【漫画付き】似て非なる病気、前立腺肥大症と前立腺がんの違いとは?
男性に固有の臓器が前立腺です。その大きさはクルミ大とされ、尿管を取り囲むように位置しています。そんな前立腺の代表的な病気が、前立腺肥大症と前立腺がんでしょう。両者の詳しい違いについて、「大宮エヴァグリーンクリニック」の伊勢呂先生を取材しました。
監修医師:
伊勢呂 哲也(大宮エヴァグリーンクリニック 院長)
前立腺肥大症の症状は、速やかに現れる
編集部
最近、おしっこが出にくいのですが考えられる病気について教えてください。
伊勢呂先生
もしかしたら、前立腺肥大症かもしれませんね。前立腺という臓器は男性の尿道の周りにあり、ここが肥大することで尿道を圧迫します。ただし、前立腺がんによる頻尿や排尿障害の可能性もありますので、詳しく検査してみましょう。
編集部
どのような検査方法があるのですか?
伊勢呂先生
昨今、採血だけで済むPSA検査が広く採用されています。ただし、PSA検査による異常値は、前立腺肥大症でも前立腺がんでも出ます。したがって、MRIによる画像診断や生体検査などを、必要により併用していきます。
編集部
尿の出にくさは主観的な感覚で、なかなか確信が持てません。
伊勢呂先生
公共のトイレで他人と並んでいれば、客観的な比較ができると思いますよ。自分だけやたらに長い時間がかかっているとしたら、疑ってみてもいいのではないでしょうか。また、前立腺肥大症は尿道を圧迫しますので、比較的細い尿が出ます。これも、目で確認できる傾向です。
前立腺がんの症状は、なかなか現れない
編集部
続いて「前立腺がん」についても、詳しく教えてください。
伊勢呂先生
わかりました。前立腺がんは、前立腺の外側にある「外腺」という部分に発症します。先ほどの前立腺肥大症は、前立腺の内側にある「内腺」で起きるため、この点が大きな違いです。
編集部
前立腺がんの自覚はほとんどないと聞きますが本当でしょうか?
伊勢呂先生
早期の前立腺がんには、がん特有の症状がありません。がんの進行に伴って、「尿が出にくい」、「排尿時に痛みを伴う」、「尿や精液に血が混じる」などの症状がみられます。ただし、進行度合いは、ほかのがんと比べて非常にゆっくりです。
編集部
進行が遅いといっても、さすがに「放置」はまずいですよね?
伊勢呂先生
経過観察という方法もありえますよ。3か月をめどに定期的なPSA検査を受けていただいて、その数値が増えていなければ、「がんは見つかったけど、進行していない」ということになります。念のため生体検査をしてみて、悪さをしそうにないがんであれば、あわてて摘出する必要はありません。
編集部
がんと同居しているって、怖くないですか?
伊勢呂先生
どうしても嫌な場合は手術します。ただし、手術によって尿漏れ、勃起不全などが起きるリスクも見逃せません。とくに勃起不全は“ほぼ”避けられないといっていいでしょう。また、進行が確認されたとしても、放射線療法やホルモン療法のような「摘出しない進め方」が適応できるかもしれません。
かかりやすいが大事になりにくい前立腺がん
編集部
前立腺がんの罹患(りかん)率は?
伊勢呂先生
国立がん研究センターによる最新のデータによると、日本人の前立腺がんの罹患率は、男性人口10万人あたり119.2人で、胃がん、肺がん、大腸に次いで第4位です。ただし、PSA検査の普及により、数年後には罹患率第1位になるものと予測されています。
※参照:国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
編集部
続けて、前立腺がんによる死亡率について教えてください。
伊勢呂先生
同じく「最新がん統計」によると前立腺がんの死亡者数は10万人あたり19.8人で、がん死亡率の中では6位となっています。肺がんの87.4人、胃がんの49.0人、大腸がんの45.0人と比べると低いですよね。つまり、亡くなるとしたら、ほかのがんによる可能性のほうが高いということになります。とはいえ、早期発見・早期治療開始が求められることは間違いありません。
編集部
そのための有効な手段がPSA検査だと?
伊勢呂先生
そのとおりです。かつて上皇さまが受診されたことで、この検査が国民的に周知されました。その後も、有名芸能人などの告白をきっかけとして、受診者の増加が見られます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
伊勢呂先生
残念なことですが、前立腺がんについては、現在、指針として定められている検診はありません。費用補助が得られないということです。ただし、市区町村レベルでは「前立腺がん検診」の費用負担をおこなっているところもありますので、ご自身で調べてみてください。
編集部まとめ
前立腺肥大症と前立腺がんは、発症する場所が異なるのでした。また、頻尿や排尿障害といった自覚は、前立腺肥大症で現れやすく、前立腺がんだとゆっくりです。もちろん、単なる組織肥大と、がんという悪性の腫瘍である点も異なります。取材をした限りでは、「過剰に落ち込む必要のないがん」が前立腺がんという印象でした。ただし、理由のない安心はせず、検査結果をふまえて医師と相談してください。
医院情報
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