便秘の人は鼠径ヘルニア(脱腸)になりやすいの?
便秘は、日常的な悩みだけに“軽く”扱われがちで、自嘲ネタに使われることすらあります。しかし、死に関わる病気の原因になり得るとしたら、捉え方が違ってくるのではないでしょうか。重篤化すると怖い「鼠径(そけい)ヘルニア」と便秘の関係について、「東京デイサージェリークリニック」の柳先生が解説します。
監修医師:
柳 健(東京デイサージェリークリニック 院長)
日本医科大学卒業。大学病院の外科助教や外科クリニック院長などを歴任後の2014年、東京都中央区に「東京デイサージェリークリニック」開院。日帰り外科手術に特化した診療を提供している。医学博士。日本医科大学消化器外科講師。日本ヘルニア学会評議員、日本外科学会外科専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医ほか。
気にならなくても便秘は便秘
編集部
便秘で悩んでいる人って、けっこう身の回りに多い印象です。
柳先生
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、男性で2%台、女性で4%台が便秘に悩んでいるようです。また、この比率は年齢と共に高まり、80歳を超えると男女とも10%台へ上昇してきます。
編集部
「便秘の定義」ってなんですか?
柳先生
日本内科学会では、「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」を便秘と定義づけています。ただし、その状態が気になっているかどうかは別問題で、悩んでいることを「便秘症」といいます。
編集部
メンタルが強い人は、悩まなくていいですよね?
柳先生
そうとは限らないかもしれません。たまった便や宿便の悪影響が、知らず知らずのうちに進んでいることも考えられます。また、切れ痔などのきっかけから「便を出すことへの抵抗感」が生じ、自ら便秘を生じさせている人もいらっしゃいます。
編集部
その結果、肌荒れや体調不良をもたらすということですか?
柳先生
はい。加えて、当院のご相談で多いのが、「鼠径ヘルニア」という病気です。太ももの付け根や下腹部の一部がポケットのように膨れる病気なのですが、その中身は腸です。腸が皮膚を圧迫するほど飛びでているということです。
便秘からヘルニアへ至る仕組み
編集部
たまった便の行き場がなくて、腸を外にはみ出させるのでしょうか?
柳先生
そうではありません。便秘の人ほど「力む」と思うのですが、このときの腹圧が一因となっています。腹圧によって、筋膜が弱くなり、そこから腸が皮下へ出てしまうのです。また、ヘルニアの中身は主に小腸です。
編集部
つまり、いわゆる脱腸が起きていると?
柳先生
そのとおりです。また、排便時の力みに限らず、咳やくしゃみをしたときの力み、重労働やハードなスポーツによる腹圧でも起こり得ます。便秘そのものが原因というより、問われるのは力みです。加えて、加齢による筋膜の衰えによっても生じます。
編集部
ヘルニアが皮膚の外から切れたら、大変なことになりそうです。
柳先生
ヘルニアが皮膚の外から切れることは、“まず”考えられません。膨れたとはいえ皮膚組織がありますし、その下に脂肪も蓄えられています。むしろ憂慮すべきは、腸が詰まってしまう「嵌頓(かんとん)」という症例です。腸閉塞が起きて、生死を左右しかねません。
編集部
鼠径ヘルニアは、手術で治せるんですよね?
柳先生
日帰り手術が可能です。ただし、注意していただきたいのは、「便秘を治しているわけではない」ということです。腸をあるべき場所に戻す“道路工事”であって、“渋滞の解消”は別問題になりますので便秘の治療はほかに必要です。
薬に頼るより、まずは生活の見直し
編集部
つまり、気になっていなくても便秘は治せと?
柳先生
便の硬さは消化器内の通過時間と比例しますから、「便秘の人ほど、硬い便になっている」はずです。すると、便が肛門を通過するときに“都合良く”ほぐれてくれません。よって、力んで通過させようとするわけです。
編集部
ズバリ、便秘解消のコツは?
柳先生
食事内容の見直しと運動習慣ですね。運動といっても、ウォーキングのような軽度なレベルで構いません。いわゆる「筋トレ」ではなく、腸の運動を促すことが目的になります。それでも改善しなければ、お薬に頼りましょう。いずれにしても「便秘外来」を受診すれば、その人に合ったアドバイスが受けられます。
編集部
市販薬に頼ってもいいのでしょうか?
柳先生
お薬が先だと、結局は、根本原因を放置しかねません。やはり、食事療法や運動を優先していただきたいですね。そのうえでなら、市販薬を活用してみてもいいでしょう。よくある「便をどっさり」といった謳い文句のお茶なども有効ですが、一度に“あれもこれも”試みるのは控えてください。どれが効いてどれが効かないのか、わからなくなってしまうからです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
柳先生
鼠径ヘルニアは、ぜひ、日帰り手術で治していただきたいですね。治療を控えていてもヘルニアは待ってくれず、むしろ入院による治療が必要になるかもしれません。入院加療で病棟の患者さんと過ごすと、このご時世ですから、新型コロナウイルスの感染リスクが懸念されます。個室であっても、共有部やスタッフを介した感染は起こり得るでしょう。その点、日帰り手術は「生活の共有」がありません。都心に位置しているとしても、感染リスクの低い医療機関を選び、嵌頓に至らせないことが大切です。
編集部まとめ
鼠径ヘルニアには安全な治療方法が確立されています。必要以上に恐れる必要はないですが、手術を受けたとしても、便秘が治ったわけではないという点に留意しましょう。便秘の解消は、第一に生活習慣の見直しです。また、受診する前に市販薬や健康食品を試してみてもいいでしょう。とにかく「ためないで出すこと」。うまくいかなければ、「医師に頼ること」。その際は、便秘外来を目印にしてください。
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医院情報
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