自宅で要介護者の転倒を防ぐための対策について教えて!
自宅で介護をしている場合、要介護者になんらかのトラブルがあったときのことを考えると、やはり不安ですよね。その中でも、自宅内での転倒によるケガは、よく聞くトラブルの一つです。要介護者の転倒を防ぐために、家族や介護者ができることはあるのでしょうか。今回は、転倒のリスクと対策について、「介護福祉士」の冨松さんにお話を伺いました。
監修介護福祉士:
冨松 智(介護福祉士)
介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームに勤務。その後、サービス付き高齢者住宅に、サービス提供責任者として4年間従事。働き方改革と介護業界の人材教育の問題解決にむけて、2020年に介護従事者対象のオンライン相談を開設。将来の目標は、介護業界のリーダー育成と人材教育。
足腰のリハビリや家の環境を整えることが大切
編集部
要介護者の自宅での転倒やケガは、実際に多いのでしょうか?
冨松さん
そうですね。立ち上がるときや歩行の際、介助が必要な人が転倒して、骨折してしまうケースをよく目にします。介護者の目が行き届いておらず、要介護者一人で動作をおこなった時に転倒してしまうことが多いですね。そのため、一人で歩行するのが難しい人は、歩行器や車椅子の使用をお願いしています。
編集部
あらかじめ要介護者の転倒を防ぐために、できることありますか?
冨松さん
デイサービスや訪問リハビリの利用がおすすめです。体を動かしたり、リハビリをしたりすることで、下肢筋力を維持することが重要です。また、家の中の環境を整えることも転倒防止に効果的です。
編集部
具体的に、どのような環境整備をすればいいのでしょうか?
冨松さん
コード類につまずいて転倒するケースが多いので、足に引っかかりやすいコード類はカバーを付けたり壁に沿わせたりするか、カーペットの下に敷くなどの工夫をして、転倒リスクを減らしましょう。
編集部
ほかにもアドバイスがあれば教えてください。
冨松さん
室内が暗くて足元が見えずに転倒する場面も考えられます。そのため、照明はLEDライトなどの明るめの電球にして、足元が暗くならないように気をつけてください。また、廊下や階段、トイレ、お風呂など転倒しやすい場所には手すりを設置するのがおすすめです。そのほか、履物ではスリッパや靴下は滑りやすいので注意が必要です。裸足が望ましいですが、寒い季節はかかとのある内履きを履くことで転倒防止につながります。
転倒によって頭を打つと危険
編集部
そもそも、要介護者とはどういう人のことを指すのでしょうか?
冨松さん
要介護者とは、運動機能や思考力、理解力の低下によって、日常生活に介助が必要な方のことを指し、介助の頻度で5つの段階に分かれています。介護度が一番低い要介護1の方でも、歩行が不安定で介助が必要な場合があるため、転倒の可能性は十分に考えられます。
編集部
段階が上がれば、なおさら注意が必要だと?
冨松さん
そうですね。段階によってADL(日常生活動作)は異なりますが、歩行が不安定、立ち上がりに介助が必要、日常生活全般に介助が必要、寝たきりなど、身体機能は様々です。そのため介助者が近くにおらず、要介護者が一人で動作したときに転倒してしまうケースが多いですね。
編集部
転倒によって生じる危険はなんでしょうか?
冨松さん
高齢者の転倒に多いのは、骨折や頭部の打撲です。骨折はしていなくても、頭を打った場合、脳の損傷で上下肢に麻痺が生じたり、最悪の場合は生命に危険を及ぼしたりすることがあります。
意識がなければすぐに救急車を
編集部
では、もし転倒してしまった場合、どうしたらいいのでしょうか?
冨松さん
最初に確認をするのは、意識と呼吸があるかどうかです。意識がない、もしくは呼吸をしていない場合、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。無理に体を動かそうとしないことも大切です。打った箇所によっては、動かすことでケガを悪化させてしまうこともあります。
編集部
とっさの判断ができるか不安です……。
冨松さん
たしかにこのようなアクシデントが起こると、パニックになってしまうと思いますが、落ち着いて行動するように心がけてください。救急車が来るまでの間、「大丈夫だよ」、「私はここにいるよ」と声掛けをして、本人の不安を和らげてあげることを心がけてください。
編集部
意識がある場合は、どうしたらいいですか?
冨松さん
意識がある場合は本人が落ち着いてから、どこを打ったのか、痛みがあるか、何をしようとして転倒したのかを確認してください。話を聞いた上で、病院に行く必要があるか判断しましょう。何をしようとして転倒したかが判明すれば、再発防止策を講じることができます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
冨松さん
高齢者と同居されているご家族は、転倒について心配される方が多いと思います。だからといって、行動を制限しすぎてしまうのは、逆効果になりかねません。行動制限は身体機能や認知機能の低下につながるばかりでなく、本人に精神的ストレスを与えてしまいます。行動制限をするのではなく、どうしたら転倒せずに過ごせるかを検討し、転倒したときにどのような対処をとるべきか、シミュレーションをしておくことが大切です。
編集部まとめ
自宅での転倒を防ぐためには、足腰を鍛えるリハビリをはじめ、家の中で転倒しない環境を整えることが大切とのことでした。もし、転倒してしまった場合は、状況に応じて救急車を呼び、しっかりと声をかけて安心させてあげるといいでしょう。転倒を恐れるあまり、行動を制限しすぎるのは逆効果になることもあります。「どうしたら転倒せずに過ごせるか」を予測して対策することに注力しましょう。