傷が治った跡に赤いミミズ腫れ!? これってどうしてできるの?
治った傷跡に沿って、赤い筋がはみ出てくることはないでしょうか。「にっしん皮フ科・形成外科」の平岩先生によると、こうしたミミズ腫れは、帝王切開の跡などで散見されるのだとか。赤い傷跡の正体と対処方法について、詳しく取材しました。
監修医師:
平岩 亮一(にっしん皮フ科・形成外科 院長)
埼玉医科大学医学部卒業。埼玉医科大学病院医局、東京医科歯科大学勤務、都内美容外科の院長を経た2005年、埼玉県さいたま市に「にっしん皮フ科・形成外科」開院。同年、法人化に伴い、医療法人社団日進会理事長就任。日本形成外科学会、日本美容外科学会、日本コエンザイムQ協会、日本抗加齢医学会の各正会員。医療特許複数保有。
傷をふさぐ補強材だが、増え続ける場合も
編集部
傷の跡に沿って赤い筋ができているのですが、これはなんでしょうか?
平岩先生
もしかしたら、「肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)」かもしれません。赤い筋の正体は、傷を補強する“自然の補強材”で、線維組織からできています。
編集部
なにかの病気ではないのですか?
平岩先生
放っておいても、3年ほどで自然に消えていきます。ただし、傷跡のような見た目は残ってしまいますね。赤みは引いても、肥厚性瘢痕の幅がそのまま残ってしまうイメージです。他方、似たような「ケロイド」という症状の場合、かえってミミズ腫れが拡大していきます。
編集部
赤みが引かないで、増える場合もあると?
平岩先生
そういうことです。ケロイドは、原因不明ですがニキビの炎症が関与している場合が数多く見受けられます。いつまでも傷の中で炎症が続くため、本来補強作用のあるコラーゲン線維が過剰に作られてしまいます。炎症の過程で弱い出血が組織内で続くことで「ロイコトリエン(LT)」という化学因子が出現しますが、ロイコトリエンはアレルギー反応の化学因子ともいわれており、ケロイドは一種のアレルギーとする説もあります。
編集部
ということは、傷がきっかけとならないケロイドもあるのですか?
平岩先生
傷がきっかけになるのは「肥厚性瘢痕」で、やけどの跡などで傷が盛り上がることを、以前は「瘢痕ケロイド」と呼んでいましたが、現在は「肥厚性瘢痕」として疾患名が統一されています。ケロイドは依然として原因不明とされていますが、掻いて傷つけた方向に増大しているようにも見えます。また、ニキビや脂腺増殖が見られることから毛穴の奥の度重なる炎症が一因している可能性があります。毛穴の奥の炎症はかゆみの原因になり、その原因は汗腺分泌物と皮脂の乳化した濃縮物によります。ケロイドがかゆいのは、持続する分泌物性の刺激による毛穴の奥の炎症の持続が関与しているのかもしれません。
切除は逆効果、炎症を抑える治療が中心
編集部
ケロイドは、放置していても治らないということですか?
平岩先生
はい。一般的には、炎症を抑えるステロイドの皮下注射で治療します。なお、肥厚性瘢痕も同様の治し方ができますが、皮下注射ではなく、ステロイドテープを使う場合があります。より刺激を避けた治療方法ですね。
編集部
ケロイドごと切り取って、縫合するやり方はアリですか?
平岩先生
余計にひどくなるかもしれません。原因は「炎症」ですから、炎症そのものを抑えないと、繰り返し発症しかねないのです。ただし、個人的な経験から、「耳たぶのケロイド」には外科手術が有効な場合があります。
編集部
インターネットには、圧迫療法や内服薬も載っていました。効き目はあるのでしょうか?
平岩先生
圧迫療法は、効果が出にくく毎日の治療も大変なのでお勧めしません。また、内服薬の「トラニラスト」も、かゆみが治まる程度です。当院では、いずれの療法もご提案していません。患者さんのご希望にもよりますが、ステロイド注射やステロイドテープといった治療を推奨しています。
根本解決が難しく、体質として根づく場合も
編集部
そもそも、肥厚性瘢痕が生じるのは、どのようなケガでしょう?
平岩先生
同じ場所を繰り返し受傷していると、肥厚性瘢痕ができやすくなります。体が「常に傷ついているから、補強材を多めに出さないと治しきれない」と察知しているように見えます。ですから、スポーツは要注意ですね。例えば、サッカーをしているお子さんは、膝によくできます。
編集部
ケロイドが生じやすいケガについても教えてください。
平岩先生
ケロイドの原因は未だ不明で、ケロイドになりやすい怪我はありません。
編集部
ケロイドに「兆し」のようなものはありますか?
平岩先生
傷が治っていく段階で、固く“盛り上がってきたら”、ケロイドの兆候とみていいでしょう。かさぶたではなく、かさぶたの下にできた新しい組織に注目してください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
平岩先生
肥厚性瘢痕やケロイドには、なりやすい体質のようなものがあります。一度、発症が認められたら、レーザー脱毛やホクロ・アザの除去などにはご注意ください。とくに顔の美容整形は慎重に考えましょう。肥厚性瘢痕やケロイドができてしまうかもしれません。
編集部まとめ
肥厚性瘢痕やケロイドの仕組みは、いまだ解明されていません。予防も困難ですし、できてしまってから「炎症を抑える」しかなさそうです。過去に肥厚性瘢痕やケロイドを経験したら、将来の可能性を留意しておきましょう。選べるのであれば、外科手術より、保存療法を優先します。また、そのときの主治医に、過去症例を話しておくことも大切です。
医院情報
所在地 | 〒331-0823 埼玉県さいたま市北区日進町2−925 1KTDビル2F |
アクセス | JR「日進駅」 徒歩12分 |
診療科目 | 皮膚科、美容皮膚科、形成外科 |