若い人の乳がん検診はお勧めしないという医者もいるけど、結局どっちなの?
がん検診の一部には、国からの公費助成が受けられます。しかし、「乳がん検診」の公的費用助成は、若いと受けることができず、40歳以降が対象となっています。はたして、発症数そのものが少ないとされる「若い女性への乳がん検診」を、自費で受ける必要性はあるのでしょうか。「土屋産婦人科」の土屋先生に、検診を受ける意義について取材しました。
監修医師:
土屋 眞弓(土屋産婦人科 院長)
北里大学医学部卒業、昭和大学大学院医学研究科修了。産婦人科勤務などを経た2013年、東京都練馬区に位置する「土屋産婦人科」の院長を承継。「Total Care For Women」をモットーとし、患者が最初に門をたたく「気軽なよろず相談室」となるべく、診療にあたっている。医学博士。麻酔科標榜医、日本医師会認定健康スポーツ医。日本産科婦人科学会、日本美容皮膚科学会、日本東洋医学会の各会員。
早期発見の必要性は譲れないものの、公費の負担が問題
編集部
乳がん検診の公的費用助成は若いと受けられず、40歳以降となっていますよね?
土屋先生
そうですね。若い方の乳腺組織は発達していて、マンモグラフィでの診断を難しくしているからだと思われます。仮に「ある」としたら写るはずのがん組織などが、乳腺の影に隠れたり乳腺と一緒に写ったりして、鑑別しにくいのです。
編集部
マンモグラフィってなんでしたっけ? 乳腺との関係もお願いします。
土屋先生
マンモグラフィを簡単に説明すると、「乳房をつぶして撮影するX線の画像診断機器」です。得られる画像はモノクロで、濃い乳腺ほど白く写るため、がん細胞が隠れていると見つけにくくなります。一方で、撮影者の技量に左右されにくいため、40歳以上の方に対するスクリーニングとしては適しています。どの医療機関で受けても、結果に“あまり”差が出ないということです。
編集部
若い女性の乳がんへの罹患率(りかんりつ)も気になります。
土屋先生
国立がん研究センターの発表によると、30代までの乳がんの罹患率は0.3%です。他方、40歳を超えると8%、45歳以上では11%と年齢に比例して罹患率は上昇する傾向にあります。公費をかける有用度からしても、若い方のマンモグラフィ検査には疑問が残ります。
編集部
たしかに20代の場合、乳がん検診を受けても、1000人中997人は「空振り」ですからね?
土屋先生
ただし、発症するときは発症します。もし、気にされるようなら、画像診断が比較的正確に付けられる「超音波検査」を推奨します。ただし、超音波を照射するプローブの当て方、端的に言えば「技師の腕」によって、結果に差がでかねません。公平性を欠く側面が“なきにしもあらず”なので、公費の助成対象となっていないのでしょう。ですが、自費扱いになったとしても、30歳を超えたら1年に1回、乳房の超音波検査を受けてみてはいかがでしょうか。
費用をかけずに済む「自己触診」のススメ
編集部
一方で検診には、「病気じゃなくてよかった」という側面もあると思うのですが?
土屋先生
自費ならまだしも、公費負担を前提にすると微妙です。検診の意味は、あくまで「早期発見、早期治療開始」にあると信じています。また、保険の基本的な考え方も、「発症した病気の治療に対する補助」です。ですから、制度の谷間にいる若い女性は、費用のかからない自己触診が欠かせません。
編集部
自分でおこなう触診方法について、詳しく教えてください。
土屋先生
お風呂上がりなどに、クリームなどを付けてなでるように確認します。やり方はさまざまで、迷う方も多いと思いますが、「自分だったらこの触り方が一番しっくりくるな」という方法を見つけてみてください。「正解」はないと思います。理想的なタイミングとしては、月に1回、生理が終わって1週間後あたりの「乳房が張っていないとき」です。
編集部
乳がんの細胞って、触れるとどんな感じなのですか?
土屋先生
さまざまなので、一概には言えません。ただし、周辺の組織と比べ、「そこだけ異質」であることは間違いないでしょう。日頃から、自分の乳房の感覚に“慣れておく”ことも重要ですよね。また、場合によっては、引きつれ感や痛みが伴います。
編集部
違和感があったとしても、「気のせいだったらどうしよう」と悩みそうです。
土屋先生
その心配はまったく不要です。違和感などを覚えたら、ただちに受診してください。最終的に診断を付けるのは「医師の役目」ですから、一般の方が間違ったとしても、むしろ当然です。それより、気のせいかどうか悩んでいる時間の方が問題でしょう。進行の早いがんの可能性もありますので、遠慮せずにご相談ください。
生存率を分ける「初期」で発見するには
編集部
ところで、乳がんの生存率はどれくらいなのでしょう?
土屋先生
国立がん研究センターが公表している5年相対生存率のデータによると、Ⅰ期で99.8%、Ⅱ期で95.7%、Ⅲ期で80.6%、Ⅳ期で35.4%です。乳がんは、早期に発見できれば、予後が良好な病気といえます。
編集部
大きな境目となりそうなⅡ期の病態は?
土屋先生
がん組織の大きさは2cm程度、人によりリンパ節転移が始まりかけているころとされています。やはり、自己触診だけに頼るより、医療機関による検診や検査を定期的に受けていただきたいですね。
編集部
初期の乳がんでも、発見されたら乳房全体を切除されてしまうのですか?
土屋先生
部分的な切除で済みます。大きな腫瘍の場合でも、放射線治療などで小さくしてから切除することが可能です。加えて、乳房再建術が向上してきていますのでご安心ください。ただし、下着を着けていれば目立たない程度の施術跡はどうしても残ります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
土屋先生
若い方の乳がん検診について、私自身の結論は「受けるべき」です。ただし、被ばくの問題や見逃す可能性を含むマンモグラフィより、被ばくそのものがなく精度の高い「超音波検査」で、早期発見に努めていただきたいと考えます。また、自己触診で乳房に違和感があれば、一度ご相談しに来てくださいね。
編集部まとめ
たしかに公費負担を考えると、若い女性に対するマンモグラフィの有用度は問われます。しかし、乳がん検診をお勧めしないのか、あるいは、発症の可能性を放置しておいてよいのかというと、けっしてそうではありません。現状の立て付けとしては自費やむなしですが、気になるようなら、超音波検査を検討してみてください。また、自己検診も大切ですが、大きくならないと触れない、という側面もあります。
医院情報
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診療科目 | 産科、婦人科、美容皮膚科 |