妊娠糖尿病は食事が大事!妊娠糖尿病の原因・症状・食事管理について解説
糖尿病という言葉を耳にしたことがある人は多いと思いますが、どのような病気かご存じですか。糖という言葉から、甘い食べ物をたくさん食べている人がなりやすいというイメージがある方もいるのではないでしょうか。
糖尿病は、一度発症すると治癒することはありません。そして、放置してしまうと網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こしてしまいます。
さらに進行して末期になると視力を失ってしまったり、透析による治療が必要となったりすることがあるとされており十分な注意が必要な病気です。
糖尿病の病型は、1型糖尿病・2型糖尿病・その他・妊娠糖尿病の4種類に分類されており、こちらでは女性が赤ちゃんを妊娠中にかかる病気である妊娠糖尿病について紹介していきます。
妊娠による糖尿病の原因や症状、食事の管理方法について紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
目次 -INDEX-
妊娠糖尿病は食事が大事!
妊娠糖尿病とは、お腹に赤ちゃんがいると血糖値をうまくコントロールできなくなってしまう糖代謝の異常を引き起こす病気のことです。
妊娠により糖尿病になると血糖値が高くなり過ぎてしまい、それが原因でさまざまな病気を引き起こしてしまうことがあるとされているのです。
妊娠中の女性の糖尿病は3種類に分類されます。もともと糖尿病と診断されている女性が妊娠した場合を「糖尿病合併妊娠」、妊娠中の検査で糖尿病の基準を満たし糖尿病が判明した場合を「妊娠中の明らかな糖尿病」、妊娠中の検査で糖尿病の基準を満たすほどではないものの胎児への悪影響が証明されている血糖の基準を超えている軽症の糖代謝異常を「妊娠糖尿病」と呼びます。ややこしいですが、このように細かく分類分けがされていることを知っておきましょう。
妊娠しているときに糖尿病にならないようにするには、適正な食事を心がけることが大事でしょう。
妊娠による糖尿病は遺伝的な糖代謝の異常以外に、太り過ぎによる肥満によって脂肪細胞のインスリン抑制をきっかけに発症することがあります。
お腹に赤ちゃんがいるとかなり食欲が増すことがあるため、適正なエネルギー量を考えたバランスの良い食生活が大切です。
妊娠糖尿病の原因
妊娠しているときに糖尿病になる原因とは、一体何なのでしょうか。2つの原因について、詳しくみていきましょう。
妊娠中はインスリンを阻害するホルモンが分泌される
女性は妊娠すると、血糖値が上がりやすい状態となります。
糖代謝の異常というのは、膵臓で作られるインスリンというホルモンの量や働きが不十分となってしまい、血糖の調節がうまくいかなくなった状態のことです。
インスリンには、血糖を下げる働きがあるといわれています。しかし、妊娠すると胎盤からでるホルモンの働きでインスリンの働きが抑えられてしまうのです。
さらに、胎盤でインスリンを壊す働きである酵素ができてしまうことによって、妊娠していないときと比べてインスリンが効きにくい状態になってしまうことから血糖が上がりやすくなります。
このため、妊娠中や特に妊娠後半に高血糖になる場合があり、一定の基準を超えると妊娠糖尿病と診断されるのです。
血糖値が下がりにくくなる
インスリンは、血糖値を下げる働きがあるホルモンです。そのため、妊娠による糖尿病になってしまうとインスリンが十分に分泌されなかったり、働かなくなったりしてしまい血糖値が下がりにくくなります。
つまり、妊娠しているときは妊娠していないときと比べると、血糖値のコントロールが難しくなるということです。そして、妊娠中に血糖値が高くなる妊娠糖尿病を発症すると考えられています。
妊娠糖尿病の症状
妊娠によって糖尿病になると、どのような症状が現れるのでしょうか?
実は、母体であるお母さんには自覚症状がほとんどないといわれているのです。そのため、検査をきっかけに妊娠による糖尿病の診断を受けるという方は珍しくありません。
お母さんには自覚症状がないため病気に気づくことができず、知らない間に糖尿病が進行してしまいます。
妊娠による糖尿病は適切な治療をしないと、母体であるお母さんや赤ちゃんにとって重篤な病気を誘発してしまうとても注意が必要な病気です。
妊娠による糖尿病などの病気を早期発見するためにも、定められた妊婦定期健診を怠ることなく受診しましょう。そして、医師から指示された検査をしっかりと受けることがとても重要なのです。
妊娠による糖尿病の診断方法は、尿検査です。血糖値が高くなると尿糖の陽性反応が出ることがあります。尿糖の反応が出た場合は妊娠による糖尿病を疑い、必要な検査へとステップアップしていくことになるのです。
妊娠による糖尿病の診断に必要となる検査は2段階になっており、血液検査の値によってブドウ糖負荷検査の実施を決定する流れとなります。
ただし、血液検査の値によって明らかに重度の糖尿病が疑われる場合は、ブドウ糖負荷検査をせずに妊娠による糖尿病の診断を受けることもあるでしょう。
繰り返しますが、妊娠糖尿病には自覚症状はありません。しかし、妊娠による糖尿病が引き起こす病気は数多くあり、母体であるお母さんや赤ちゃんの命に関わる注意すべき病気なのです。
まず、妊娠による糖尿病が引き起こす母体であるお母さんの病気として、
- 妊娠高血圧症候群
- 流産
- 早産
- 羊水過多
- 膀胱炎、腎盂炎などの感染症
- 血管障害
- 網膜症
- 脱水・意識障害・昏睡・ショック症状を引き起こすケトアシドーシス(急性代謝異常)
次に、妊娠による糖尿病が引き起こす赤ちゃんの病気として、
- 子宮内胎児死亡
- 新生児低血糖
- 新生児ビリルビン血症
- 低カルシウム血症
- 呼吸窮迫症候群
- 先天奇形
- 発育遅延
- 心臓の肥大
- 多血症
- 電解質異常
- 黄疸
などが挙げられます。
お母さんと赤ちゃんがともにこのような病気にならないためにも、必要な妊婦健診を怠ることなく医師の指示に従うことが大切となります。
妊娠糖尿病の食事管理
妊娠による糖尿病と診断された場合の治療は、主に食事を改善する療法・運動をすることによる療法・薬を服用する療法の3種類に分かれます。
妊娠による糖尿病のレベルによって医師が適切な治療方法を提案してくれます。その場合は医師の指示に従い、しっかりと血糖値をコントロールしましょう。
医師の指示によっては、自己血糖測定といってお母さん自身が血糖を測ることもあるでしょう。そうすることで、血糖のコントロールが順調であるかどうかを自分でチェックすることができます。
こちらでは、食事について詳しくみていきましょう。
過剰なカロリー摂取に注意する
妊娠している女性の適正なエネルギー量を参考にして、自分に必要な分だけのエネルギーをバランスのよい食事から摂取することが非常に大切です。
間食としてスナック菓子や砂糖を多く含む食品を食べることは控え、ヨーグルト・小魚・アーモンドなどの血糖値を緩やかに上昇させる食べ物を選ぶことで過剰なカロリーを摂取しないように注意しましょう。
高血圧になりやすい食事を避ける
塩分が多い漬物や汁物を食べる頻度を減らし、野菜・海藻・きのこ類を積極的に摂るようにしましょう。また、肉ばかりでなく魚を食べることも大切です。
市販で販売されているような甘い飲み物・お菓子の食べ過ぎには注意しましょう。
野菜から食べるようにする
野菜には食物繊維が豊富に含まれていることをご存じですか。野菜を食べることで食後の血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。
また、野菜を食べることにより腹持ちが良くなるため食べ過ぎを防ぐことができるでしょう。
ゆっくり食べる
食事はゆっくりとよく噛んで食べましょう。食後には上昇した血糖値を下げるために、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。
しかし、早く食べることによって短時間で急激に血糖値が上昇してしまうと膵臓のインスリンの分泌が追いつきません。
このような状態が続くと膵臓に負担がかかってしまい、インスリンの分泌が弱まります。さらに、内臓脂肪が増えるとインスリンの効きが悪くなるのです。
そのため、ゆっくりと噛んで食事をすることが大切です。
分割食を取り入れるのもおすすめ
分割食を試してみるのもおすすめです。分割食とは、通常なら朝・昼・夕の3回の食事を6回に増やします。6回と聞くと食べ過ぎてしまうのではないかと思いますが、回数を増やす分だけ1回あたりの食事量を減らしましょう。
そうすることで、血糖値の上昇率を下げることができます。
食事量を減らすため、適度に間食を取り入れましょう。そうすることで、1日に必要なエネルギーを摂取しながら、血糖値の上昇を抑えることが可能です。
妊娠糖尿病になりやすい人は?
妊娠による糖尿病になりやすい人とは、どのような人なのでしょうか。
妊娠による糖尿病は、妊娠している女性であれば誰にでも起こり得る病気です。その中でも、特に妊娠による糖尿病になりやすい体質の方がいます。
「妊娠によってたまたま血糖が高くなって妊娠糖尿病になった」というわけではなく、「糖尿病の予備軍で将来的に糖尿病へ進行する可能性が高いお母さんが妊娠によってあらわになった」との考え方に変わっているといれているのです。
以下に該当する人がすべて妊娠による糖尿病になるわけではありませんが、該当する場合は特に気を付けながら妊娠期間を過ごす必要があるでしょう。
肥満の人
肥満の女性の方は妊娠しているかどうかに限らず、一般的な糖尿病になりやすい人と同じ特徴です。
高齢出産の人
いわゆる高齢出産といわれる35歳以上の方のことです。この場合も、一般的な糖尿病になりやすい人と同じ特徴といわれています。
糖尿病の家族がいる人
糖尿病の家族がいる場合、一般的な糖尿病になりやすい人と同じ特徴です。
妊娠高血圧症候群の人
高血圧の場合も、一般的な糖尿病になりやすい人と同じ特徴です。
大きな赤ちゃんを産んだことがある人
妊娠中のお母さんの高血糖が、お腹の中の胎児の過成長につながることが知られています。よって、過去に巨大児を出産したことのある女性は、糖尿病になりやすいとされています。
原因不明の死産や流産などを経験した人
死産した原因がわからない場合や過去に流産をしてしまった人は、妊娠による糖尿病になりやすいとされています。
羊水過多の人
「ようすいかた」と読み、赤ちゃんがいる場所である子宮の中にある羊水が多くなりすぎている場合は、妊娠による糖尿病になるリスクがあります。
尿糖が陽性の人
尿糖は、健常である妊婦でも陽性(+)になることがあります。しかし、尿糖の原因が妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠である可能性は否定できないので注意が必要です。
妊娠糖尿病は赤ちゃんに影響がある?
妊娠による糖尿病は、お腹の中の赤ちゃんにどのような影響があるのでしょうか?
妊娠糖尿病の症状のところで紹介した子宮内胎児死亡・新生児低血糖などの病気はもちろん、ほかにも赤ちゃんへの影響があります。
まず、妊娠糖尿病と診断されたお母さんから生まれた赤ちゃんは無事に生まれても、成長してから肥満や糖尿病になりやすいことがHAPO研究において明らかとなっています。
つまり、お母さんが妊娠糖尿病にならないことで、赤ちゃんを肥満や糖尿病から守ることができるわけです。
また、妊娠による糖尿病だったお母さんは産後に正常値になった場合でも糖尿病に移行しやすいため、定期的な検査が非常に大切です。
次に、先天奇形となるリスクがあります。
妊娠初期といわれる4週~9週に赤ちゃんのさまざまな臓器が作られます。そのときにHbA1c 7%または空腹時血糖値が120mg/dlを超える場合、先天奇形のリスクが高くなる可能性があるといわれているのです。
赤ちゃんの先天奇形を防止するためにも、リスクファクターをもっているお母さんは必ずスクリーニングを受けましょう。そして、血糖の異常を把握している場合は計画的に妊娠することも重要となります。
ほかには、巨大児などのリスクがあるでしょう。お母さんの高血糖は、胎盤を通って赤ちゃんに移動してしまいます。
さらには、赤ちゃんの膵臓を刺激することとなり、過剰にインスリンを分泌する状態である高インスリン血症となるのです。
インスリンは、赤ちゃんにとって成長するための強力な因子の一つです。よって、それが過剰に分泌されてしまうことで巨大児となってしまうのです。
なお、巨大児とは正期産児で出生体重が4000g以上のことをいい、主な原因は母体であるお母さんの糖尿病であることがわかっています。
さらに合併症として、分娩外傷・低血糖・過粘稠度および高ビリルビン血症が挙げられます。
赤ちゃんの体が大きいことにより、鎖骨骨折または四肢長管骨骨折のような分娩損傷だけでなく、周産期仮死のリスクを増大させてしまうのです。
また、赤ちゃんの内臓の発達が未成熟となってしまいます。そのため、呼吸障害や高ビリルビン血症・低カルシウム血症が生じます。
特に、赤ちゃんがどんどん大きくなる妊娠中期や後期に高血糖となってしまうと、赤ちゃんが平均よりも大きくなってしまうでしょう。
そうするとお母さんの出産が難産となったり、赤ちゃんに発育遅延が生じたりすることがあります。
このようなことにならないためにも、母体の血糖値の管理が重要です。それが、合併症リスクを最小限に留めることへと繋がります。
編集部まとめ
妊娠中の病気である妊娠糖尿病について、詳しく紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
お母さんが妊娠中に糖尿病になると母体であるお母さんはもちろん、生まれてくる赤ちゃんにもリスクを背負わせることになります。
さらには、妊娠糖尿病と診断されたお母さんは10年後までに2型糖尿病を発症するリスクが高まることが知られています。
何より一番恐ろしいのが、妊娠による糖尿病には自覚症状がないことではないでしょうか。
妊娠している自分の体に自覚症状がないからといって、妊婦検診を疎かにしてはいけません。妊娠糖尿病は、尿検査と必要に応じた血液検査で知ることができる病気です。
無事に出産を終えるために、医師の指示に従って必要な検査を必ず受けるようにしましょう。
それだけで、母子ともに将来の病気のリスクを減らすことになるのです。無事に出産を終えるために、食生活から見直してみてはいかがでしょうか。