若者でもスマホが原因で緑内障になるってウソ? ホント? 眼科医が解説
インターネット上の情報には、「スマホと緑内障の関係性」を示唆する説が散見されます。また、緑内障そのものの定義も、かつてとは変わってきました。いわば、転換期とも言える状況の中、若い世代のスマホ緑内障は起こり得るのでしょうか。その真偽を、「西條眼科医院」の水落先生に解説していただきました。
監修医師:
水落 誠(西條眼科医院 医師)
聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学病院入職後、関連病院にて白内障などの手術治療および外来診療に約20年間従事。2020年、東京都豊島区に位置する「西條眼科医院」勤務。患者の身になって考える診察に努めている。日本眼科学会専門医、身体障害者福祉法指定医、難病指定医。
距離の近いものを見続ければ、近視は進行する
編集部
スマホが原因で緑内障になることって、起こり得るのでしょうか?
水落先生
「スマホが原因で近視になる」ことと、「近視の影響で緑内障にかかる」ことは、それぞれ事実です。しかし、両者を直結できるかというと疑問ですね。念のため、緑内障専門のドクターに確認してみましたが、「若者がスマホで緑内障になることはない」との回答でした。
編集部
スマホの見すぎで近視が進むのは、素人でもわかりやすい理屈です。
水落先生
距離の近いものを見すぎることによって近視が進むことは、スマホに限らず、テレビや本などとの距離でも言われていました。ただし、スマホは、度を超した近さで見がちですからね。映っている字も小さいですし、目を酷使します。
編集部
他方、近視による緑内障は意外ですね?
水落先生
近眼とは、眼球が前後方向に膨らむことで、網膜にピントを合わせづらくなった状態のことです。極論すると、ラグビーボールのような形の眼球になります。もっとも、前方に飛びだすわけではなく、眼球の奥へ向けて膨らみます。
編集部
緑内障による眼圧上昇と、同じようなことが起きていると?
水落先生
そうではありません。視神経は目の奥のほうに配置されていますので、眼球の形が変われば、その影響を受けます。なお、最近の緑内障の解釈では、必ずしも眼圧上昇を原因にしていません。視神経の異常や減少をもって、緑内障と診断する場合もあります。
そもそも若い世代は、緑内障にかかりづらい
編集部
近視で緑内障になるのなら、やはりスマホが関係していそうですね。
水落先生
どうでしょう。「若者」と限定するなら、やはり、直結はしないと思います。緑内障は通常、中高年の方に起きる病気です。加齢による変化の一形態と言ってもいいのではないでしょうか。
編集部
つまり、緑内障は老化現象だと?
水落先生
視神経の自然死が積み重なった状態だと思ってください。視神経はもともと120万本程度あり、正常な人でも、1年で約5000本程度減少していきます。ただし、100年で50万本減ったとしても、失明には至らない計算です。
編集部
スマホで視神経の自然死が増えることはないのですか?
水落先生
あるとしても、今回の前提は「若者」ですよね。考えられる機序としては、「スマホが原因で近視になる」、「近視の影響で緑内障にかかる」の順番なのですが、どう考えても若者を前提にすると結びつきません。仮に結びついたとしたら、世の中の全ての人間が、緑内障になりかねないです。
編集部
でも、スマホで目が悪くなることは事実ですよね?
水落先生
「目が悪くなる」の意味が「近視」ということなら事実です。また、お子さんの近視が増えていることも確かです。加えて、大人の眼精疲労や、いわゆる「スマホ老眼」なども増えています。
スマホと共存していくには「時間」の管理が重要
編集部
とはいえ、スマホを手放したくはありません。
水落先生
スマホによる悪影響の原因として、「見る距離」と「見ている時間」が挙げられるでしょう。このうち、「見ている時間」のほうが“より悪影響を与える”と考えられます。距離は仕方がないですよね。50cm以上距離を空けられれば理想的ですが、時間のほうがコントロールしやすいと思います。
編集部
ちょっとした連絡や調べ物程度なら、距離は問わなくてもいいですか?
水落先生
そういうことです。逆に1日中、画面を至近距離で見ていると、近視を招きます。このとき、ピントを調節する筋肉である「毛様体筋(もうようたいきん)」を相当に酷使しているのですが、「モノを言わない」ため、気づきにくいのです。
編集部
よく言われるように、合間合間で遠くを見ろと?
水落先生
毛様体筋に力が入るのは、近くを見るときです。遠くを見るときは開放されます。ただし、遠くのポイントを凝視するのではなく、「目の力を抜いてボーっと見る」といいでしょう。もしくは、目をつぶって、完全に休めるかですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
水落先生
スマホで気をつけたいのは、ブルーライトによる身体への悪影響です。24時間の自然なリズムを崩すことが知られています。睡眠や食欲などにも影響してくるでしょう。ブルーライトの蓄積が問われますので、昼夜は関係なく、使いすぎに注意してください。
編集部まとめ
緑内障は、視神経の自然死が積み重なった、老化現象の一種であるとのこと。したがって、老化が起きていない「若者」の緑内障は考えづらいのです。ですが、「若者」という条件を外した将来のことを考えると、手放しで喜んでもいられません。若いときの1時間が、老後の1時間を左右するでしょう。視神経という財産を、いつ、どれだけ使うのか、慎重に見極めてください。
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