物忘れがひどいのはなぜ?認知症の兆候や20代~30代に起こる若年性健忘症の特徴・物忘れを伴う病気も解説
ふとしたに何をしようとしていたのか忘れたり、約束を忘れたりといった経験をしたことがありませんか。物忘れは誰もが経験する現象だといえます。
物忘れにはさまざまな原因があり、必ずしも病気だとはいえません。しかし中には重大な疾患が物忘れの原因になっていることもあります。
その場合、物忘れが単なる「物忘れ」と片付けてしまうと、重大な疾患を見逃してしまう可能性があり注意が必要です。
この記事では物忘れの原因・見分け方・疑うべき病気などについて解説します。
物忘れがひどいときに受診すべき医療機関や対処法についても解説するので、ぜひ最後まで読んで参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
物忘れがひどいのはなぜ?
冒頭で述べたように、物忘れにはさまざまな原因があります。物忘れの主な原因は加齢・認知症・ストレスなどです。
物忘れの原因を特定するのは難しいと思われるかもしれませんが、実はそれぞれ特徴があります。
一般的に知られている物忘れは加齢によるものですが、認知症やストレスによる物忘れは特に注意が必要です。以下、それぞれ詳しく解説します。
加齢によるもの
加齢によって物忘れがひどくなることは、私たちにとってイメージのしやすい現象だといえます。しかしそれはなぜなのでしょうか。
そもそも記憶は過去のエピソードなどの「遠隔記憶」と直近のできごと・暗記した内容などの「近時記憶」に分けられます。
このうち加齢の影響を受けるのは近時記憶だとされています。そのため、直近のできごとやこれからやろうとしていたことなどを忘れてしまうなどの現象が起こりやすくなるのです。
認知症によるもの
認知症は加齢に伴って発生する可能性は高くなりますが、必ずしも加齢によるものではありません。主に認知症の原因となる物質が脳にたまることで発症します。
認知症では記憶に関する障害が起こるほか、言語能力にまで影響が及びます。その結果、行動・心理状況に大きな変化が起こるのです。
高齢者は特に加齢に伴う物忘れだと勘違いされることが多く、見分けるのが難しい病気だといえます。
だからこそ日頃から些細な兆候を見逃さないように注意することが大切です。
ストレスなどによる一時的なもの
最後にストレスによる物忘れです。意外かもしれませんが、ストレスは記憶に影響を与えます。
しかしストレスによる物忘れは必ずしも悪影響とはいえません。ストレスはメンタルへの影響が強く、ストレスの原因となった事象を鮮明に覚えていることはメンタル的にマイナスだからです。
そのため強いストレスを経験したとき、脳はその影響を軽減すべく、ほどよく忘れる方向に働きます。
加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは?
先述したように、物忘れの原因には加齢による自然なものと認知症による症状が含まれます。どちらも高齢者に多いという点で見分けるのが難しいです。
しかし両者には明確な違いがあります。それは、物忘れをした人が何を忘れていたのかを思い出せるかという点です。
一見シンプルですが、本人がヒントを得て物事を思い出せる場合、認知症で見られる傾向を明確に否定することが可能です。
認知症には基本的に記憶・言語・視空間認識が伴います。つまり、物事を認識する前提で支障をきたしている状態です。そのため物忘れの内容そのものを思い出すことが不可能となるのです。
認知症が疑われるときは、あらゆる角度から本人にヒントを与えるなどして、認識能力の有無を確認しましょう。
認知症の兆候については以下で詳しく解説します。
認知症の兆候
上記では物忘れの原因や認知症との見分け方などについて解説しました。
ここからは認知症の兆候として考えられるものを解説します。普段うっかりしてしまう内容も多いかもしれませんが、もしかするとそこには認知症の可能性が潜んでいるかもしれません。
以下、認知症の特徴を踏まえながら解説します。
同じことを何度も言う
認知症になると、同じことを何度も言う兆候がみられます。主に前頭側頭型認知症に多いです。
前頭葉・側頭葉は言葉を理解し、理性的に行動するためには欠かせない部分です。
しかし前頭葉・側頭葉が萎縮することでこれらの能力に支障をきたし、言語や行動に異常がみられることがあります。
特に同じ話・行動を繰り返すという現象は本人が安定を求めて無意識に行う動作です。そのため前頭側頭型認知症においては大きな環境の変化は避けた方が無難です。
通いなれた道で迷う
通いなれた道で迷うことも認知症の兆候の1つです。これは視空間認識に支障をきたしている状態です。
視空間認識は主に大脳後方がその役割を担っています。しかし大脳後方が何らかの原因で働かなくなると道に迷ったり、図形などを正しく認識できなくなったりします。
このような兆候はアルツハイマー型認知症によくみられる特徴です。認識障害に該当するため、ただの物忘れだと軽視せず医療機関を受診しましょう。
約束を忘れる
約束を忘れることは日常でついうっかりしてしまいそうな事ですが、こちらも認知症の兆候だといえます。
このような兆候はアルツハイマー型認知症の初期にみられます。アルツハイマー型認知症の初期では先述した近時記憶に支障をきたすからです。そのため、新しいことを覚えるのが苦手になります。
昨日約束した待ち合わせ場所にこない、提出物を忘れるなどの兆候が確認された場合、アルツハイマー型認知症の可能性が考えられます。
電車・バスで降りる場所を間違える
電車・バスで降りる場所を間違えることもよくあることかもしれませんが、こちらもアルツハイマー型認知症を疑うべき兆候です。
「通いなれた道で迷う」場合と同じで、こちらは視空間認識に支障をきたしている状態です。その中でも特に見当識障害を起こしている可能性が高いです。
見当識障害を起こすと、時間や場所の感覚がわからなくなり、日常生活に支障をきたします。
電車・バスで降りる場所を間違える場合、このような障害が脳で引き起こされている可能性があるのです。
20代~30代に起こる若年性健忘症の特徴
先述したように、物忘れの原因には認知症などの重大な疾患が影響しているものがあります。
しかし認知症以外を原因とする物忘れもあります。それは健忘症です。特に20代〜30代で発症する健忘症を若年性健忘症と呼びます。
健忘症は一般的な物忘れと似ていますが、物忘れがひどくなって職場・私生活において支障をきたすレベルになると健忘症と呼ばれます。
一般的には老化と共に問題視されることの多い物忘れが、若者でも多く起こることに違和感を覚えるかもしれません。
しかし若年性健忘症はテクノロジーや情報網の発達した現代における現代病ともいえます。
なぜなら、若年性健忘症は脳の使用頻度が落ちることによって引き起こされるといわれているからです。
スマホやパソコンで何でも調べられる現代において、脳を使う頻度は減少しているといえます。
また、強いストレスなども健忘症に影響しています。特に20代の青年時代においてストレスをうまく対処することは重要なのです。
物忘れがひどい場合に疑うべき病気
先述したように、物忘れには認知症や健忘症などさまざまな種類があります。しかし物忘れそのものは、ほかの病気の症状としても現れることがあります。
ここでは物忘れがひどいときに疑うべき病気について解説します。思い当たる症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。
一過性全健忘
物忘れが多いときに疑うべき病気として、まず一過性全健忘が挙げられます。主に記憶が追加できないなどの症状がみられます。
ふとしたときに「なぜここにいるのか」「何をしていたのか」など、状況が認識できないといった感覚を覚えます。ただし「一過性」とあるように、症状はあくまで一時的です。
一過性全健忘の原因は不明ですが、強いストレス下で発症する傾向があるようです。数日経ってからMRIにて海馬への影響がみられることもあります。
正常圧水頭症
正常圧水頭症とは、髄液が脳に溜まることで脳機能に支障をきたす病気です。症状としては、物忘れや尿漏れなどがみられます。
正常圧水頭症における物忘れの特徴は、集中力の低下・無気力感などを伴うことです。客観的にみて元気がないように見える傾向があります。
高齢者に多い傾向がありますが、原因が特定できていないのが現状です。
高次機能障害
高次機能障害は、外的・内的要因によって脳がダメージを受けた場合に発症します。主に言語・思考などの知的能力に支障をきたします。
その結果、記憶力・集中力が低下し、新しいことや最近のできごとを覚えられない・思い出せないことが頻繁に起こるのです。
ただし高次機能障害はあくまで記憶に関する障害であり、見当識に支障をきたす認知症などとは異なり、時間・場所などに関する認識は基本的に正常です。
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、打撲などの外傷によって脳と頭蓋骨の間に血腫ができる病気です。外傷を受けた時期から1〜2ヶ月程度でできることが多いのが特徴です。
進行すると、言葉がうまくでない・反応が鈍るなどの症状が出てきます。場合によっては歩行などにも影響してくるので注意が必要です。
血腫が進行することで悪化する病気ですが、必ずしも外傷を伴うとは限りません。そのため発見が難しい病気ともいえます。
高齢者においては認知症と勘違いされるケースもあるため、早期に医療機関を受診して原因を究明するのが得策です。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、文字通り甲状腺(のど仏あたり)の病気です。意外かもしれませんが、喉の病気は記憶に影響を与えるのです。
甲状腺では甲状腺ホルモンと呼ばれる物質が分泌されますが、このホルモンが基礎代謝の維持などに大きな役割を果たしています。
そのため甲状腺機能低下症になると基礎代謝が悪化するほか、無気力になる・記憶力が低下するなどの症状を引き起こします。
甲状腺機能低下症は主に自己免疫能力の異常が原因とされており、長期にわたる薬物治療が必要です。
うつ病
うつ病は認知症の症状と非常に似通っています。うつ病においても、簡単な計算ができない・同じ話を繰り返すなどの症状が顕著に見られるのです。
しかし、うつ病には大きなストレスを受けた経験があるなどの明確な出来事がある場合が多いです。
そのため事件・事故があった直後に上記のような症状がみられた場合には、認知症よりもうつ病を疑うのが妥当だといえます。
うつ病の場合、症状は一時的とはいえません。医療機関を受診のうえ、然るべき治療を受ける必要があります。
自律神経失調症
自律神経失調症とは、基礎代謝などをつかさどる交感神経・副交感神経のバランスが崩れる事でさまざまな症状を引き起こす病気です。
症状としてはめまい・吐き気・集中力の低下・記憶力の低下などが挙げられます。
自律神経のバランスはメンタル面に大きく左右されます。そのため過度のストレスなどは自律神経失調症の原因として最も多いのです。
適度にストレスを発散し、メンタルの状態を健全に保つことが大切です。
物忘れがひどい場合は何科を受診する?
物忘れがひどい場合、どの医療機関を受診すればよいか迷う方が多いと思います。記憶をつかさどるのは脳なので、脳神経外科を受診する方も多いでしょう。
実はあまり知られていませんが、多くの医療機関で「物忘れ外来」という窓口が設置されています。
物忘れ外来では精神科・脳神経外科専門の医師が担当していますが、いずれも基本的には物忘れや認知症に関するスペシャリストです。
初回の相談でどのような診断を下されるかは非常に重要なポイントです。物忘れを専門的に取り扱っている物忘れ外来を受診することをおすすめします。
物忘れがひどい場合の対処法
基本的に物忘れがひどい場合の対処法は治療するか進行を遅らせるかのどちらかです。
先述した認知症やほかの病気などが疑われる場合は、まずは物忘れ外来などを受診して適切な治療法を仰ぎましょう。
ただし、病気とまではいえないようなレベルの物忘れの場合は加齢による影響が大きいかもしれません。その場合は進行を遅らせるのが得策です。
進行を遅らせるためには、積極的に脳を使って刺激を与えることです。また、食事などの生活習慣を見直してメリハリのある健康的な生活をおくることも大切です。
編集部まとめ
この記事では物忘れの原因・見分け方・疑うべき病気などについて解説しました。
物忘れは加齢とともに起こることが多い現象ですが、頻度・内容によっては重大な疾患が隠れている可能性があります。
特によく知られている認知症と単なる物忘れの違いは、何を忘れていたのかを思い出せるかどうかにあります。
ただし物忘れのすべてが認知症とは限りません。高次機能障害・うつ病などにも症状の1つとして「物忘れ」があるからです。
日常生活の中で単なる物忘れでは説明ができないような重大な疾患が疑われる場合は、医療機関を受診して適切に対処しましょう。
参考文献
- 第2章症候,評価尺度,検査,診断
- 「忘れる」ことは悪いこと?|一般社団法人 町田市医師会
- 認知症かもしれないと思ったら-早期診断が重要-
- 正しく知ろう認知症!
- アルツハイマー病型認知症について|千葉県医師会
- 若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き
- 一過性全健忘について|土浦市医師会
- 特発性正常圧水頭症|地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
- 高次脳機能障害について
- 慢性硬膜下血腫|一般社団法人 北見医師会
- もの忘れ外来って何?|認知症介護研究・研修センター
- 認知症になりにくい生活は|一般社団法人 小金井市医師会
- 甲状腺機能低下症|一般社団法人 日本内分泌学会
- 認知症、うつ病発症予防対策の一環として─特に一人暮らしの中高年の難聴者について─|新潟市医師会事務局