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「頑張れなくても大丈夫」心のケアを大切に、妊娠・出産に寄り添う【京都府向日市 ハシイ産婦人科】

 公開日:2025/06/23

頑張れなくても大丈夫」心のケアを大切に、妊娠・出産に寄り添う
頑張れなくても大丈夫」心のケアを大切に、妊娠・出産に寄り添う

妊娠、出産は人生の一大イベント。喜びと希望に満ちた出来事であると同時に、不安や戸惑いを感じることも少なくない。そんな妊婦さんやご家族に寄り添い、温かく支えることを信条としているのが京都府向日市のハシイ産婦人科だ。院長の橋井先生と丸山先生に、現代の妊娠・出産事情やクリニックの取り組み、そして医師としての思いについてお話を伺った。

Doctor’s Profile
橋井康二(はしい・こうじ)
ハシイ産婦人科 院長

大阪医科大学(現:大阪医科薬科大学)卒業後、関連病院での勤務を経て、2007年よりハシイ産婦人科2代目院長に就任。豊富な臨床経験を持ち、婦人科系のがんにも詳しい。日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医、母体保護法指定医、日本母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)監事、アジア医療支援機構理事長。

丸山俊輔
ハシイ産婦人科 勤務
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本周産期・新生児医学会 周産期(母体・胎児)専門医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医、日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医、母体保護法指定医、日本がん治療認定医機構 日本がん治療認定医、女性ヘルスケアアドバイザー。

藤井 剛
ハシイ産婦人科 勤務
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/指導医、日本がん治療認定医機構 がん治療認定医、母体保護法指定医

斎藤 仁美
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/指導医、日本周産期・新生児医学会 周産期(母体・胎児)専門医、母体保護法指定医、日本東洋医学会 漢方専門医、日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、

佐藤 幸保
日本生殖医学会 生殖医療専門医、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本周産期・新生児医学会周産期専門医、日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、母体保護法指定医

妊娠・出産はご夫婦にとって人生の大きな節目かと思います。そうした中で、時代の変化とともに環境にも変化はあるのでしょうか?

やはり「核家族化」は大きな影響を与えていると思います。昔は親や親戚、近所の人たちが自然にサポートしてくれる環境がありましたが、今はお母さんが一人で育児を担う、いわゆる「ワンオペ育児」が多くなっています。とくに初めての妊娠・出産では、まったくの未知の体験ですから、その不安や孤独感は想像以上のものです。

変わりゆく妊娠・出産のカタチ

最近では不妊に悩むご夫婦も多いと聞きます。原因や対応について教えていただけますか?

不妊の原因としてよく挙げられるのが「年齢」です。30歳を超えると妊娠の可能性は徐々に下がってきます。卵子の質や数にも影響が出てくるんですね。
不妊治療においても、たとえば比較的若い方なら採卵数が2~3個でも妊娠の可能性は十分ありますが、年齢が上がると10~20個の卵子で妊娠に至るのは1個あるかどうかということもあります。
月に1回採卵して、毎回「今回はダメだった」となるのは身体的にも精神的にも相当しんどいでしょう。そこで当院では、少しでも妊娠の可能性を高めるために、無理のない範囲でたくさんの卵子を採取できるようにサポートしています。

変わりゆく妊娠・出産のカタチ

分娩方法について、どんな方法がありますか?

分娩方法には、主に自然分娩、無痛分娩帝王切開の3つがあります。
無痛分娩は麻酔によって痛みを軽減できますが、安全性の確認や麻酔の副作用、また陣痛促進剤の使用など、慎重な判断が必要です。「計画分娩」としてあらかじめ日程を決めて行いう施設もありますが、当院では「オンデマンド無痛分娩」といって、陣痛が始まってから麻酔を入れる方法を採用しています。できるだけ自然な流れを大切にしながら、最後の痛みだけを和らげるという考え方です。
帝王切開については、赤ちゃんに要因があるケースがほとんどです。逆子、多胎児、胎児仮死(胎児ジストレス)などが挙げられます。そういったときは、赤ちゃんを安全に早く出してあげることが最優先です。

「あなたは一人じゃないよ」と伝えたい

「あなたは一人じゃないよ」と伝えたい

初めて出産を経験される妊婦さんには、不安や悩みも多いのではないでしょうか?

核家族化も影響して、経験談を聞ける場が少ないので「何が起きるのかわからない」「どう臨めばよいのかわからない」という不安がつきまといます。
お母さんやおばあちゃんがいても、自分の出産の記憶があまり残っていなかったりして、参考になる話が聞けないこともある。つまり、完全に「初めての経験」なんです。

そうした妊婦さんの不安に、先生はどう向き合っておられますか?

「自分だけが不安なのでは?」「こんなに悩んでいるのは自分だけ?」と思っている方が多いと感じます。2回、3回と経験している方でも、お産は毎回違うんです。だから、何度目であっても不安になるのが普通なんですよ。
私はいつも「頑張れなくて大丈夫。気張らなくていいよ」と声をかけています。

とても心強い言葉です。妊婦さんにとって日常生活で心がけるべきことはありますか?

まずは「無理をしない」こと。たとえば仕事をしている妊婦さんだと、予定されていた仕事を何としてもこなそうと頑張ってしまう。でも、しんどいときは諦めていいんです。
「これを食べなきゃ」「運動しなきゃ」といった情報に縛られず、自分と赤ちゃんを第一に考えてください。

妊娠中のお悩みで、よくあるものは何ですか?

むくみ、不眠、頻尿などが多いですね。特にむくみは、体質や食事、ホルモンなど複合的な原因があります。
必要があれば漢方薬を使ったり、食事指導を行ったりしますので、遠慮なく相談していただきたいです。

退院後のケアも大切ですよね

そうですね。出産後2週間ほどは、マタニティブルーになりやすい時期です。3人に一人が経験するといわれています。当院では、退院後にも電話での相談を受け付けていますし、24時間いつでも連絡できる体制を整えています。心のケアも大切にしています。
さらに、月に3回、心理療法の専門家にも来てもらっています。出産は体だけでなく心にも大きな変化をもたらすものですから、安心して頼ってもらえたらと思います。

「あなたは一人じゃないよ」と伝えたい

命の誕生の現場に向き合う、産婦人科の役割とは

命の誕生の現場に向き合う、産婦人科の役割とは

先生が産婦人科医を志されたきっかけをお聞かせください

(橋井先生)
実は、最初は医者になりたくなかったんですよ。父が和歌山の片田舎で産婦人科をしていましてね。今では考えられませんが、手術のあとの床についた血を拭いたり、器具を七輪で沸かしたお湯に浸けて滅菌したり、そういった手伝いを小学生の頃からやっていたんです。そのときは「こんな仕事、絶対にやらない」と思っていました。
そこで、一度は法学部に進んだんです。商社マンになって、世界を渡り歩こうと思って。
でも、商社の世界は僕には厳しすぎた。そこで医者になろうと方向転換しました。
医学部に入ってからは、手術のできるブラックジャックみたいな存在に憧れていました。でも現実は、専門分野に細かく分かれているんですね。その中で、産婦人科は女性のライフステージにずっと関われる。お産だけじゃなくて、思春期から更年期、婦人科のがん、ホルモンバランスのことまで幅広く診られる。そこに魅力を感じて産婦人科医を志しました。

(丸山先生)
私は、大学生のときに「産婦人科医が足りない」と聞いて、それなら自分がやろうと思ったんです。困った人を救うことが医者の本懐だとすれば、成りてが少ないところを目指すのが筋ではないかと。妊婦さんは、国の根幹を支える存在です。そういう方たちを支える仕事がしたいと思いました。
出産直後、痛みに耐えていた女性が、赤ちゃんを胸に抱いた瞬間に「お母さんの顔」になるんです。自分以外の存在に命をかけて、全力で愛おしむ顔です。その姿を見るたびに、心から産婦人科医になってよかったと感じます。

先生方が診療において大切にしていることを教えてください

(橋井先生)
私が目指しているのは「自信を持って帰ってもらうこと」です。病院に来る方は、多くが不安や自信のなさを抱えています。だからこそ、少しでも自信を持って帰ってほしいんです。
長年やっていると、40年前にお産した方の娘さんがまたお産に来て、さらにその娘さんが……という3世代にわたるお付き合いも出てきました。
私は歴史に名を残すようなことはできないけれど、ここでお産された方やご家族の記憶には残るかもしれない。そう思うと、ちょっと無理してでもよい思い出を残してあげたくなるんです。

(丸山先生)
男性として、妊婦さんの気持ちを「完全に理解する」ことはできないかもしれません。
でも、寄り添う姿勢は持ち続けたい。つわりや陣痛のつらさを想像しながら、どこまで耳を傾けられるかが大切だと思います。

橋井先生が考える「安産」とは何でしょうか?

ひと口に「安産」といっても、誰の目線かによって全然違うんです。
医者から見たらスムーズなお産でも、お母さん本人にとっては大変だったかもしれない。逆に、お母さんが「楽だった」と思っていても、医者が肝を冷やしていたかもしれない。お母さん、医者にとって安産だと思っても、実は赤ちゃんにとってしんどいお産だったという可能性もある。
だから、私たち医療者が目指すのは、「お母さんにとっても、赤ちゃんにとっても安産だった」と言えるような出産です。それが私たち産科医の責任であると思います。

最後に、読者へのメッセージなどをお願いします

出産は頑張らなくて大丈夫。気張らなくていいんです。少なくとも、自分を責めないでください。
一人の子どもをお腹に宿しているということは、それだけで大きなエネルギーを使っています。できないことがあるのは、当たり前のこと。走ったり、重たいものを持ったり、思うように動けない毎日の中で、「赤ちゃんに悪い影響がないように」と気を配りながら過ごしているだけで、十分に頑張っています。
だから、「できない」ことをマイナスに考えないでください。できんもんは、できんでいいんです。開き直るくらいが、ちょうどいい。
そして、私たち医師やスタッフは、あなたたちの味方です。不安なこと、気になること、どんなに些細なことでも、遠慮せずに相談してください。
甘えていいんです。あなたが少しでも安心して、穏やか妊娠出産、そして子育てに臨まれるように、私たちはサポートしてまいります。

編集部まとめ

ハシイ産婦人科の先生方のお話から、妊娠・出産の喜びだけでなく、その過程で感じる不安や葛藤にも寄り添う温かさが伝わってきました。
「頑張らなくて大丈夫、気張らなくていい」というメッセージは、多くの女性にとって救いになると思います。妊娠は一人ひとり違い、その人なりのペースで進んでいくもの。そんな当たり前のことを大切にしてくれる場所だからこそ、安心して通い続けられるのだと感じました。

ハシイ産婦人科

医院名

ハシイ産婦人科

診療内容

産科 婦人科 不妊外来 など

所在地

京都府向日市寺戸町七ノ坪170番地

アクセス

阪急京都線「洛西口」駅より徒歩6分

この記事の監修医師