脳梗塞の前兆・初期症状はどんなことが起こる? 専門医が解説
厚生労働省の調べによると、脳梗塞による死亡者数は年間で7万人以上とのこと。年齢を重ねるほど発症リスクが高まる脳梗塞に、有効な予防の手だてはあるのでしょうか。発症の可能性を知らせるサインも含めて、「医療法人脳神経外科たかせクリニック」の高瀬先生が解説します。
監修医師:
高瀬 卓志(医療法人脳神経外科たかせクリニック 院長)
大阪医科大学卒業。大阪医科大学脳神経外科助手、北野病院脳神経外科副部長、多根総合病院脳神経外科医長などを歴任後の2008年、大阪府大阪市に「医療法人脳神経外科たかせクリニック」開院。脳の病気の早期発見と治療に努めている。医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会認定頭痛専門医、日本認知症学会専門医。大阪医科大学臨床教育教授。
「脳梗塞」や「脳卒中」の意味をおさらい
編集部
脳梗塞の梗塞って「詰まり」のことですよね?
高瀬先生
はい。脳梗塞とは、脳の血管の詰まりによって、その先の脳組織や細胞を部分的に死なせてしまう障害のことです。似た用語に「脳卒中」があるものの、卒中とは「突然起こる」という意味です。脳卒中による死亡の約60%は、脳梗塞によるものとされています。
編集部
詰まりというと、血の塊である血栓がイメージされます。
高瀬先生
脳梗塞の原因はさまざまにあるのですが、予防法としてできることは“みな同じ”なので、あまり突き詰めて考えなくてもいいでしょう。要は、脳の血管が詰まって“悪さ”をするということです。詰まりのほか、その手前で血管が破裂することもあります。
編集部
水道管が詰まって破裂するようなイメージでしょうか?
高瀬先生
そうかもしれないですね。もっとも、付随する影響としては破裂のほうが怖いですね。端的に言えば、脳梗塞はピンポイント、対する破裂は、出血が幅広い範囲に渡って起こり、脳神経を圧迫します。脳梗塞とは異なりますが、脳内にある「動脈瘤の破裂」の場合、約3分の1の方がお亡くなりになります。
脳梗塞の初期症状、キーワードは「左右片側」
編集部
続いて、脳梗塞の前兆についても教えてください。
高瀬先生
「一過性脳虚血発作」と呼ばれている症状群で、その特徴は、①症状が一時的に起こった後に治まること、②体の左右どちらかに限定して起きることです。左右片側にみられる具体的な症状例としては、まひして動かない、感覚が鈍い、目の見え方がおかしい、発音がしにくいなどですね。
編集部
発作がやがて治まったとしても、安心はできないと?
高瀬先生
そういうことです。「一過性脳虚血発作」を起こした方の約10%が、本格的な脳梗塞へ至ります。ですから、予兆がみられたら、すぐにでも受診してください。元に戻ったことは、「治ったこと」を意味しません。明らかな予兆です。
編集部
平時から、自費になったとしても人間ドックなどを受けておくべきでしょうか?
高瀬先生
企業健診や特定健診を受けられる方なら、それらの検査を活用しましょう。この場合の「活用」とは、再検査などの指示を受けたとき、それに従うことです。なお、異常値がみられた場合の再検査は、保険の対象になります。大前提として、特定健診などを受けられるのに“受けない”のは論外でしょう。
自覚と毎日の習慣が脳梗塞を予防する
編集部
脳梗塞の原因をあまり突き詰めなくてもいいとのことでしたが、詳しく教えてください。
高瀬先生
脳梗塞の原因は結局のところ、高血圧、糖尿病、脂質異常症に集約されます。つまり、生活習慣病ですね。ですから、「バランスの良い食事」、「適度な運動」、「十分な睡眠」などが予防のカギとなります。プラスして、喫煙、飲酒、肥満の回避ですね。実際、こうした項目にひっかかっている方ほど脳梗塞を起こしやすいことがハッキリしています。
編集部
薬やサプリメントなどは、予防法として有効でしょうか?
高瀬先生
生活習慣の改善が先にあって、その後に、不足する部分をお薬などで補ってください。よく、「医者からもらった薬をのんでいるから大丈夫」と言う方を見かけますが、全然、大丈夫ではありません。
編集部
どうしてでしょう? 診断に基づいた処方薬ではないのですか?
高瀬先生
脳梗塞リスクを抱えているという自覚が少ないですよね。本来なら、血圧や体重などを日々、自己測定し、コントロールしていくべきです。そうした毎日の積み重ねが“予防の核”なのであって、「薬をのんでいるからなにもしなくていい」というのは大きな誤解です。また、自覚をもっているだけでも、治療の効果が異なってくると思います。
編集部
日々の運動量や食生活には、個人差があると思いますが、どうしたらいいでしょう?
高瀬先生
企業に属している方なら健康診断、自営業や非正規雇用の方なら40歳以上の特定健診を有効活用してください。個人差も含めて、異常値があぶり出されるでしょう。そのうえで、健診結果に基づいた精密検査時に医師のアドバイスを受けるのが現実的です。実情に合った個別のアドバイスを得られるでしょう。
編集部
無料で利用できる「脳梗塞予防アプリ」もあるようです。
高瀬先生
アプリと紐づけられた「心拍数を計測できる腕時計」なども登場していますよね。不整脈は血の塊である「血栓」をつくることがあり、血管の詰まりの一因とされています。心拍数の計測は日々の自己測定に含まれる工夫といえますので、利用してみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
高瀬先生
脳梗塞は「特別な病気」にあらず、誰にでも起こりえる疾患です。だからこそ、健康診断のような定期的なチェックが有効ですし、自己管理も求められます。また、「生活習慣病を薬だけで治す」という発想は捨て去って、「なぜ、そうなったのか」という原因を取り除いてください。
編集部まとめ
老化の一種と言えそうな脳梗塞は誰にでも起こりえるだけに、「基本的な事柄」が予防法の中核をなします。つまり、健康診断の受診と生活習慣の改善です。総じて、「健康意識を自律して保つこと」が、究極の予防法なのではないでしょうか。薬で健康意識までは治せないことを重々理解しましょう。また、体の左右どちらかに発作が起きたら、「時を置かず」受診してください。
医院情報
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アクセス | JR大阪環状線・大阪メトロ中央線「弁天町」駅前 |
診療科目 | 脳神経外科、内科 |