~実録・闘病体験談~ 「5年生存率は3%未満、ステージⅣの胆のうがんと生きる」
国立がん研究センターの発表によると、胆のう・胆道がんの罹患(りかん)率は約2%とのこと。がんの中では比較的「かかりにくいがん」とされ、初期段階の自覚を伴いません。健診などのスクリーニングが及びにくい“特殊な”がんに対して、我々は、どう立ち向かうべきでしょうか。今回、お話を伺ったのは、ステージⅣの胆のうがんと診断された「TETSUさん(仮称)」。見逃されがちな視点を、実際に起きた事実から見つめ直してみましょう。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2020年12月取材。
体験者プロフィール:
TETSUさん(仮称)
埼玉県在住、1973年生まれ。発症前は一般企業に勤める既婚者で、同居している両親を含めて4人の家族構成。2020年4月に胆のうがんと診断されるも、手術適応が困難なステージⅣに該当したため、抗がん剤による通院治療を続ける。現在、買い物などの日常生活は可能だが、休職して治療に専念している。
監修医師プロフィール:
遠藤 壮登先生(医師)
筑波大学医学専門学群医学類卒業。大学附属病院や総合病院で研修医として経験を積んだ後、手稲渓仁会病院消化器内科医長、筑波大学附属病院消化器内科病院助教に就任。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会認定消化器病専門医。
※遠藤先生は監修医師であり、TETSUさんの担当医ではありません。
体験談から学ぶ「企業健診や一次医療に潜む盲点」
編集部
まずは、胆のうがんと診断された経緯から伺わせてください。
TETSUさん
2020年の3月に急性胆のう炎を発病し、緊急入院の末、胆のうの全摘手術を受けました。その後、病理検査を経て、胆のうがんが見つかったという流れです。じつは入院の前日、みぞおち付近に激痛が走り、救急車を呼んでいたのです。痛みは搬送中には治まったのですが、救急隊の方の助言もあって、翌日、地元の総合病院を受診しました。そうしたら、急性胆のう炎だったというわけです。
編集部
なるほど。その当時は、会社員だったのですよね?
TETSUさん
はい。ですから、企業健診を年に1回は受けていたのです。胆のうの異常については、4年くらい前から「1年後の要経過観察」を指摘されていたものの、痛みなどの自覚がなかったので、とくに精密検査などは受けていませんでした。それが、入院の2カ月くらい前でしょうか。みぞおち付近にたびたび、「内側から熱いコテを押しつけられたような痛み」が伴ってきました。
編集部
痛みが出はじめた段階で、受診はしたのですか?
TETSUさん
右腹部付近にも、しこりと痛みを感じるようになったので、最寄りの一般的なクリニックに相談しました。しかし、そのときの診断結果は「筋肉痛」で、違和感を覚えながらも「病気ではなかったんだ」と安心してしまいましたよね。後に、「専門の医療機関で診てもらわないと」と痛感した一因です。
編集部
がんの家族歴はどうでしょう?
TETSUさん
がんに関しては、親戚を含めて心当たりがありません。ただし、母から、かつて胆のうの病気にかかったことがあると聞いていました。もしかしたら、私の病気と関係しているのかもしれません。
病だけでなく人も診るのが真の医療
編集部
お話を戻します。がんの診断時、医師からはどのような説明がありましたか?
TETSUさん
退院の1カ月後に、全摘手術の経過を確認する再受診が必要だったのですが、がん告知を受けたのは、そのタイミングです。私自身、「全摘して、急性胆のう炎が治った」と思っていましたし、その間、緊急連絡がかかってくるようなこともありませんでしたので、驚きましたよね。よくドラマのシーンにある、家族が呼ばれるわけでもなく、がんの告知が“淡々と”おこなわれた印象です。
編集部
ステージⅣの説明も、そのときに初めて聞いたのですか?
TETSUさん
「詳しく調べないとわからないが、おそらくステージⅢかⅣだろう」と言われました。また、がんが周辺臓器に転移していれば、「外科手術はできない」とのこと。最終的な診断はステージⅣで、胆のうがんのほか、肝臓と腹膜へのがん転移が認められるということでした。
編集部
告知を受け、最初に頭をよぎったことはなんでしょう?
TETSUさん
「このまま死んでしまうんだ」と絶望しました。また、自分と同様に治ったと思っている家族から「どうだった?」と聞かれたとき、「ステージⅣのがんだった」って、さすがにギャップや影響が大きすぎますよね。“医師が患者に”がんを告げるのと、“患者が家族に”がんを告げるのとでは、全く別次元の話でしょう。
編集部
ちなみに、セカンドオピニオンは受けられましたか?
TETSUさん
はい。父親から「がん専門の病院で診てもらってはどうか」と言われたこともあり、すぐに都内にあるがん専門病院の予約を取りました。大きく違っていたのは、「よりがん患者の気持ちに寄り添ってくれる印象が強かった」ということでした。結果として治療計画に違いはなかったのですが、「がん専門病院のほうが治る」という予感すらありました。淡々と話す医師より、患者の不安を受け止めてくれる医師のほうが、私には合っていたようです。
編集部
自身のモチベーションが、回復に大きく関係してくると?
TETSUさん
強く関係していると思います。主治医に命を預けるわけですから、自分で納得できていないと安心できませんよね。加えて、受診している人が“同じがん患者”という点でも、パワーをもらえました。「闘っているのは、自分だけじゃないんだ」と、勇気づけられたように思います。そうした経緯もあり、がん専門病院で治療することにしました。
編集部
ほか、心の支えになったような出来事はありますか?
TETSUさん
「頑張らなくていいからね、自分を甘やかせられるのは自分だけ」という妻の一言が大きな支えになりましたね。仕事や家族のことなど、気がかりな点は多岐に渡りましたが、とりあえず目の前の治療に集中しようと。ほかのことは、甘えてしまおうと。そう思えました。ですから、妻には本当に感謝しています。
がんは、風邪と同様に「ありふれた病気」だからこそ
編集部
現在の様子についても教えてください。
TETSUさん
通院による投薬治療の開始から28週目になりますが、CT画像を見る限りでは、転移したがんが小さくなってきています。体調も、少しずつですが良くなってきているようです。もはや、「がん=死」ではないと考えられるようになってきました。抗がん剤による副作用は当然にしてありますが、「治るのではないかという実感」のほうが大きく上回りますね。抗がん剤に否定的な見方もあるようですが、肝心なのは、「主治医を信頼し、自分で納得して治療に臨めるか」という視点だと思います。
編集部
がんへの向き合い方が見えてきたということですか?
TETSUさん
はい。遠い未来を夢見て生きるのではなく、近い現在をどうやって精一杯、充実感を抱きながら生きていくか。そこが大切だと思っています。前向きな自分が想像できると、がんの治りもよくなるのではないでしょうか。抗がん剤による副作用の影響も同様で、心理的な要素が強く関わっているように感じています。闘病期間をある程度のスパンで分け、その区切りごとに快方がみられると、より闘っていけますよね。がんの予後を分けるのは、治療方法だけでなく、「自分の闘い方」だという気がしています。
編集部
もし、病気にかかる前の自分と話せるとしたら?
TETSUさん
「なぜ、がん検診や人間ドックを受けないんだ」と注意しますね。当時、健診で引っかかった「要経過観察」の症状はなんぞやということを、インターネットなどで調べてみたことがあったのです。すると、「たいしたことない」という情報が多く目につきました。こういうとき、人は自分にとって都合の良い情報だけを選択して信じてしまうので、今考えると「失敗」でしたね。やはり、病院での精査が必要です。
編集部
現在、がんを意識していない人にも一言お願いします。
TETSUさん
公費補助が受けられるがん検診は、「胃がん検診」、「子宮頸がん検診」、「肺がん検診」、「乳がん検診」、「大腸がん検診」の5つで、「胆のうがん検診」を含んでいません。もし検査するとしたら自費にならざるをえないわけですが、がんになってからの医療費のほうが、はるかに上回ります。少しでも自覚や心当たりのある方は、自費であっても、調べてもらうべきでしょう。患部がわからなかったら、人間ドックを活用してください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
TETSUさん
がんは「2人に1人がかかる病気」なのですから、いずれ「職場や家族の2人に1人が、がんを抱えながら生きていく」時代になります。であれば、早期発見に尽きますよね。早期に発見できればできるほど、普通に暮らせるのです。かなり進行してから発見すると、失うものは大きいのです。元の生活には戻れなくなるリスクを、ぜひこの機に知っていただきたいと願っています。
編集部まとめ
受ける医療とは別に、「自分を自分のパワーで治すような側面があるのでは」というTETSUさんの見解。みなさんは、どう感じられたでしょうか。万が一がんを発症したとき、参考にしたい向き合い方です。他方、診断が付けられる前の段階で気をつけたいこととしては、「健康診断を本気で活用しよう」、「インターネットや素人による間接情報ではなく、医療従事者からの直接情報を重視しよう」でしょうか。加えて、受診する医療機関の“専門性”も問われる印象です。
監修医師からのコメント:
遠藤 壮登先生(医師)
TETSUさん、診断に至った経緯や現在の心境を教えていただき、ありがとうございます。
残念ながら術前に良性病変の診断でも、胆のう摘出後に胆のうがんと診断されるケースは1%程度あり、その中にはTETSUさんのように進行した状態でみつかる患者さんもいます。
サポートしてくれる家族がいることや、信頼できる主治医を見つけられたことは本当に良かったと思います。
大変な闘病生活と思いますが、前向きに頑張って治療していってください!