フッ素って猛毒じゃないの? 口に入れても大丈夫?
一般に「フッ素が歯に良い」とされていることはご存知だろう。ドラッグストアに並ぶ歯磨き粉には当たり前のように「フッ素」が配合され、「子どもへのフッ素塗布無料化」を推進する自治体もある。しかし昨今、そんなフッ素の毒性を取り上げる記事が散見されてきたのも事実だ。その背景には、WHO(世界保健機関)が示した、フッ素に対する否定的な見解も関係しているだろう。はたしてフッ素は歯と体に良いものなのか。事の真相を、むらおか歯科・矯正歯科クリニックの小林英範歯科医師に解説いただいた。
監修歯科医師:
小林 英範(むらおか歯科・矯正歯科クリニック)
日本歯科大学卒業。日本歯科大学付属病院臨床研修医、神奈川歯科大学矯正科、栃木県矯正専門医院勤務をへて、2002年からむらおか歯科・矯正歯科クリニック勤務。主に矯正治療を担当している。日本矯正歯科学会認定医、日本顎咬合学会認定医、インビザライン認定ドクターほか。日本矯正歯科学会、東京矯正歯科学会、日本顎咬合学会ほか各学会所属。メディア歴、講演会など多数。
試験管と口の中を同等に扱うから誤解が生じる
編集部
フッ素は毒なのでしょうか? 一部では、そのような疑問がささやかれています
小林先生
濃度によっては毒にもなりえます。ただ、濃度と毒性の関係はお薬全般にいえることで、フッ素だけを取り上げてもしょうがないでしょう。塩も同じで、体に欠かせない食材でありながら、取りすぎると弊害を起こしますよね。
編集部
フッ素は、害虫駆除などにも使われると聞きます
小林先生
フッ素の特性だけに注目して議論するのは不公平です。お口の中と同じ環境で考えましょう。実際にフッ素は、唾液の中に含まれる各成分と一緒になってはじめて効果が現れます。また、唾液の中の悪い物質が活発にならないよう、コントロールもしてくれます。
編集部
WHO(世界保健機関)でさえ、フッ素に否定的なようですが?
小林先生
日本と海外では、フッ素に対する捉え方が違っているのでしょう。日本には日本の在り方があっていいと思います。個人的に言えば、フッ素がないと歯はどんどん劣化していくものだと考えています。
編集部
とはいえ、一部の歯科医師のような専門家でも、フッ素塗布に疑念を持たれているようです
小林先生
ほかの先生のことはわかりませんが、どこからも文句の出ないようにコントロールすることなんてできないので、だったら「スッパリやめちゃいましょう」という考え方なのでは。実際のところ、一定の濃度を守って使っている限り安全ですし、デメリットが見当たりません。
フッ素は、食べ物の中から発見された自然由来の物質
編集部
先ほど「濃度」のお話がありましたが、くわしく教えてください
小林先生
わかりました。歯科医院で使うフッ素濃度には保険の適用上限があり、「高濃度」といわれている歯みがきの場合、1000ppmから1500ppmと定められています。ppmは100万分の1という単位ですから、ハミガキの使用量を1グラムとすると、0.0015グラムのフッ素が含まれていることになります。
編集部
歯みがきを1日3回おこなうとすると、合計0.0045グラムですね
小林先生
そうなります。これに対し、厚生労働省は、栄養補助食品として用いるフッ素の上限摂取量を1日0.04グラム以下としています。計算の上では、1日26回の歯みがきをしても、上限摂取量を越えません。
編集部
濃度に関しては、安全な基準が保たれていると?
小林先生
はい。それに、フッ素は食べ物の中にも含まれています。厚生労働省の数値は「栄養補助食品として用いるフッ素」に関してのものですから、食事からの摂取分はカウントされていません。トータルでみたフッ素の摂取量が「1日0.04グラム以下」というわけではないのです。
編集部
天然歯や体内ではなく、銀歯やインプラントで使われる金属への影響はどうなのでしょう?
小林先生
たしかにフッ素は金属を腐食しますし、とくにチタンとの相性が悪いとされています。ただし微々たる量で、フッ素を塗るとインプラントが折れるなんて話ではありません。万が一を考えたとしても、被せ物のような金属の歯科素材を入れていないお子さんなら、問題ないといえるでしょう。
ズバリ、フッ素は何にいいのか
編集部
今度は、フッ素の効用について教えてください
小林先生
複数あるうちもっともわかりやすいのは、ザラザラな歯の表面をツルツルにしてくれることです。フライパンなどで「フッ素コーティング」という言葉を聞いたことはありませんか。歯の表面が滑らかになることで、汚れなどの付着を防いでくれます。
編集部
続けて、そのほかの項目についてもお願いします
小林先生
歯は唾液によって日々、溶かされています。カルシウムやリンといった歯の成分が唾液の中に溶け出しているのです。このことを「脱灰(だっかい)」といいます。フッ素は、この脱灰を抑えるだけでなく、溶け出したミネラル分を取り込む働きも促進してくれます。
編集部
だから、むし歯予防に効果的なのですね?
小林先生
はい。フッ素の効用は、まだありますよ。例えば、むし歯菌が栄養となる糖分を取り込む際、その働きを妨害します。総じて、お口のコンディションを整えくれるのがフッ素というわけです。
編集部
先生は、フッ素の使用に対して積極的であると?
小林先生
フッ素を塗らないことのメリットは「ない」と考えています。歯は常に唾液という酸性雨へさらされているようなものなんです。車の表面も、傷ついたところからサビが広がっていきますよね。歯にも同じことが言えますから、フッ素を上手に活用してみてください。
編集部まとめ
たしかに、塩分の取りすぎは体に良くないものの、それをもってして「塩が毒」とは言えないでしょう。それに、歯科治療でフッ素を使わなかったとしても、日ごろの食事からは摂取しているのです。そう考えると、やみくもに遠ざけることの意味が見えてきません。改めてフッ素の効用をまとめると、以下の通りです。
・歯の表面をなめらかにし、汚れなどの付着を防ぐ
・歯質を強化し、むし歯になりにくい歯にする
・歯が溶け出す働き(脱灰)を抑え、溶け出したミネラル分の吸収(再石灰化)を促進する
・むし歯菌に働きかけ、歯が溶ける酸の生成を抑える
フッ素は、適切な濃度の範囲内で使用する限り、安全と言っていいのではないでしょうか。
医院情報
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アクセス | 矯正治療の方はクリニックと「市川駅」「本八幡駅」「市川大野駅」間の無料送迎あり(要予約) |
診療科目 | 一般歯科・矯正歯科・口腔外科 |