重い生理は「インナーマッスルの不足」が原因!? これってウソ? ホント?
体を支える筋肉とも言われるインナーマッスル。骨格のゆがみなどが生理の軽重を左右すると考えても、不思議ではありません。また、そうした説も見受けられます。はたして、この両者に医学的な因果関係はあるのでしょうか。「五十嵐レディースクリニック」の五十嵐先生を取材しました。
監修医師:
五十嵐 豪(五十嵐レディースクリニック 院長)
聖マリアンナ医科大学卒業、聖マリアンナ医科大学大学院修了。聖マリアンナ医科大学病院での研修医を経て、聖マリアンナ医科大学産婦人科学講師・産科副部長などを歴任。2020年、「女性の美と健康を守り、すこやかな生活を支えていきたい」との思いから、神奈川県川崎市に「五十嵐レディースクリニック」開院。医学博士。母体保護法指定医、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医・指導医・評議員・学会幹事。
生理とインナーマッスルは関係ある?
編集部
生理とインナーマッスルって、なにか関係があるのでしょうか?
五十嵐先生
インターネット上などでそうした論調が散見されるものの、「関係ない」とみていいのではないでしょうか。産科婦人科のガイドラインでも、インナーマッスル不足を原因の一つに挙げてはいません。重い生理は重大な疾患を否定してから、ピルなどでコントロールしていこうというのが、基本方針です。
編集部
まったくもって「デマ」ということですか?
五十嵐先生
もしかしたら、ヨガのような運動によって自律神経が安定し、生理を落ち着かせる可能性はあるかもしれません。しかし、医師であれば、「生理を重くしている原因はなんなのか、特定の病気が隠れているのではないか」というアプローチの仕方をします。
編集部
インナーマッスルを鍛えるのではなく、産婦人科を受診しましょうということですか?
五十嵐先生
生理痛など、下腹部が痛むときは子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫のような病気、あるいはクラミジア感染症などを疑います。痛みの原因をしっかり見極めてから、年代に合った治療へ結びつけていきます。また、そうしたアプローチが可能なのですから、ぜひ受診していただきたいです。
編集部
原因不明の場合もありますよね?
五十嵐先生
もちろん、病気が認められないケースはあります。そのような方は、病気はないけど生理痛が強い女性、ということになります。生理の出血は、子宮の筋肉が収縮して貯まった血液を排出します。また、排卵の時は、精子を子宮内に引き入れるような動きを子宮の筋肉はします。こうした筋肉の動きが“強すぎる”と痛みとして現れるのです。また、確定診断までには至らないものの、「子宮内膜症のごく初期」の可能性もあります。
編集部
そのような症例では、どう治療していくのでしょう?
五十嵐先生
「筋肉の動きが強すぎるケース」は薬で痛みを抑えていくことから開始し、効果が不十分であればいわゆるピルに移行します。他方の「子宮内膜症などの病気」は、診断した段階からいわゆるピルなどの薬で抑えていくのが一般的な流れです。「女性を生理の悩みからいち早く解放してさしあげよう」、「そのためには早期からの治療介入が必要だね」という考え方が広がってきました。
筋トレは子宮内膜症や子宮筋腫に効果あるの?
編集部
しかし、「骨盤のゆがみ説」などは、なかなか説得力があるように思います。
五十嵐先生
産後なら考えられなくもないですが妊娠前の方に骨盤のゆがみが出て、それによって生理を重くしているとは一般的ではありません。やはり、西洋医学的なアプローチから病気があるかないかをはっきりさせることが優先されるべきです。
編集部
一説によると、大量の月経血を尿のように出すことができるとのことですが本当でしょうか?
五十嵐先生
百歩譲って「筋トレで月経血をコントロールできた」としても、なぜ「月経血が大量なのか」という部分が未解決です。もしかしたら子宮筋腫があって、生理の出血量が多くなっているのではないか、その出血による貧血で体調が優れないのではないか。そのように私なら考えます。
編集部
先生は、筋トレ治療を否定しますか?
五十嵐先生
否定はしません。しかし、聞いたこともありませんので否定も肯定もできません。最も嫌なのは、筋トレ治療なるものをしている間に病気が進行し、後々大がかりな治療を要してしまうケースです。だったら、最初に西洋医学的なアプローチで原因をはっきりさせ、それを改善してから筋トレしても“遅くはないですよね”という立場です。
PMSの対処法
編集部
一方で、PMS(月経前症候群)に東洋医学の一種である漢方薬を用いるケースがありますよね?
五十嵐先生
PMSは生理そのものではなく、月経前の不安やいらいらなどの症状のことです。今、話題になっている子宮内膜症や子宮筋腫などの「生理の裏に隠れている病気のこと」とは異なる病気ですから、勘違いしないようにしましょう。PMSは、症状別に処方される漢方薬も有効です。
編集部
そうでした。「重いPMS」と「重い生理」は、分けて考えるべきでした。
五十嵐先生
PMSが重いから生理も重くなるというわけではありません。重い生理とは、主に子宮のある下腹部に表れる強い痛みや生理の出血量が多いことですよね。ですから、その原因となる病気があるかを調べる必要があります。対するPMSは、吐き気や腰痛のように症状が一定していません。漢方薬やいわゆるピルで治療を行います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
五十嵐先生
インターネットにある医療系の記事は、正しいことの記載もあればそうでないこともあります。自分にとってよい情報が本当に正しいことかどうか、ほかのサイトや専門誌で確認をしてください。専門的な目線を保つための一助として、近隣の病院・クリニックの医師が力になれると思います。自分なりに「なるほどね」と納得してから、治療や行動に移りましょう。
編集部まとめ
インナーマッスルの強化で直接的に生理が軽くなることは証明されていないようです。日本産科婦人科学会もインナーマッスルには言及しておらず、思い月経痛の直接的な原因とは考えにくいでしょう。
もちろん運動は健康のために必要ですが、受診や検査もしっかり受けて明らかな原因がないか確認はしておきましょう。
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