子宮頸がん予防の「HPVワクチン」は男性も接種したほうがいいって本当?
9価HPVワクチンの国内承認と前後して注目されてきたのが、男性に対するHPVワクチン接種の是非です。HPVワクチンは主に、“女性の子宮頸がん”を予防する目的で普及されてきました。なぜ、ここにきて男性の接種が問われはじめているのでしょう。「ナビタスクリニック」の理事長である久住先生に解説いただきました。
監修医師:
久住 英二(ナビタスクリニック 理事長)
新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科勤務、東京大学医科学研究所勤務を経た2008年、「ナビタスクリニック立川」開院。2014年には法人化により、医療法人鉄医会理事長就任。現在、新宿・立川・川崎の三院で、駅に直結した「通いやすい」医療を心がけている。
足のイボからのどのがんまで、HPV感染症は多彩
編集部
HPVがもたらす病気って、女性の子宮頸がんに限らないのですか?
久住先生
限りません。HPV、つまり、ヒトパピローマウイルスは、様々な病気の原因になりえます。男性で多いのは「中咽頭(ちゅういんとう)がん」というのどのがんで、好発年齢は50歳以降です。HPVワクチンの接種を勧奨しているアメリカでは、若い女性の子宮頸がんより、男性の中咽頭がんの罹患率のほうが多くなってきています。もはや「HPV関連疾患は、男性の病気」という意識になりつつありますね。
編集部
中咽頭がんの感染経路は?
久住先生
HPV関連がんに対し「好色な人が発症するがん」という誤った印象があります。HPVは“そこら中”にいて、手足にイボをつくるウイルスでもあります。中咽頭がんの場合のHPV感染ルートは明らかではありませんが、オーラルセックスなど性交渉のほか、食事の時に手から食べ物に付着したウイルスでの感染もありえるでしょう。
編集部
問題は、HPVワクチンが中咽頭がんの予防に有効かどうかです。
久住先生
そうですね。50代の男性の中咽頭がんが減少してきて初めて、「今、接種しているワクチンが効いた」と言えます。しかし、世界でも先駆けとなったアメリカは2009年9月、9歳から26歳の男性へ向け、HPVワクチン「4価ガーダシル」の使用を承認しました。つまり、当時26歳だとしても、2020年でまだ37歳ということになります。好発年齢の50歳に届かないため、ワクチンの有意な効き目は、いまだ確認されていません。
編集部
ワクチン接種の効果が問われるまで、あと20年くらいはかかるということですか?
久住先生
かかるでしょうね。しかも、中咽頭がんは、早期発見するための検診方法や、その有効性が確立していません。リンパ節にがんが広がって進行がんになってから診断されるようなケースが多いことも、解決すべき問題です。予防ができるなら、それが一番です。
5年生存率は7割から8割、防げるなら防ぎたい中咽頭がん
編集部
HPV感染から中咽頭がん発症までの期間は、どれくらいあるのでしょう?
久住先生
女性の子宮頸がんの好発年齢はおよそ25歳から、性交渉開始から「おおむね10年後以降」ということを考えると、中咽頭がんでは「10年以上前の感染」ということが推測できます。このように感染から発がんまでの潜伏期間が長いので、HPVに「いつ、感染した」のかは、特定しづらいんですよね。いずれにしても、HPV関連疾患としての中咽頭がんが今後、注目されてくることは間違いないと思われます。
編集部
中咽頭がんの患者数や生存率についても教えてください。
久住先生
国立がん研究センターの発表によると、診断の付いた1年間の罹患者数は約1800人、男性5に対し女性は1という男女比になっています。5年生存率は、初期なら80%以上、末期だと70%を下回ります。
編集部
「予後がいい」とは言いづらいですね。一方、ワクチン接種の副作用は?
久住先生
「4価ガーダシル」を例に取ると、軽微な反応がほとんどの方に出るも、重篤な副作用は認められていません。軽微な反応としては、「注射の痛さ」、「注射液が入ってくるときの重たい感じ」、「筋肉痛」などで、どの注射にもいえることです。なお、ワクチンの副作用とされる「全身の痙攣」や「人の顔の区別がつかない」は、世界的にはHPVワクチンとは無関係とされています。
編集部
従来の4価にしても、新しく承認された9価にしても、男性の接種は自費ですよね?
久住先生
自費です。なお、接種希望の方は、医療機関がワクチンを常備していない場合も考えられますので、事前に予約するといいでしょう。当日、アナフィラキシーが心配な方は、接種後に15分程度、待機していてください。問題なければ、帰宅していただいて結構です。
感染症に敏感な今こそ、なんでも聞けるかかりつけ医をもつ
編集部
中咽頭がん防止のためのHPVワクチン接種って、これから周知されそうですか?
久住先生
現状はまだ、女性の子宮頸がん予防という目的のほうが大きいでしょう。しかし、SDGs(持続可能な開発目標)の掲げる「ジェンダー平等」という観点からも、男女差を放置しておくのは好ましくありません。将来的にデータがそろってきたら、男女問わず、中咽頭がん防止目的としての接種を広めてもいいのではないでしょうか。
編集部
医療従事者側の意識はどうでしょう? 変化が感じられますか?
久住先生
すでに耳鼻咽喉科で腫瘍を専門にする医師は、HPVが中咽頭がんのリスクとなることを積極的に発信しています。また、飲酒や喫煙習慣などが罹患率を上げているのではないかともいわれています。
編集部
中咽頭がんの治療方法となると、やはり切除ですよね?
久住先生
化学療法や放射線治療が見込めるのは、むしろHPV経由の中咽頭がんですね。HPV経由の中咽頭がんは、一般的な中咽頭がんよりも、治りやすい傾向にあるようです。仮に切除となると、顔の一部を失うような事態に進みかねません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
久住先生
男性のHPVワクチン接種希望者は昨今、増えてきている印象です。パートナーの子宮頸がん予防はもちろん、いろいろな情報を「自分で仕入れて、行動に移している」ということなのでしょう。「気軽に」と言うと語弊があるものの、疑問や問題を「医師と相談して解決しよう」という取り組みは評価したいですね。風しんなど、ほかの予防接種の必要性に気づく機会でもありますし、遠慮なくお声がけください。
編集部まとめ
HPVの感染が中咽頭がんの一因であることは間違いないようです。ただし、HPVワクチン接種の有用度については、いまだ十分な臨床が積み重ねられていないとのこと。感染と発症の機序が明確である以上、有用度が判明するのも「時間の問題」という気がします。また、HPVは足の裏のイボなどにいる、“ありふれたウイルス”なのですね。なおのこと、しっかりとした感染症対策が求められるのではないでしょうか。
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