うつ病の人との接し方とは?してはいけないことなどのポイントを解説!
誰しもがストレスにさらされながら、一生懸命に生きている現代。大きなストレスを抱え、やがて「うつ病」となってしまう人も少なくありません。うつ病は、誰であっても罹る可能性のある病気です。しかしいまだ、社会から十分な理解を得られているとはいえない状況にあるのも事実です。身近にうつ病の人やうつ病が疑われる人がいた場合、接し方に悩むこともあるでしょう。当記事では、うつ病の人とどのように接するのが良いか、また逆に、してはいけないことは何かといったことについて解説します。
監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
目次 -INDEX-
うつ病の人との接し方を知るための基礎知識
うつ病の人との接し方を知るために、まずは基本的な知識を頭に入れておきましょう。
うつ病とは
うつ病とは、気分が落ち込んだりやる気がなくなったりする病気で、気分障害の一種です。「自分とは関係ない」と考える人が少なくありませんが、実は私たちの身の回りにも多く存在しており、日本におけるうつ病の生涯有病率は約5%といわれています。
精神的なものとして、一日を通して気分が沈んでいる、何をしても楽しむことができないなどの症状が代表的です。また身体的なものでは、睡眠障害、食欲の減退、疲れやすいといった症状が出ることがあります。
これらの症状が組み合わさることで、日常生活にさまざまな支障をきたします。
原因については人それぞれ異なりますが、大きな環境の変化や過度なストレスが関係していることが多いです。以前は「心の病気」としての認識が強かったうつ病ですが、近年の研究から「脳の病気」として認知されるようになってきています。
具体的には、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れることが関与しているとされています。
うつ病の種類
うつ病には、いくつかの種類があります。ここではそのうちの主な5種類について、特徴や症状などを解説します。
・メランコリー型うつ病
メランコリー型うつ病は、多くの人が「うつ病」と聞いて最初に思い浮かべるうつ病です。メランコリーには「気分がふさぐこと」や「憂鬱」といった意味があり、心が重たく感じる、何もする気が起きない、集中できないなどの症状があります。
・非定型うつ病
非定型うつ病は、とくに20代から30代の女性に多いとされるうつ病です。普段はメランコリー型うつ病と同じく気分がふさいでいますが、友人と過ごす時などには元気になることが特徴。「新型うつ病」とも呼ばれます。過眠や過食などの症状が出ることもあります。
・季節型うつ病
季節型うつ病は、とくに冬に症状が出ることが多いうつ病です。冬は日照時間が短くなり、太陽の光を浴びる機会が少なくなるため、睡眠を調整するホルモン「メラトニン」が不足しやすくなります。睡眠のリズムが不規則になることで、疲れが取れない、ストレスを強く感じるといった症状に悩まされるようになります。これが原因で、冬になると気分が沈む人が増えると考えられています。
・産後うつ
産後うつは、女性が出産後に発症するうつ病です。ホルモンバランスの乱れや出産後の体の変化、睡眠不足、疲労の慢性化、新しい生活へのストレスなどが原因とされています。他のうつ病と同じく気分が落ち込んだり、眠れないといった症状のほか、自分の赤ちゃんに対して愛情を感じられなくなる場合もあります。
・仮面うつ病
仮面うつ病は、うつ病の大きな特徴である精神的な不調よりも、体の不調としての症状が出ることが多いです。頭痛や腰痛など、身体的な病気や単なる体調不良と感じられることが多いため、うつ病だと気づかないこともよくあります。
うつ病の主な治療方法
うつ病の主な治療方法には、薬物療法やカウンセリングなどがあります。ここでは、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
・薬物療法
うつ病の主な治療方法に薬物療法による治療が挙げられます。現在の日本で使用されることの多いうつ病の治療薬は、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬などといわれる抗うつ薬です。他にも、症状に合わせて抗不安薬や気分安定薬などが用いられます。患者さんごとに薬物療法の効果は異なりますが、うつ病の治療薬は即効性があるものではないため、服薬を続けることが大切です。また、自分の判断で勝手に薬の量を変えたり、服用を止めたりすると、副作用が起きるリスクがあるため、医師の指示どおりに服用するようにしましょう。
・カウンセリング
もう一つ、うつ病の代表的な治療方法としてカウンセリングがあります。カウンセリングの主な目的は、自分の悩みや問題に気づき、それを乗り越える手助けをしてもらうこと。カウンセラー(心理療法士)は具体的なアドバイスをせず、代わりに、患者の話をじっくり聞きながら、心のサポートをしてくれるのが特徴です。
カウンセリングは、医師の指示のもとで臨床心理士が行います。そのため、専門の医療機関から紹介されたカウンセラーによる治療を受けることが推奨されます。ちなみに、クリニックなどでは予約が必要な場合もあります。行く前に確認しておきましょう。
うつ病の治療方法には、上記で解説したものの他に、十分な休養をとって心と体を休ませることや、職場などで受けるストレスを軽減するための環境調整などがあります。医師の診断を受けたうえで、自分の状態に合った治療方法を行うようにしましょう。
うつ病の人の特徴
うつ病は誰にでもなる可能性のある疾患ですが、なりやすい人にはいくつかの共通点があります。ここでは、そんな特徴を紹介します。
うつ病になりやすい人の特徴
うつ病になりやすい人の特徴は以下の通りです。
現代社会は多忙であり、ストレスは避けられないものとなっています。こうした背景においては、ストレスをうまく処理する能力が求められます。しかし、こうした特徴を持つ人たちは、自分に対してとても厳しい基準を持っており、それが原因で自らストレスを生み出してしまうのです。「完璧でなければ」「周りの期待に応えなければ」といった強い義務感で自分を追い込んでしまいます。
また他人がリラックスしているのを見ると、「代わりに私がもっと頑張らなければ」と思ってしまい、更に負担を増やす傾向があります。このような日常が続くと、一時的な疲れに留まらず症状が悪化して、うつ病に繋がります。
うつ病になった人の特徴
うつ病になった人は、その表情や行動に特有の変化が起こります。もし、身近な人の様子が以前とは違うようであれば、それはうつ病のサインかもしれません。具体的に、どのような特徴が見られるかを紹介します。
【表情の変化】
表情に見られる変化には、以下のようなものがあります。
【行動の変化】
行動に見られる変化には、以下のようなものがあります。
うつ病は、他人から見てすぐにはわかりにくい病気です。初期段階では本人も気づいていないことがよくあります。
うつ病はいまだに「心の病気」として誤解されることが多く、環境によっては「気が弱いだけ」「やる気がないから」と判断されてしまうこともあります。しかし、そうした単純な問題ではありません。うつ病のサインに早期に気づき、適切な対応やサポートをすることが重要です。
うつ病の疑いを感じたら
身近な人に対して「うつ病かも?」と感じたら、私たちに何ができるでしょうか。いざという時のため、その対処法を知っておきましょう。
早期にメンタルクリニックの受診を勧める
うつ病の兆候を感じた場合、速やかに本人が専門の病院やクリニックを受診することが理想です。しかし、思考力が低下していたり、自分が「うつ病だ」という状態を認めたくなかったりして、受診に至らないことも多いです。
このような場合、家族や親しい人が同伴して受診することをおすすめします。診断結果を家族と一緒に聞くことで、情報を聞き漏らしてしまうことを防ぎ、また家族も病状の理解を深めることができます。
すぐに受診するのが難しい場合は、かかりつけ医や精神保健センター、NPO団体などの相談窓口を活用するとよいでしょう。
うつ病の治療には周囲の人の理解と協力が必要
うつ病の治療には、家族や職場の人々の理解と協力が欠かせません。本人は怠けているわけではなく、苦しんでいます。まずそこを理解し、寄り添うことから始めましょう。
うつ病の治療には、ストレスを避け、十分な休養をとることが必要です。
うつ病の症状が出ている人は、意識の低下や外出への恐怖、何をするのもおっくうになっている可能性があります。通院の際に付き添ってあげたり、送迎をしてあげることも大切です。うつ病は「怠け」ではなく、病気です。そこを理解し、愛情をもってサポートしてあげましょう。
うつ病の人との接し方でしてはいけないこと
うつ病の人とどのように接したらいいか、迷うこともあるでしょう。ここでは、「してはいけないこと」をご紹介します。
無理に励ますこと
「こんなことを試してみたら?」や「こうすればいいのに」という過度なアドバイスや提案を避けるようにしましょう。
熱を出して苦しんでいる人に、「思い切って外を走ってくれば熱も下がるよ!」とアドバイスする人はいないでしょう。同様に、うつ病の人は心が弱っている状態です。「頑張れ!」と無理に励ましの言葉をかけられても、それを実行するのは難しいのです。
また、うつ病になる人は元来、真面目で周囲の期待に応えたいという思いの強い人です。励ましに応えられなかったことに対し、自分を責め落ち込んでしまうことも少なくありません。するとますます追い込まれ、悪循環に陥ります。善意の励ましがかえって状況を悪化させることにならないよう、注意が必要です。
説教すること
励ますのとは真逆のことですが、「怠けちゃダメ」「もっと頑張らないと」などと説教することも絶対に避けましょう。
説教されることで「やっぱり自分はダメな奴なんだ」と自己否定の感情を強めてしまい、うつ状態が悪化する可能性が高まります。あくまでもうつ病は脳の病気です。必要なのは気合や説教ではなく、適切な治療なのです。
普段とは違う扱いをすること
うつ病を治療するには、適切な支援が欠かせません。
職場や家庭で抱える仕事量が多い場合は、それがストレスの原因となっている可能性があります。その場合は他の人が分担するなどして、うつ病の人がなるべくゆっくり休めるよう環境を整えることが大切です。
一方で、過度に特別扱いして腫れ物に触れるような態度を取ることも避けるべきです。なぜなら、そうした普段と違う扱いが、うつ病の人にとって逆に重荷になる可能性があるからです。
「自分がダメだから、周りに迷惑をかけている、気を遣わせている」と感じると罪悪感を覚え、申し訳なさから症状が悪化してしまうことがあります。
1人にして放っておくこと
特別扱いはいけませんが、放っておくのも避けましょう。孤独感が募り、症状の悪化につながることもあります。
しっかりとコミュニケーションを取り、彼らのサインを見逃さないようにすることが重要です。適切な距離感を保ちながら、支えとなる存在として寄り添いましょう。
うつ病の人との接し方のポイント
うつ病の人との接し方で、覚えておきたいポイントをお伝えします。
相手が話したがっている時に側にいてあげる
うつ病の人は、心に強いストレスを抱えながら毎日生活しています。悩みを吐き出したい時があれば、逆に一人でいたい時もあるのです。本人が話したくない時はそっとしておき、逆に話したがっている時には耳を傾ける。こうした姿勢が大切です。
安心させてあげられる言葉をかける
「無理しないでね」や「休んでいいんだよ」といった優しく、安心できる言葉は、うつ病の人にとって心安らぐものです。
彼らは日常の小さな出来事にも疲れやすく、傷つきやすい状況にあります。うつ病の人は、何より休むことが大切です。そうしたメッセージを伝え続けることで、気持ちが楽になります。
休養が取れる環境を作る
家族や職場の理解と協力は、うつ病の治療に不可欠です。よくうつ病について深く理解していない人が「怠けているだけ」と言うことがありますが、それは間違っています。
うつ病の人に必要なのは、ストレス要因から遠ざかり、しっかりと休養を取ることです。周囲の人はそのための環境を整え、休めるようサポートしてあげましょう。
重要な決定は先延ばしにする
日常の選択から大きな決断まで、うつ病の人へ迫るべきではありません。うつ病のせいで決断力が鈍り、思考力が弱まっていることがあるからです。
重い決断をすることは、それだけ大きなストレスがかかることでもあります。大切なのは、うつ病の人が自らのペースで決断できる状態になるまで、忍耐強くサポートすることです。
まとめ
周りにうつ病の人がいないと、いざという時の接し方に迷ってしまうことがあるでしょう。また適切な知識なく接することで、意図せず相手を傷つけてしまったり、うつ病を悪化させてしまったりすることにもなりかねません。
うつ病の人が良くなるまでの道のりでは、周囲の理解やサポートが欠かせません。まずはうつ病について正しい知識を身につけ、そのうえで自分にできることから始めてみましょう。
その思いやりが、うつ病に苦しむ人が治療というゴールを目指すうえでの、大きな助けとなるのです。