事実です。
胆嚢ポリープ、大きくなるスピードで「がん」の可能性
編集部
そもそも、胆嚢ポリープは「がん」なのですか?
吉良先生
がんの場合と、がんではない場合があります。がんは悪性腫瘍であり、腫瘍とは「増殖する組織」のことです。したがって、ポリープの拡大がみられなければ、腫瘍とはいえません。胆嚢にできた「無害なできもの」というイメージです。定期的な超音波検査は、拡大の有無を調べるためにおこなうものです。
編集部
一方、ポリープが拡大していた場合は?
吉良先生
やはり良性腫瘍の場合と、がんの可能性があります。大きさや拡大スピードにもよりますが、「疑わしい場合は胆嚢を全摘する」のが一般的な進め方です。胆嚢ポリープは胆嚢の内側へ拡大していきますので、“ポリープだけを取る”ということができません。「手術をしてみないと、これ以上の診断はできない」場合、患者さんの同意の下、胆嚢の摘出手術をおこなうことが多い傾向にあります。
編集部
がんだった場合、摘出してしまえば「終わり」でしょうか?
吉良先生
もし、リンパ節転移が起きていると、胆嚢だけの問題ではなくなります。転移が手術後、しばらく経ってから認められることもあります。また、最初から転移が進んだがんの場合、手術では対応できないかもしれません。こうしたケースでは、薬や放射線療法が主体になります。
編集部
胆嚢がんに固有の特徴はありますか?
吉良先生
一例として、「ドレナージ」を続ける必要があるかもしれないことでしょうか。がんで胆道を詰まらせてしまうと、消化液の一種である“胆汁”が体内へたまり続けます。鼻から挿入したりお腹に刺したり、体内に埋め込んだりしたチューブによって、胆汁を抜き続ける必要が生じることを「ドレナージ」といいます。なお、胆嚢がんに限らず、ほかの消化器系のがんでも必要となる場合があります。
自覚が出てからでは遅い、やっかいな胆嚢がん
編集部
気になるのは、胆嚢がんの生存率です。
吉良先生
胆嚢がんの5年生存率は、ステージⅠで6割前後、末期のステージⅣだと2割前後です。がんの中でも“たちが悪い”ので、なおのことポリープの段階で対処したいですよね。「疑わしくは取り去る」の最大の理由でもあります。ですから、要検査と言われた場合は、医師の指示に従ってください。
編集部
胆嚢がんは、自覚がないと聞きます。
吉良先生
そのとおりで、初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。ポリープならなおさらです。検査費用の公的負担から漏れている世代や、特定健診のお知らせが届いていても受診していない人は、早々に検査をしていただきたいです。ゼリーを塗る超音波検査なら、すぐに済みますし、痛みもありません。5年生存率を考えると、発見できたときの対費用効果が“計り知れないほど大きい”印象です。
編集部
一般的な「胃カメラ」を受ける際、ついでに調べてもらえないのでしょうか?
吉良先生
カメラと超音波が一緒になっているような超音波内視鏡は、患者さんにものすごく負担がかかります。また、一般のクリニックでは、ほとんど実施されていません。私自身が検査するとしたら、二度手間になったとしてもカメラと超音波を別々で受けたいですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
吉良先生
超音波検査を担当している検査技師さんの腕は確かです。ただし、医師のような診断はつけられないので、詳しい諸注意などをしていないのでしょう。ですから、「その場で注意されなかった」ことを安心材料にしないでください。診断結果などに記載されている医師の所見を、改めて精読していただきたいです。
編集部まとめ
がんが疑われる胆嚢ポリープは、CTやMRIのような精密検査で再確認します。しかし、それでも診断が付かない場合、確定診断を兼ねた「胆嚢の全摘手術」がおこなわれるとのこと。その最たる理由は、平均すると5割を切る5年生存率の低さです。ステージが初期のうちに調べてもらった方が得策でしょう。加えて、「がんではないかもしれないが、怪しいから取っておく」という発想の切り替えが求められます。
医院情報
所在地 | 〒171-0051 東京都豊島区長崎4丁目7-11 マスターズ東長崎1階 |
アクセス | 西武池袋線「東長崎駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 内科、消化器胃腸内科 |