治療や処方された薬でもアトピーが改善されない場合、どうしたらいいの?
人により、予後の経過が異なりそうな「アトピー性皮膚炎」。その個人差には、どのような要因が絡んでいるのでしょうか。また、なかなか快方に向かわない場合、なにに留意すべきなのか。多くの人が悩むこの問題を、「シャルムクリニック」の櫻井先生に解決していただきました。
監修医師:
櫻井 直樹(シャルムクリニック 院長)
東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院皮膚科入局後、皮膚科や美容、形成外科の領域で勤務医や医長として経験を積む。2011年、生まれ育った千葉県松戸市に「シャルムクリニック」開院。地域に喜ばれる医療を実践している。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本レーザー医学会認定レーザー専門医。日本美容外科学会(JSAS)、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容皮膚科学会、日本抗加齢医学会、日本小児皮膚科学会、日本性感染症学会ほかの各会員。
同じアトピーにも、治りにくいものがある
編集部
病院へ行ったのにアトピーが改善されないのは、どうしてなのですか?
櫻井先生
いろいろな原因が考えられますが、大きく分けると「アトピー性皮膚炎の性格がしつこい(病気の問題)」、「適切な医療がなされていない(医療側の問題)」、「薬の用法・用量が間違っている、かきむしりなどの自傷行為が続いている(患者側の問題)」の3点が考えられます。大前提として、市販薬や民間療法には頼らないでください。
編集部
順番に教えてください。まず「アトピー性皮膚炎の性格」についてです。
櫻井先生
少し難しい話になりますが、お肌の保湿には「フィラグリン」というタンパク質が深く関わっています。このフィラグリンが遺伝子変異によって減少・消失すると、保湿を充分にしてくれません。したがって、治療期間が長期化する傾向にあります。ただし昨今では、効果のある新薬が開発されてきました。
編集部
ほかに、「病気の問題」に関わる注意点はありますか?
櫻井先生
2~3歳の乳幼児の場合、食物アレルギーの影響で、アトピー性皮膚炎を悪化させている場合があります。とくに乳幼児は、皮膚を経由したアレルゲンの取り込みが顕著です。必ずしも“口から”ではないので、気づけていないのかもしれません。スキンケア用品の原材料などに注意しましょう。
編集部
体質診断のようなことって、どの医院でもしてもらえるのでしょうか?
櫻井先生
その先生が、食物アレルギーなどの影響を疑えるかどうかですよね。やはり、標榜科目を問わず、アトピー性皮膚炎の治療実績が豊富な医師への相談を推奨します。なお、生後半年未満の乳児では、血液に十分な抗体価が反映されないことがあります。「プリックテスト」によるアレルギー検査のような代替手段を有しているかどうかも、その医院の診断力に関わってきます。
ステロイドや新薬に対する医師の哲学
編集部
ということは、受診先によって処方内容なども違ってくるということでしょうか?
櫻井先生
あり得る話です。とくにステロイド外用薬に関しては、医師の間でも評価が異なるようです。皮膚科の専門医からすると、非ステロイド薬だけによる治療は疑問ですね。ステロイド薬にしても、「必要な量に満たない薬は、塗っても効果が期待できない」と考えています。
編集部
でも、同じ皮膚科の専門医なら、相違は起きないですよね?
櫻井先生
最新の医療事情や難治療例について、どれだけ勉強をしているかにもよるでしょう。例えば2018年から、アトピー性皮膚炎治療薬としては初となる、生物学的製剤の使用が開始されました。こうした新しい治療方法について、症例数が少ない段階でも積極的に取り入れるのか、周囲の評価が定まるまで待とうとするのかなど、医師の考えが反映されるでしょう。
編集部
では、どうやって適した受診先を選べばいいのでしょうか?
櫻井先生
ほぼ9割の方は、標準的な外用治療によって、快方へ向かうことが可能だと考えています。問題は残りの1割の方で、「標準的な外用治療ではうまくいかないな」となって初めて、ほかの治療選択肢を検討します。このような、“一連の流れや可能性”について言及してくれる医院を選ぶといいのではないでしょうか。
編集部
その一方で、「自然に治る」という話も耳にします。
櫻井先生
昨今、高齢になってもアトピー性皮膚炎が残っている人を散見します。ですから、絶対とは言いきれませんね。加えて、薬の使用から完全に卒業できるのか、中止すると元へ戻ってしまうのかも人によって分かれます。ある程度、「経過に左右される病気」ということをご理解ください。
塗り薬の量は、思っているよりたっぷり
編集部
今度は、「用法・用量と自傷」について、解説お願いします。
櫻井先生
自傷は心当たりがあると思いますので省略しますね。問題は、「塗る薬の量が圧倒的に少ない」ことでしょう。目安となるのは、軟膏を指の先から第一関節まで出した量で、両手のひらに塗る「Finger Tip Unit」という考え方です。塗布した後にティッシュペーパーを乗せてみて、簡単には落ちないくらいの量が適量だと考えます。
編集部
量の意識はなかったです。なんとなく塗っていました。
櫻井先生
「徐々に量を増やして様子をみる」というのは、医学的に意味がない行為です。「適切な量をたっぷり塗って、症状が治まってきたら、医師の指示の元に減らす」のが基本的な考え方といえるでしょう。
編集部
それでも、ステロイドについては、悪い噂も耳にします。
櫻井先生
おそらく、内服薬と外用薬の混同が起きているのではないでしょうか。“飲むステロイド”には、たしかに様々な副作用があります。一方、“塗るステロイド”の場合、成分の多くが皮膚の局所にとどまっています。全身へ回る量は限定されますので、ご安心ください。また、「ステロイドを塗ると黒くなる」のは、治っている証拠です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
櫻井先生
民間療法の中には、いわゆる「アトピービジネス」が含まれているようです。医師とのやりとりで解決しないからといって、民間療法を頼るのは避けましょう。改善されない理由がどこにあるのか上記を参考にしながら、皮膚科の専門医と話し合ってみてください。
編集部まとめ
アトピー性皮膚炎の患者のうち約1割は、残念ながら、遠回りせざるをえないようです。それでも、正解にたどり着くまでは、医師との二人三脚を続けましょう。また、医院のホームページを参考に、処方薬に関する考え方などを調べておきたいところです。最後は塗布薬の使い方ですが、薬を必要としなくなる「完治」と、塗り続けることでアトピーが抑えられる「寛解」の違いに注意しましょう。もし「寛解」状態なのであれば、薬の中止とともに再発する可能性があります。
顔がかゆい、皮膚のかゆみに関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
医院情報
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アクセス | 北総線「秋山駅」 徒歩3分 |
診療科目 | 皮膚科、美容皮膚科、形成外科、美容外科、アレルギー科 |