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うつ病がなかなか治らないのはなぜ?治療が長引く理由と再発について

 公開日:2024/03/01
もの忘れ外来でできることって?認知症の早期発見と対処のために

うつ病という病気はよく耳にする機会があると思いますが、その詳細までは知らない人が多いのではないでしょうか。うつ病は、日本人の15人に1人が一生の間に一度はなるともいわれている身近な病気です。

しかし、「頑張ればどうにかできる」「気持ちが弱いだけ」というようにうつ病を軽くとらえてしまっている方もまだまだ多いのが現状です。病気について理解を深め、自分がうつ病になってしまったときだけでなく、周りの人が困っているときにも適切なサポートができるようにしましょう。

舘野 歩

監修医師
舘野 歩(東京慈恵会医科大学附属病院)

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東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。現在は「東京慈恵会医科大学附属病院」勤務。専門は精神神経科。日本精神神経学会専門医・精神科指導医、日本森田療法学会認定医、精神保健指定医。東京慈恵会医科大学精神医学講座准教授。

うつ病は治らないって本当?まずは正しく知ろう

うつ病は治らないって本当?まずは正しく知ろう

うつという病気はよく聞くものの、間違った認識で患者さんを見てしまっている人もいると思います。ここでは、そもそもうつ病とはどのようなものなのかなど、基礎知識から正しく理解していきましょう。

うつ病とは

うつ病とは、心や体にストレスがかかったことをきっかけに、脳が正常に働かなくなってしまう病気のことです。原因などはまだ不確定な部分もありますが、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどがうつ病に大きく関係しているのではないかと考えられています。セロトニンやノルアドレナリンは心の状態を安定させたり、物事に取り組む活力を生み出したりするために大切な神経伝達物質なので、これらが減少することで「うつ」といわれる憂うつな状態が続くことにつながるといわれています。

うつ病は病気であり、決して本人の意志が弱くて怠けているというわけではありませんが、「やる気がないだけ」「気持ちの問題」などと誤った見方をされてしまうことが少なくないのが現状です。

うつ病の症状:精神面

うつ病には精神面に出る症状と、身体面に出る症状があります。ここでは、心の症状の例をいくつか挙げてみます。

・悲しい、憂うつな気分がずっと続く
・ずっと好きだったことにも興味が出ない
・何をしても楽しめない
・怒りっぽく、イライラすることが増える
・自分には価値がない、死にたいなどと思う

精神的症状と身体的症状を合わせて4〜5つ程度当てはまるものがあれば、早めに専門家に相談するのが望ましいでしょう。

うつ病の症状:身体面

次は身体面での症状を紹介します。

・食欲が出ない、極端に食欲が増す
・眠れない、あるいは寝すぎて起きられない
・すぐに疲れてしまう
・物事に集中できない、物事が決断できない

うつ病の症状は、体の不調や行動の変化から先に現れることがほとんどで、思春期のうつ病は特にその傾向が顕著です。ただし、夜眠ることができない、登校時間に起きられない、以前よりも暴力的になったなど、思春期だから仕方がないと思ってしまうような症状から始まることも多いので、初期の段階ではなかなかうつ病だと気づきにくいかもしれません。また、うつ病の症状の特徴として、調子が特に悪くなりがちなのは朝で、夕方になると症状が軽くなるということも挙げられます。調子が悪いというから学校や会社を休ませたのに、午後や夕方には調子が良さそうにしているのを見ると、さぼっただけではないかとついつい勘違いしてしまいますよね。しかし、うつ病の特徴としてそうしたこともあると覚えておくと早期の発見につながるかもしれません。

うつ病の治療方法

うつ病の治療方法

次はうつ病の治療法にはどのようなものがあるのかを説明します。

うつ病の治療:薬物治療

先述したように、必要な神経伝達物質が減少してしまうことが、うつ病を発症する原因のひとつだと考えられています。そのため、うつ病の治療では、神経伝達物質に着目した薬物治療を行う場合が多くなっています。具体的には「抗うつ薬」を使用することで全体のバランスを整え、症状の軽快を目指します。

「抗うつ薬」のほかにも「抗不安薬」や「睡眠導入薬」を使用したり「非定型抗精神病薬」と呼ばれる薬を使用したりして調整を行います。薬物治療では、症状や生活に併せて薬を組み合わせ、より負担の少ない形で薬を服用することが大切です。薬物治療では服用を勝手に中断したり、一気にたくさん飲んだりせずに医師の指示を必ず守るようにしましょう。

うつ病の治療:生活習慣と休養

薬を服用するだけではなく、生活環境を整えたり十分な休息をとったりすることも大切な治療のひとつです。具体的には睡眠を十分とる、職場や学校などで受けているストレスを軽減できるように環境を調整する、家庭などのリラックスできる場所を持つなどです。うつ病患者さんの中には、仕事が忙しいことや、誰かに迷惑をかけてしまうのではないかという心配から、そうした環境整備に一歩踏み出せず、抵抗を持つ方も少なくありません。

しかし、ゆったりとした時間を持つことは今後長い人生を健やかに過ごすためにとても大切なことです。患者さん本人だけでなく、周りの方にとっても良い方向に向かうための期間なので、過度に心配しすぎず、たっぷりと休養をとるようにしましょう。また、1人での実行が難しそうな場合にはかかりつけの医師や、専門家、産業医などに相談してみるのも良いでしょう。

うつ病の治療:精神療法

お薬でのコントロールや、十分な休息をとることで自然と快方へ向かう方が多い一方、それらの治療を行っても変化が見られなかったり、そもそもうつ病になった原因がわからなかったりして、なかなか症状が改善しない方も一定数います。そうした場合には、精神療法が有効だといわれています。精神療法の中でもよく行われているのが、認知療法というものです。認知療法とは、自分の「ものの見方」や「できごとの受け取り方」などを客観的に見直して、正しい見方、受け取り方に修正していく方法です。自分がついついやってしまう考え方の癖を直すことで、「こんな方法もあるんだ」「こう考えてみてもいいんだ」と選択肢が広がり、心のストレスを軽くしていくことが期待できます。

認知療法の他には森田療法があります。森田療法とは元来神経症(現代で言う不安症、強迫症、身体症状症)に対する精神療法です。元来入院で行われていましたが今は外来で行われています。うつ病の中で慢性化していて、「こうあるべき思考」が強くうつ病の自然回復が損なわれている方に有用です。「こうあるべき思考」が強く他人へSOSを出せずに抱え込んでしまう方に、不安を抱えつつ他人へ頼れるようにしていくよう援助します。

うつ病が治らない、長期化する理由

うつ病が治らない、長期化する理由

なかなか改善が見られないうつ病にはいくつかの原因が考えられます。症状が長期化した場合は、下記のどれかに当てはまっていないか、考えてみると良いでしょう。

初期に適切な治療を受ければ治りやすい

うつ病が長期化する原因のひとつが、治療の開始時期が遅かったということです。うつ病は放っておくと進行してしまうケースが多いので、なるべく早い段階で専門家の治療を受けることが望ましいとされています。そのためには早期にうつ病であると気づく必要があるので、自分自身で知識を付けておくことはもちろん、周囲の異変にも気づき、受診を勧められる環境をつくるように心がけましょう。また、薬や治療を自己判断で中断してしまうと、そこまで改善していた症状がまた元に戻り治療が長期化することも考えられます。薬を減らしたいときや治療法を変えたいときには、自己判断をせず、必ず医師や専門家に相談するようにしましょう。

環境面

環境面でもうつ病の改善を遅らせる要因があります。治療法の欄で先述したように、お薬などだけではなく、生活習慣を整えたり、休養を十分にとったりすることも治療のひとつとして大切です。そうした環境面が整っていない状態で内服治療などを行っても、あまり治療の効果は期待できません。どちらも大切な治療なので、長引くうつ病に悩んだときは、下記のような環境面に問題がないか、一度立ち止まって見直してみると良いでしょう。

・休養が十分にとれる環境か
・家族や仕事仲間と解決できていない問題がないか
・復職が早すぎていないか
・周囲の理解や協力を十分にえられているか

身体面

場合によっては、身体的要因でうつ病の治りが悪くなっていることもあります。年齢による脳の老化が顕著な場合や、身体的な慢性疾患の治療ができていない場合、また、アルコールの飲み過ぎ・常用なども原因として挙げられます。生活習慣を見直すことはもちろんですが、うつ以外に考慮すべき身体的問題がないかを医師と話してみることも大切です。

心理面

また、環境的要因と近しい問題として、心理的要因によるうつ病の長期化も考えられます。患者さんが孤独を感じていたり、リラックスできるような居場所がなかったりすると、生きがいを感じられず、治療に前向きになれないことがあります。また周囲の人を信頼することができなければ、医師や家族の話すことも理解したいと思えなくなり、これもやはり治療効果を存分に発揮できない要因となり、治療が長期化します。周囲の人からすると難しかったり大変だったりする場面は多いと思いますが、なるべく患者さんに対して理解と共感を示すようにしましょう。

うつ病は再発することも

実は、うつ病は再発も多い病気です。患者さんの内、約30%の人は約1年で再発し、5年経つと40~60%の人が再発するといわれています。それでは再発を抑制するためにはどんなことに気を付けたら良いのでしょうか。繰り返しになりますが、まずは薬を正しく服用し、医師から指示があるまでは治療を続けるということが大切です。服用を途中で勝手に止めてしまうと、再発のリスクが3倍になるとの報告もあるので、必ず自己判断で治療を止めないようにしてください。また、薬の服用だけではなく、ストレスへの対処法を身につけることも良いでしょう。認知療法などを使って、薬だけに頼らない生き方を目指していきましょう。

うつ病がなかなか治らない、どうすればいいのか

うつ病がなかなか治らない、どうすればいいのか

うつ病を発症すると、患者さんも周りの方も心配でいっぱいになると思います。ここではそのときの心構えなどをお話しますので参考にしてください。

患者さん:治ると信じて

うつ病になったときはいつ抜け出せるかわからない不安や焦りにさいなまれ、苦しい思いをしてしまうことがあると思いますが、現代ではうつ病は治せる病気だといわれています。うつ病を治すためには、病気への正しい理解と適切な治療の継続が大切です。医師や周りの方々を信頼し、一見遠回りに見える治療であってもじっくりゆっくりと進んでいくことが結果的には近道となります。なるべくゆったりと落ち着ける時間をとって、治ると信じて治療を続けましょう。

ご家族や周囲の方:プレッシャーにならないように

患者さん本人が焦ってしまうのと同じように、家族や周囲の方も「早くよくなってほしい」「また一緒に働きたい」などと、なるべく早い復帰へ期待を寄せてしまうものですよね。しかし、ときには優しい気持ちでの声かけや行動が患者さんのプレッシャーになってしまうこともあります。患者さん同様に正しい知識を付けるのはもちろんのこと、患者さん自身が頑張ろうとしていることをサポートするような形で、無理なくこちらもじっくりと付き添うように心がけてください。それが患者さんとの信頼関係にもつながり、治療がスムーズにいくための一歩となります。

うつ病が治らないのは「うつ病ではない」可能性も

うつ病が治らないのは「うつ病ではない」可能性も

環境整備や医師の指示に従っての治療を行っていてもなかなか改善が見られない場合は、そもそもうつ病ではない可能性が考えられます。下記に当てはまるものがないか確認してみてください。

双極性障害

よく間違われる病気に双極性障害というものがあります。双極性障害は「躁うつ病」ともいわれ、名前もうつ病に似ていますが、双極性障害とうつ病は全く別の病気なので、当然治療法も異なります。服用するお薬も変わってくるので、なかなか思うように症状が改善しない場合は、再度医療機関を受診し、診断し直してもらうこともひとつの手です。

男性更年期障害

うつ病に似た症状に、男性更年期障害というものもあります。男性更年期障害とは比較的若い30代の男性にも見られるもので、女性の更年期障害と同様に不安やイライラが起こりやすくなったり、不眠や倦怠感などに悩んだりします。女性だけでなく、男性にも更年期障害があると知らない人も多いと思うので、「この症状はうつ病だ」と自己判断する前に、男性更年期の症状ではないか、はたまた別の病気になっているかもしれない、とあらゆる可能性を考えて医療機関を受診してみることが良いでしょう。

まとめ

まとめ

いかがでしたか?うつ病の治療は医師と患者さんだけの間で行われる治療ではなく、周囲の環境や人物との関わりもとても大事になってくるということを理解していただけたでしょうか。一度で全てを理解し、行動に移すことは難しいですが、まずは患者さんの気持ちに寄り添い、治すためにどのような治療法があるのかを正しく知り、医師や専門家の指示に従って忠実に治療を進めるということを大切にしてください。また、症状が改善してからも再発予防のために、一定期間は治療の継続が必要になります。根気強くじっくりと病気に向き合って少しずつ前へ踏み出すことを目標にしてみてはいかがでしょうか。

この記事の監修医師