「正しいかみ合わせ」って聞くけど「きれいな歯並び」とは違うの?
歯に求めることは、食べやすさだろうか、美しさだろうか。むらおか歯科・矯正歯科クリニックの小林英範歯科医師によると、この両者は合わせ持つことができるという。むしろ、双方を兼ね備えることが矯正治療の目的だと話す。そこで、歯列が持つ本当の意味や役割について詳しい話を伺った。
監修歯科医師:
小林 英範(むらおか歯科・矯正歯科クリニック)
日本歯科大学卒業。日本歯科大学付属病院臨床研修医、神奈川歯科大学矯正科、栃木県矯正専門医院勤務をへて、2002年からむらおか歯科・矯正歯科クリニック勤務。主に矯正治療を担当している。日本矯正歯科学会認定医、日本顎咬合学会認定医、インビザライン認定ドクターほか。日本矯正歯科学会、東京矯正歯科学会、日本顎咬合学会ほか各学会所属。メディア歴、講演会など多数。
歯の機能と見た目は、最終的に相通じる
編集部
「正しいかみ合わせ」という言葉を良く聞きますが、「きれいな歯並び」とは違うのですか?
小林先生
歯科医師からすると同じことを指しますが、患者さんは違った意味に受け取っているかもしれませんね。「歯並びは気にならないので、かみ合わせだけ治してほしい」という方もいらっしゃいますから。
編集部
そのような患者は「正しいかみ合わせ」と「きれいな歯並び」を、どのように使い分けているのでしょう?
小林先生
「正しいかみ合わせ」は歯の機能、つまり、食べづらさや歯が浮く感じなどに対して使われているようです。だから、奥歯のお悩みが多い。対する「きれいな歯並び」は、純粋に見た目の問題なのでしょう。きれいに見えるか見えないかを問うので、前歯のお悩みなどで使われます。
編集部
しかし、先生にとっては同じ意味だと?
小林先生
はい。ヒトの歯には、それぞれ決まった役割があります。簡単に言うと、前歯で食べ物を切って、奥歯ですりつぶすわけです。このとき、それぞれの歯が“きれい”に並んでいないと、“正しい”機能を発揮できません。ですから、“きれい”と“正しい”は結び付くのです。
口や体の健康を歯列で守る
編集部
「正しいかみ合わせ」と「きれいな歯並び」をあわせて“適切な歯列”と呼ぶことにします。理想的な姿とは、どのような形でしょう?
小林先生
上の歯の山の部分に対して、下の歯の谷の部分が接している状態です。上下の歯は、1対1の関係で向かい合ってはいません。山と谷が隙間を埋めるように並んでいるのです。歯並びの悪い人は、山と山で向かい合っているので、歯がすり減ってきますよね。そうならないかみ合わせを作っていくのが、矯正治療の目標になります。
編集部
多少のズレがあっても、あまり差し障りを感じないのですが?
小林先生
それは、歯肉の内側に歯根膜というクッションのような組織があるからでしょう。歯をつまんで揺らすと、正常な人なら0.2ミリほど動くと思います。この歯根膜が微調整をして、山と谷を向かい合わせるのです。切るにしてもすりつぶすにしても、その人の歯の機能を最大限化してくれます。逆に言うと、歯列が悪くてもなんとかなっちゃう。ヒトの順応能力の高さが、好ましくない方向へ出た結果ですね。
編集部
理想的な歯列に勝るものはないと?
小林先生
さらに、個人のクセが関係してくることもあります。例えば、右利きと左利きによる違いです。小さなチョコレートなどを食べてみて、最初にかむ歯のほうが「利きかみ」。これは一例ですが、歯の形や筋肉の付き方によって、その人に合った歯列を作ることが大切です。
編集部
筋肉も関係してくるのですね?
小林先生
「かむ」という動作には、咀嚼筋(そしゃくきん)という4つの筋肉が関係しています。筋肉は骨格を引っ張っていますから、そのバランスが崩れると、顎の骨格も曲がってきますよね。ひいては、肩こりや片頭痛、腰痛などに発展することもあります。正しくかめないことのほころびが、全身に広がっていくのです。
人にはその人に合った歯列が存在する
編集部
矯正治療を受けるほどの不具合を感じていないという人も多いのでは?
小林先生
そこが怖いところで、歯列に乱れがあっても、ある程度は順応できてしまうのです。しかし、正しくかめないことのほころびは積み重なって、ある日、一挙に現れてくるはずです。肩こりや頭痛などの症状は、「限りなく赤に近い黄色信号」といえるでしょう。ですから、不具合を感じないうちに、一度、矯正の専門医に見てもらったほうがいいと思います。
編集部
歯列に個性を反映させると、かえって「きれいな歯並び」から離れていきませんか?
小林先生
そこまで大きな違いが出るわけではありません。大切なのは、機能と美しさを分けて考えないこと。どちらもゴールは一緒です。この意識差が患者さんとの間にあると、治療のゴールもブレてきますよね。ですから、矯正治療に入る際は、時間をかけてじっくり説明しています。
編集部
患者さんの納得度合いはどうですか?
小林先生
納得していただかないうちは、治療に入りません。矯正治療は、もともとあった歯並びをいったん壊して動かしていくため、一時的に不具合が出ます。かみにくかったり、歯がこすれてキュキュっと鳴ったり。そのようなデメリットをご説明しておかないと、患者さんが不安になりますよね。
編集部
歯列は、考えていたより深刻な問題ですね?
小林先生
もちろんです。矯正治療専門の歯科医には、歯列に関する将来リスクを見いだせるだけの知見や経験があります。まず何が起きているか、そして何が起こりそうなのかを調べてもらってはいかがでしょうか。治療を受けるかどうかは次の話なので、複数のドクターから意見を募り、納得のできる歯科医院へ通ってください。
編集部まとめ
何をもって「適切な歯列」なのかは、個人によって異なるようです。絵に描いたようなお手本を「理想正常咬合」と呼ぶのに対し、小林先生は「個性正常咬合」という考え方を示されました。そこまで歯と体のことを考えてくれるのが、矯正歯科医なのですね。ただし、ドクターによって考え方や優先順位の異なる場合がありますので、セカンドオピニオンを積極的に受けてみましょう。
医院情報
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アクセス | 矯正治療の方はクリニックと「市川駅」「本八幡駅」「市川大野駅」間の無料送迎あり(要予約) |
診療科目 | 一般歯科・矯正歯科・口腔外科 |