インプラント手術後のメインテナンスって大変?
インプラントでよく起きる誤解の一つが、「人工物だから病気にはならないだろう」という発想です。これは大きな誤りであり、インプラントといえども、病気を防ぐためのメインテナンスが欠かせません。では、具体的に、どんなお手入れが求められるのでしょう。「いちデンタルクリニック」の一戸先生に教えていただきました。
監修医師:
一戸江梨(いちデンタルクリニック 院長)
まずは、普段どおりのブラッシングを
編集部
インプラント治療を終えた後の注意点について教えてください。
一戸先生
自然の歯と同様に、ブラッシングなどのお手入れが必要です。インプラントの周りの歯茎は依然として「生きた組織」ですから、病気になりえます。「インプラント周囲炎」という固有の病気もあるくらいです。セルフケアのみならず、定期的に受診して、プロのチェックを受けるようにしていただきたいですね。
編集部
ケアを怠っているとどうなりますか?
一戸先生
ケアを怠ると、歯茎からの出血や変な臭いなどの症状が現れます。インプラントは虫歯にはなりませんが天然の歯と同様、歯周炎(インプラント周囲炎)になります。歯周病と同様、自覚症状が出にくく、気が付いた時には進行していることが多いです。天然の歯に比べ細菌に対する抵抗力が弱いので、自覚症状が出るころにはインプラント周りの骨の吸収が進んでいることもあります。加えて、インプラント補償の要件に「定期検診」が定められている場合、受診を怠っていると、補償の適用外になるかもしれません。
編集部
セルフメインテナンスの方法についてもお願いします。
一戸先生
インプラント専用の歯ブラシがありますので、必要に応じて使ってみてください。中央部の毛先が短くなっていて、人工歯を包み込むようにブラッシングできます。また、端の長い毛先が人工歯と歯茎の境目へ効果的に入っていくことも特徴といえるでしょう。もともと歯の抜けたところは、顎の骨が痩せ、歯茎も下がっています。より丁寧なお手入れで、歯茎を育ててあげてほしいですね。
編集部
手術直後のお手入れはどうなのでしょう。歯茎を痛めてしまいませんか?
一戸先生
オペ後専用の、腰が柔らかな歯ブラシを使います。歯茎の切開手術を伴うような場合は、抜糸するまで、洗口液だけでお手入れする必要があるでしょう。この辺は、医師から説明を受けるはずです。
編集部
ズバリ、メインテナンスは大変なのでしょうか?
一戸先生
個人的には、自然歯のブラッシングとそんなに変わらず、「とくに、大変ではない」と考えています。もちろん、いままでの環境と異なっていますので、「みがきづらさ」はあると思います。慣れていただくためにも、まずは普通のハブラシから始めて、必要に応じて専用グッズなどを検討してみてください。
医院の立地も、「大変さ」を左右する要因
編集部
メインテナンスやチェックは、歯科医院でもやってくれるのですよね?
一戸先生
もちろんです。インプラントを施術する前段階として、歯周病や虫歯の治療が欠かせません。たとえば、歯周病菌が残ったままインプラントを埋めてしまうと、「インプラント周囲炎」のリスクが高まります。したがって、施術前から、安定期治療も含めたセルフメインテナンスやチェックをしていきましょう。
編集部
無事に施術を終えた後は?
一戸先生
人工歯の取り付け前に、状態のチェックをして、インプラントが完全に骨と接着されているのを確認して、最終的な歯(人工歯)を入れます。人工歯の取り付け後は、定期検診により、“お口全体をチェック”していきます。「インプラントの部分はよくみがけているけど、ほかの歯が汚れている」ということもありえるでしょう。インプラントのメインテナンスというより、口腔(こうくう)環境の維持が目的です。
編集部
インプラント治療の場合、定期健診も自費なのですか?
一戸先生
インプラントはすべて自由診療です。メインテナンスは自由診療で費用は各医院によって違います。インプラント治療を決める際にメインテナンス費用についても事前に確認しておくとよいでしょう。
編集部
通いやすい地元の医院でメインテナンスを受けてもいいのでしょうか?
一戸先生
インプラント補償がどう関係しているかですね。最も好ましいのは、通いやすいホームドクターの元で、インプラントの施術もアフターケアもおこなってもらうことです。いずれ、高齢により移動がしづらくなることは、大いに考えられるでしょう。通勤先に近い医院を選ぶと、定年後、受診がおっくうになるかもしれません。また引っ越しなどでインプラント治療をした医院への通院が難しくなってもメインテナンスは必要です。インプラント治療を受けた医院で使用したインプラントの情報などがあれば、他医院でのメインテナンスがスムースに行えるかもしれません。
編集部
インプラントの技術力が高いホームドクターを見つけられればいいのですが?
一戸先生
一般の方には、その見極めが難しいですよね。ですから、「インプラントの患部だけではなく、お口全体を診ているか」「今の状態だけでなく、将来的な時間軸も含めた治療計画を立てているか」、そのような観点で受診先を選ぶといいでしょう。
人生の最後まで見据えた治療計画
編集部
メインテナンスを続けると、インプラントは長持ちしますか?
一戸先生
間違いなく長持ちします。しかし、本当の意味で「長持ち」を左右するのは、最初の治療計画です。単に「打つ、打たない」だけの判断では、日曜大工と変わりません。そうではなく、「ほかの歯を最後まで残せるような治療計画」が欠かせないでしょう。
編集部
インプラントを再手術するケースは多いのでしょうか?
一戸先生
経年劣化というより、むしろ初期の段階で「十分にくっついていない」ことから、再手術をすることはあります。腕の傷の治り方にしても人により違うので、予見が難しいです。また、禁煙が必要なのに守り切れなかったような、患者さん側の姿勢も関係しています。
編集部
たとえば「10年保証」が付いている場合、10年を超えたら、取り換えるのですか?
一戸先生
そういう意味ではありません。治療計画やお手入れ次第では、一生にわたり使い続けることが可能でしょう。ただし、インプラントがもともと持つ性能を十分に発揮できているとすればの話です。安価な材料で安く手術するケースや、日曜大工的な治療計画には、不安が残りますよね。インプラントを長持ちさせたいなら、ある程度の治療費は、いたしかたないと思います。
編集部
自分自身の高齢に伴って、メインテナンスに支障が出ると思うのですが?
一戸先生
初期の治療計画で、そこまで見通しておく必要があるでしょう。たとえば、人工歯の代わりにマグネット式のアタッチメントを付けて、お手入れの簡単な入れ歯へ変えられるようにしておくとか。あるいは、スクリューそのものを取り去り、普通の入れ歯で過ごしていただくとか。このようなトータルのライフデザインも、治療計画に含まれると考えています。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
一戸先生
「インプラントを長持ちさせたい」のなら、多角的かつ長期的視野に立った医師の元で施術を受けましょう。そうしてこそ、セルフメンテの中身が生きてきます。また、通いやすさといった立地も、後になって影響してきます。なんでもすぐに相談できる「ホームドクター」を見つけてみてください。
編集部まとめ
どうやら、普通のブラッシングができていれば、ひとまず合格といえそうです。ただし、メインテナンスの中身には、定期検診によるチェックが含まれます。立地的に「大変」ということも考えられるでしょう。そして、初期の治療計画によっては、年を取ってから「大変」といった事態すら起こりえます。最初の施術先を、慎重に見極めてください。
医院情報
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診療科目 | 歯科 |