「前立腺がんの罹患者数(りかんしゃすう)が1位になりそう」なのはどうして?
胃がんや肺がんなどと比べて、あまり注目がされてこなかった「前立腺がん」。しかし昨今、その罹患者数が急増しているそうです。いったい、何が起きているのでしょう。そして、これからどうなっていくのでしょう。その理由と実態を「かしわ腎泌尿器クリニック」の岸本先生に伺いました。
監修医師:
岸本 幸一(かしわ腎泌尿器クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学卒業。国立西埼玉中央病院勤務をはじめ、東京慈恵会医科大学および同大系列病院の泌尿器科教授、泌尿器科部長、副院長などを歴任。2018年には、千葉県柏市内に「かしわ腎泌尿器クリニック」を開院。人の思いに共感し、ともに歩む、「融和」をモットーとしている。医学博士。日本泌尿器科学会、日本低温医学会の各会員。
日本中の男性が注目した「上皇さまの前立腺がん罹患」
編集部
前立腺がんの罹患者数が急増しているそうですね?
岸本先生
※国立がん研究センター「西暦2020年のわが国のがん罹患に関する推計」より
https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2005/fig13.pdf
編集部
増加傾向が顕著なのは、どうしてなのですか?
岸本先生
直接的な要因としては、食事内容の欧米化や高齢化によって罹患者が増加したことが挙げられます。間接的には、前立腺がんに罹患しているか調べる「PSA検査」が普及してきたからでしょう。そのきっかけは、上皇さまのご発症にあるのかもしれません。報道によるとご発症は2002年、前立腺の全摘出は2003年でした。すると、「PSA検査」を特定検診などで実施している自治体の割合が、2000年の14.7%から2015年の83.0%へと増加しました。
編集部
食事の欧米化や高齢化が、なぜ前立腺がんの増加に繋がるのですか?
岸本先生
前立腺がんは、肉や乳製品など脂質の多い食事をとり続けることで発症しやすくなると考えられています。逆に魚や穀類など、昔ながらの日本食は前立腺がんの予防に良いとされています。なので食事が欧米化したことで、罹患数が増加したと言われています。また、前立腺がんは60歳以上になると発症率が高くなるので、高齢化に伴い増加していると言われているのです。
編集部
「PSA検査」について、詳しく教えてください。
岸本先生
前立腺がんを発症すると、前立腺から「PSA」という物質が分泌されます。これを血液検査で計るのが「PSA検査」です。なお、現在、PSA値の基準値は4.0ng/ml以下となっています。PSA値と前立腺がん検出率は相関し、PSA値4.0~10.0ng/mlで25~30%、10.0~20.0ng/mlで約50% 、100以上ではほぼ100%が前立腺がんと言われています。ただし、4.0以下でも前立腺がんがないとは言えず、直腸診で異常所見がある場合などでは、精密検査が必要になることもあります。
編集部
PSA検査の”すごさ”がわかる事例などはありますか?
岸本先生
「PSA検査」を受けたグループと、受けていないグループで、前立腺がんによる死亡率がどう違うかを調べた統計がいくつかあります。欧州7カ国でおこなわれた調査では、「PSA検査を受けたグループ」の死亡率が約20%低下したそうです。また、スウェーデンの調査では、約44%低下したというデータもあります。
編集部
「前立腺」は男性にしかないのですよね?
岸本先生
そのとおりです。尿道の周りに位置し、その大きさや形状から「クリの実1個」に例えられることが多いようです。役割としては、精液の元となるほか、精子を保護したり、精子に栄養を与えたりする「前立腺液」を分泌しています。
ほかのがんとの比較
編集部
いまのところ、部位別で生存率が低いのは、どのがんでしょう。
岸本先生
参照:国立がん研究センター 「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について5年生存率、10年生存率データ」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0409/index.html
編集部
冒頭にあった、前立腺がんによる死亡者数の予測が10位前後ということにも関係していそうですね?
岸本先生
はい。さらに詳しく言えば、前立腺がんが前立腺の中でとどまっている「ステージⅡ」以下なら、10年生存率は100%です。がんが前立腺の外に染み出す「ステージⅢ」でも96.4%。転移を伴う「ステージⅣ」になってはじめて44.5%と大きく下落します。
編集部
初期に発見し、治療を開始すれば、助かる可能性が高いと?
岸本先生
それだけコントロールが容易ながんということです。治療方法にしても、手術や放射線治療など、複数の選択肢が用意されています。また、アジア系の人種は、元から前立腺がんにかかりにくいとされています。おそらく、食べ物などが関係しているのでしょう。
「PSA検査」による早期発見のススメ
編集部
今後、「PSA検査」の重要性は高まっていくと思われますか?
岸本先生
検査の実施割合が83.0%にまで増加した各自治体の判断を見ると、そう言えるでしょう。加えて、国立がん研究センターが、5年生存率・10年生存率の各データを公表したことも大きいですよね。検査を受ける “意義”が示されていると思います。
編集部
「PSA検査」に保険は適用されるのでしょうか?
岸本先生
何かしらの自覚症状があれば、適用される場合もあります。仮に自費でも、おおむね3,000円程度でしょう。自治体によっては、無料の実施や費用負担をしてくれます。
編集部
何歳くらいになったら受けたほうがいいですか?
岸本先生
50歳がひとつの目安です。この年代に差しかかると、罹患率が急増すると、統計的に把握できています。仮に陰性でも、継続して毎年、受けていただきたいですね。
編集部
その場合、やはり泌尿器科を受診すべきでしょうか?
岸本先生
「PSA検査」自体は、多くの医療機関が扱っています。最寄りのクリニックなどでも構わないでしょう。その判定や評価は泌尿器科の専門医に回され、我々がおこなっていますので、ご安心ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば、お願いします。
岸本先生
「前立腺がんの罹患者数増加」は、必ずしもネガティブなことではないと思います。それだけ、救える命が多くなったとも捉えられるでしょう。進行度合いによっては10年生存率が100%ということですから、怖がらずに「PSA検査」を受けてみてください。予後の悪いがんでは決してありません。
編集部まとめ
前立腺がんの発見件数増加は、どうやら自然増ではなく、社会的要因によって起きているようです。その要となるのが、「PSA検査」の受診でしょう。加えて、仮に発見されたとしても「コントロールしやすいがん」という点が、受診機会を押し上げていると思われます。「PSA検査」そのものは採血だけで済みますから、50歳を過ぎたら、前向きに検討してみてください。
医院情報
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診療科目 | 泌尿器科、内科、腎臓内科 |