肛門がかゆくて温水洗浄便座を多用するのは、どうしていけないの?
昨今、温水洗浄便座での洗いすぎによる「温水洗浄便座症候群」という考え方が提唱されているようです。とはいえ、製造中止のような事態に陥っていないからには、「使い方」の問題なのでしょう。正しい利用方法やトイレットペーパーとの併用について、「田島外科」の田島先生を取材しました。
監修医師:
田島 雄介(田島外科 院長)
埼玉医科大学卒業。埼玉医科大学総合医療センターや肛門疾患の専門病院などを経た2019年、「田島外科」を継承。生活習慣病などの内科疾患から外傷などの外科疾患も扱っている。医学博士。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医・指導医、日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本臨床肛門病学会技能指導医、難病指定医、日本医師会認定産業医、埼玉医科大学非常勤講師。日本臨床外科学会、日本遺伝性腫瘍学会、日本消化器内視鏡学会の各会員。
かゆみへの刺激が、かゆみをひどくする
編集部
清潔にしているはずなのに、肛門のかゆみが治まりません。
田島先生
考えられるのは、湿疹やあせもが発端となり、そのかゆみを自分でかいて悪化させているパターンです。就寝中などに、無意識でかいてしまうことがあります。加えて、排便時のトイレットペーパーや入浴時のタオルなどで、強い刺激を与えていないでしょうか。刺激が過ぎると、肛門部のバリア機能を低下させてしまいます。
編集部
でも、下着が汚れるほどの拭き残りって、人として我慢できないです。
田島先生
常識的に、あってはいけないことですよね。そこで推奨したいのが、トイレットペーパーを少しぬらして“ソフト”に拭きとる方法です。かゆみが出ている間だけでも構いませんので、ソフトタッチに努めてみてください。
編集部
温水洗浄便座ならどうでしょう?
田島先生
じつは、肛門のかゆみを伴う「温水洗浄便座症候群」と呼ばれる症例が報告されています。温水を強く、長く当てすぎると、それもまた肛門部のバリア機能を低下させる一因になるのです。なお、温水の刺激で便秘を解消しようとする方がいらっしゃいますが、ぜひ、おやめください。
編集部
肛門のかゆみの原因は、拭き残しに限らないのですね?
田島先生
そのとおりです。湿疹や痔、刺激の多い食事内容、下痢、大腸菌以外の菌への感染なども考えられます。加えて、「肛門への過度な刺激」ですね。かゆみがあるからといって、強い水流を当ててなんとかしようとすると、むしろ悪循環に陥りかねません。
かゆみを伴う病気の可能性も
編集部
お尻のかゆみって、治療対象なのでしょうか?
田島先生
もちろんです。「肛門周囲炎」といって、ほとんどのケースに保険が適用されます。このとき、かゆみを抑えるだけでなく、根本原因へアプローチする治療が欠かせません。例えば、水虫に似た「カンジダ菌」が繁殖しているようなら、殺菌をしていきます。
編集部
専用の塗り薬などで改善していくのですか?
田島先生
軟こうを処方すると同時に、生活習慣が関係しているのであれば、その見直しもしていきます。香辛料の多用はしていないか、下痢に結びつくような食事をしていないか、適切な温水洗浄便座の使い方をしているかなどですね。
編集部
市販薬に頼るのは対症療法に過ぎないのでしょうか?
田島先生
患者さんのお尻の状態が、市販薬の想定内にあるかどうかですよね。例えば、がんの一種であるパジェット病には、市販薬の多くが役に立ちません。単なるかゆみではなく、「痛がゆく」なってきたとすれば、固有の疾患を疑うべきです。
編集部
その場合の受診先について教えてください。
田島先生
「肛門科」や「直腸外来」、「直腸外科」などを標ぼうしている専門医院を推奨します。なぜなら、肛門やその内部が観察できるスコープを有しているからです。一般の皮膚科などに肛門用のスコープがあるとは限りません。
温水洗浄は、最弱に設定して10秒まで
編集部
ほかに、温水洗浄便座の注意点はありますか?
田島先生
先ほど触れた、便秘の解消を目的とした間違った使い方ですね。このとき、肛門内に侵入した温水が、平常時に漏れ出すこともあります。非衛生的な環境になることで、ほかの病気を招きかねません。
編集部
温水洗浄便座を上手に使うコツがあったら教えてください。
田島先生
温水の勢いを一番弱い設定にし、長くても「10秒まで」にしてください。その後、お尻の水気をトイレットペーパーで取るときは、「こすらないで当てる」ようにしましょう。
編集部
なんだかトイレットペーパーを使ったほうがいいような気もしてきました。
田島先生
どうでしょう。やはり、拭きすぎが怖いですよね。温水洗浄便座が「即、悪モノ」というわけではないのです。要は使い方で、むやみに遠ざける必要は“絶対に”ありません。そこは、誤解のないようにしてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
田島先生
肛門がかゆくても、「温水洗浄は弱めて10秒以内」「水気をトイレットペーパーでポンポンと当てながら取る」の2点が守られていれば、温水洗浄便座を使用しても構いません。他方、「水流を強く、長く当てる」「水気をゴシゴシと拭い取る」行為は、症状を悪化させてしまいます。かゆみが出ていない段階でも、工夫してみてください。
編集部まとめ
温水洗浄便座は機器が悪いのではなく、使い方の問題のようです。肛門は、体の皮膚と異なり、粘膜で守られています。その下の皮膚組織をむき出しにするような使い方は、すぐにでも改めましょう。使い方さえ正しければ、物理的なトイレットペーパーによる刺激を伴わない温水洗浄便座は、強い味方になりえます。上手に付き合ってみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒243-0212 神奈川県厚木市及川1-12-15 |
アクセス | 小田急線「本厚木駅」よりバス20分 |
診療科目 | 外科・胃腸内科・肛門外科・整形外科・乳腺外科・内科 |