【漫画付き】アトピー性皮膚炎なのですが、運動をしても大丈夫ですか?
運動により、アトピー性皮膚炎を悪化させてしまうケースがあるようです。だとしたら、運動を控えた方がいいのでしょうか。それとも、「運動のできない人生」を回避する方法があるのでしょうか。「鎌倉かまりんヒフクリニック」の福永先生に、詳しい説明をお願いしました。
監修医師:
福永 有希(鎌倉かまりんヒフクリニック 院長)
浜松医科大学卒業。横浜市立大学附属病院皮膚科入局後、おもに神奈川県内の総合病院や皮膚科へ勤務。2018年、神奈川県鎌倉市に「鎌倉かまりんヒフクリニック」開院。皮膚の発信する「かまってちょうだい!」というアラートに耳を傾けるべく、日々の診療にあたっている。日本皮膚科学会皮膚科専門医。日本美容皮膚科学会、日本アレルギー学会、神奈川県皮膚科医会、日本痤瘡研究会の各会員。
いい汗は、肌トラブルの味方になりえる
編集部
運動をすると、アトピー性皮膚炎(以下、「アトピー」)が悪化してしまいます。
福永先生
運動によりかゆみが増す原因は、さまざまに考えられます。運動により血流が良くなることで、かゆみ物質のヒスタミンが血中に増えてかゆくなります。また、汗をかくことでかゆくなる場合もあります。
編集部
そうなると、運動は控えるべきでしょうか?
福永先生
いいえ、むしろ積極的にしてください。適度な運動と、いい汗をかくことが大事です。アトピー肌では汗がうまくかけず、汗が皮内にこもって炎症を起こしていることがあります。普段から汗をかくトレーニングをして上手に排出させられるようにしましょう。また、汗の成分が皮膚に残っているとかゆみを引き起こすこともありますので、汗をかいた後の処置に留意することも大切です。
編集部
すでに汗がかける人でも、運動したほうがいいのですか?
福永先生
運動によるストレス解消は、免疫バランスを良く保つ効果が期待できますので、かゆみのコントロールにもつながると思います。ただし、汗を放置したり、タオルで擦ったりして肌にダメージを与えないようにしてください。運動後はさっとシャワーで汗を流すことをおすすめします。
編集部
なぜアトピーの方は汗がかきにくいのでしょう?
福永先生
肌のバリア機能が低下しているアトピーでは、汗を送り出す「汗管」から汗がうまく排出されず、漏れて周囲の組織に刺激を与え、かゆみの原因になってしまいます。また、かゆみの元となる物質のヒスタミンが汗を出にくくするという研究報告もあります。
編集部
アトピー自体が汗をかきにくくしているのですね。
福永先生
それだけでなく、治療に使われるステロイドの外用薬も発汗を抑制してしまうデメリットがあります。ステロイド外用薬は炎症を抑えるメリットもありますから、適度なステロイド外用薬でヒスタミンも抑えつつ、普段からの汗かきトレーニングでいい汗をかけるようにしましょう。
編集部
緊張時のような悪い汗では意味がないと?
福永先生
運動などによる温熱性発汗は水分量が多くサラサラしていますが、緊張時の発汗では、汗の成分であるタンパク質やミネラルの含有率が異なり肌に刺激を与えやすい汗と言えます。発汗部位も手足やわきなど限られた範囲になります。一方で、適度な運動で全身にさっぱりした汗をかくと肌は良い状態に保たれやすくなります。
汗を味方につける
編集部
肌質改善を目的とした場合、どの程度の運動がいいのでしょう?
福永先生
運動は個人差が大きいですよね。生活リズムが整えられる範囲、ストレス発散できるレベル、体に過剰な不可が加わらない程度、などを考えて運動を取り入れてみてください。気持ちよく汗をかけたと感じられるのがお肌にとっては望ましいように思います。
編集部
運動の量より「質」が問われそうです。ちなみに汗の役割とはなんでしょう?
福永先生
汗の役割には体温調節や体内老廃物の排泄、皮膚表面を弱酸性に保つことによる抗菌作用、皮膚の保湿作用などがあります。汗によって肌の常在菌バランスが整いやすくなり、うるおいも保たれるという、アトピーのお肌にとっては大切な味方でもあるのです。
編集部
塗り薬なども併用するべきですよね?
福永先生
もちろん、汗だけで肌の調子が完全に良くなるわけではありません。肌に付着した汗が放置されれば、アルカリ性になって細菌の繁殖や刺激になりますので、汗をかいた後のお手入れも大事なのです。保湿剤は肌を保護するだけでなく、皮膚のバリア機能を整えることでスムーズな発汗を促します。また、アトピーでは皮膚の炎症をコントロールすることも大事ですから、医師の指示に沿って適切な外用治療を心がけてください。
編集部
運動のほか、改善が望める療法はありますか?
福永先生
汗をかくトレーニングでしたら、運動以外にサウナなども良いでしょう。また、食事も汗の質に影響します。金属アレルギーのある方では、食物から取り込まれた金属が汗に含まれ、皮膚に炎症を起こすことがあります。食事療法は適切に行う必要がありますので、詳しくは医師に相談してください。
医師との二人三脚で、運動の効果を高める
編集部
家庭でおこなうスキンケアに自信がありません。
福永先生
塗り方、塗る量、塗る回数、保湿剤の種類などで効果の差がでることもあります。保湿剤はたくさんの種類がありますが、個々の肌質や部位、季節によっても使い勝手が異なります。スキンケアでお悩みの場合は皮膚科医にアドバイスを求めてみてください。
編集部
運動の際に気をつけることはありますか?
福永先生
汗をかくと、身につけている金属類やゴム製品などが水分と反応して、アレルギーを起こしやすくなることがあります。身につけるものの素材、擦れや締め付けなどには注意してください。また、体が温まってかゆみやじんましんが出るケースでは内服治療が必要な場合もあります。医師と相談しながら、運動に取り組んでください。
編集部
冬など、汗をかきにくい時期におすすめできることは?
福永先生
寒くて汗をかけなくても、適度な運動はストレス発散や体調維持にも役立ちますので、ぜひ続けてみてください。汗トレーニングでしたら、サウナやトレーニングジムなど、室内で汗をかける場所はいかがでしょう?
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
福永先生
汗をかくトレーニング、汗対策は治療の一環になります。お肌の状態によっては様々な注意点もありますので、運動は医師とも相談しながら積極的に取り入れてみてください。
編集部まとめ
どうやら、“適切に汗をかけること”が、アトピー性皮膚炎の改善につながるようです。その入り口が、運動をする習慣なのでした。たしかに、「汗をかけない」「汗がかきにくい」という声を、良く耳にします。肌質によっては、脇汗を止める治療や汗止め薬による弊害も考えられるでしょう。発汗を嫌がらず、むしろ味方にしたいものですね。
医院情報
所在地 | 〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町2-15-11 |
アクセス | JR湘南新宿ライン・江ノ島電鉄線 鎌倉駅 徒歩3分 |
診療科目 | 皮膚科 アレルギー科 小児皮膚科 形成外科 美容皮膚科 |