目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. ドクターインタビュー
  3. 患者本人と同じくらい、在宅医療ならばその家族にも寄り添える【大阪府八尾市 松樹会松本クリニック】

患者本人と同じくらい、在宅医療ならばその家族にも寄り添える【大阪府八尾市 松樹会松本クリニック】

 公開日:2025/03/28

患者本人と同じくらい、在宅医療ならばその家族にも寄り添える
患者本人と同じくらい、在宅医療ならばその家族にも寄り添える

高齢化が進む日本では、自分で病院に通うのが難しい人が増えている。「住み慣れた自宅で最期を迎えたい」という声も多く聞かれるようになった。こうしたニーズに応えるのが、医師や看護師が患者のもとに訪れ、診療やケアを提供する在宅医療だ。
とはいえ、在宅医療に携わる医療職の想いや働き方、在宅医療の実情について知ることのできる機会は限られている。「どんな人が在宅医療を受けるのか?」「医療の質は病院と同じ?」「費用は?」などの疑問を持つ人も少なくない。そこで、在宅医療専門で開業し、現在は医療、看護、リハビリ、介護、介護施設と展開している松本クリニックの松本伸治院長に話を伺った。

Doctor’s Profile
松本伸治(院長)
松本クリニック

~略歴~
H18.3 和歌山県立医科大学医学部医学科卒業
H20.4 八尾市立病院外科
H26.5 「松本クリニック」を開院
H27.12.7 医療法人松樹会設立及び理事長就任
R2.11 看多機「ナーシングホームこもれび」開業
R3.2 松本クリニック こもれび訪問看護ステーション こもれびケアプランセンター 
こもれびヘルパーステーション 看多機「ナーシングホームこもれび」と在宅医療・介護
に関わる全ての事業が同一グループ内に稼働

~資格・所属学会~
日本外科学会認定医
PEACE主催緩和ケア指導者研修修了医
日本在宅医療連合学会
日本緩和医療学会
日本外科学会
日本内科学会

目次 -INDEX-

自身の家族の体験から始まった在宅医療

高齢化が進んで久しい日本では、高齢者の病院通いは大変です。近年は「在宅医療」という言葉を聞きますが、「往診」とは違うのでしょうか?

医師が患者さんの自宅や施設などで病状を診る、という点では共通していますが、往診とはちょっと違います。往診は通院できない患者さんを、医師が都度診療を行うことです。それに対して在宅医療は、計画的に医療サービスを提供することで容態悪化を予防したり、そのまま自宅や施設などでの長期療養を可能とするためのものです。

自身の家族の体験から始まった在宅医療

松本クリニックでは、在宅医療を多職種・多施設の連携で行われているとお聞きしました

もともと私は、八尾市立病院で消化器外科医として勤務していたんですが、父がALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病にかかり、母と一緒に介護する立場になりました。
そうしているうちに、自分の気持ちがだんだん在宅医療へと傾き、内科に移って実地経験を積んで開業しました。現在は、在宅医療からさらにいろいろ活動範囲が広がっています。

自身の家族の体験から始まった在宅医療

では当初から、在宅医療をするために開業されたのですね

そのとおりです。最初から在宅医療専門から始めました。しばらくして、外来の患者さんも診ようということになって、当初は雑居ビルの一室を診療に使っていました。
しかし、父の介護をしていたときに感じていたことがあるのですが、私や母の体調が悪いとき、父の面倒を見ることができなくなる。すると、とても困るんです。そこで、レスパイト入院(在宅介護を担う家族の負担を軽減するための入院)の受け皿となる施設があればいいなと思ったわけです。
それで、訪問看護、訪問リハビリと、できることを増やしながら、看護小規模多機能居宅介護(かんたき)事業も開始して現在の形に発展しました。

通院と変わらない医療を受けられるのが在宅医療

通院と変わらない医療を受けられるのが在宅医療

在宅医療と通院で、受けられる医療の違いはあるのでしょうか?

たとえば採血検査や採尿検査、エコー検査などは全く問題ありません。ただ「どう見ても骨折しているな」といったような場合は、外来の病院を利用してもらうしかありません。
また「肺炎ではないか」といったようなときは、人工呼吸器を使用せずに抗生物質や酸素の投与で治る方も多いので、それぐらいまでは在宅で問題ないです。
もちろん程度にかかわらず、ご家族の方から「これ以上は家では難しい」といったことであれば、専門の病院をご紹介することもあります。とにかく大事にしているのは、「選択肢を提示する」ということなんです。そして、その決断をサポートすることだと思っています。

費用を心配される方も多いと思いますが、いかがでしょうか?

料金は保険診療内で、基本的に自費診療はありません。たとえば、70歳以上で「所得一般」に区分される方で、1カ月に18,000円が上限額です。

訪問してもらえる距離としては、どのくらいまで対応が可能ですか?

在宅医療は、医療機関から16km以内の範囲と定められています。当クリニックの場合ですと、八尾市内とその周辺です。東大阪市、大阪市平野区、柏原市の一部まで対応しています。

貴クリニックの場合、どのような体制で在宅医療を行っていますか?

私一人が常勤医師で、ほかに脳神経内科2名、麻酔科1名、内科・放射線科1名、消化器外科9名、計14名の非常勤医師で動いてます。
さらに、看護師とリハビリスタッフがクリニックと訪問看護ステーションにそれぞれいて、ケアプランセンターがあって、「かんたき」にも介護スタッフがいますから、総勢80名ほどの体制を組んでいます。その中で、実際に患者さんの自宅や施設などを訪ねるのは、通常医師と看護師、ドライバーの3名です。※2025年3月現在

さまざまな科の医師が関わっているのですね

そもそも在宅医療を受ける方は、すでに何らかの検査などを受けて診断名がついた上で、外来通院が困難になっている方です。
パーキンソン病などの神経難病や、認知症、脳卒中後の後遺症がある方などがいらっしゃって、たとえば脳神経内科の先生には神経難病に特化して診てもらっています。

ほかに、松本クリニックとしての在宅医療の特徴があれば教えてください

同じグループの同一建物内に、施設とクリニックがあることです。在宅医療に関わるハードもソフトも揃っていて、グループ内の全員がその患者さんの情報を共有していることですね。たとえば介護であれば、ケアマネージャーをはじめとする全職種が揃っているので、スムーズに連携してもらっています。

通院と変わらない医療を受けられるのが在宅医療

その方らしい最期を迎えていただくために

その方らしい最期を迎えていただくために

松本先生ご自身が在宅医療を始めてよかったなと思うことはありますか?

勤務医だった時代を思い返せば、当たり前ですが、その患者さんは「病院に来たとき」でしか診ることができないんですね。でも、ご自宅を訪ねれば、その方の生活も見えるわけです。
勤務医の頃は、薬を出せば飲んでもらっていると思い込んでいました。ところが、在宅医療を始めて衝撃的だったのは、薬をちゃんと飲んでもらえていなかったりすること。飲まずに、大量に溜まっていることがよくあるんです。
だったら「なぜ飲んでいないんだろう?」と考えることができます。話をしていくといろいろな飲まない理由が見えてきますし、対策も考えられます。
人生の最期を穏やかに過ごそうと思うとき、その場所は大きく分けて3択だと思います。つまり、「療養型の病院」、次に「施設」、そして「自分あるいは家族の家」。その場所で最期までその人らしく過ごされ、ご家族が安堵された際に、在宅医療をやっていてよかったかなと思います。

在宅医療のポイントは患者さんだけでなく、そのご家族のサポートも重要ということなんですね

在宅医療って、介護している家族が「もう限界です」となると、患者さんはそこでは過ごせなくなるわけですよ。すると、患者さん本人だけじゃなくて、介護しているご家族も含めて一緒にサポートできなくてはいけません。
当クリニックは「患者さんとそのご家族の生活に寄り添う『温かい医療と介護』」をグループ理念に掲げており、毎朝のカンファレンスで唱和しています。
医療って、同じ疾患であってもいろんなことが日々起こるのですが、答えがあるようでないんです。治療のことだけではなく、特に在宅医療は患者さんのそれぞれのバックグラウンドの違いを考えなくてはいけません。その中で、正しいとすべきは「患者さんとご家族が出した答え」なんです。
ですから、自分たちが困ったときは、まず理念に立ち返る。「患者さんだけではなく、ご家族も含めてサポートしないといけない」ということをスタッフ全員と常に共有するようにしています。

松本クリニックでは、看取り件数を公表されていますね

たとえば、がん患者の方が在宅で治療をすることはありません。可能な治療を尽くして緩和ケアの段階に入ったときに、どこに在宅医療をお願いしようかということだと思うんです。
がんに限らず、「慢性心不全」「慢性呼吸不全」「慢性腎不全」などの慢性疾患なども、最終的には通院が難しくなります。ですから、個人宅あるいは施設などで、できるだけ穏やかに過ごしたいという患者さんやそのご家族の想いをサポートするのが在宅医療だと考えています。

その方らしい最期を迎えていただくために

今後、在宅医療はどうなっていくと思われますか?

個人宅で患者さんを診るのは大変なんです。病院もこれからは入院が厳しくなってくると思いますし、将来的にはおそらく施設で行う在宅医療が主流になると思います。
当クリニックとしては、「施設の力を借りたいけれど家でも看たい」という方々のために、「かんたき」を用意しました。基本は個人宅で生活してもらいますが、ご家族の皆さんに仕事があったりするので、それらの要望に応えるために平日はお泊まり(ショートステイ)や通い(デイサービス)を上手く使ってもらえるシステムです。

これから在宅医療を受けようと考えている方、Medical DOCのサイトを訪れている読者へのメッセージをお願いします

訪問で在宅医療を行う医師や看護師は多くいます。また、リハビリスタッフ、ケアマネージャー、ヘルパー、そして彼らが従事する施設も世の中にはたくさんあります。その中で、できるだけいろんな機能をもっていて、できれば一カ所ですべてお世話できるところのほうが、いろんなサポートの選択肢があって安心かなと思います。
どこでも公表しているわけではないと思いますが、看取りまでできるのは一定の能力が必要ですので、看取り件数も選ぶ基準のひとつだと思います。
とはいえ、やっぱり一番気がかりなのは、患者さんやそのご家族と「信頼関係を結べそうかどうか」だと思うんです。病院ではなく、個人宅もしくは施設で今後は過ごしたいなという思いになったら、信頼できそうかどうかを基準に連絡されてみてはどうでしょうか。

編集部まとめ

国内の高齢化が進む現在、在宅医療の重要性はさらに増しています。その中で、患者さんの情報を共有しながら、多くの医療機能や施設が連携していくことは今後とても重要になっていきそうです。そして、患者さんが希望する医療サービスと同じくらい、それぞれの患者さんのご家族が求めている想いも大切にして寄り添っていく必要があるのでしょう。それを大切にしている松本先生の言葉からは、現在の在宅医療が向き合う課題に加え、携わる人の責任の大きさなども強く感じられました。

医院名

松本クリニック

診療内容

在宅診療 外来緩和ケア 内科 外科 など

所在地

大阪府八尾市南本町4丁目1-11

アクセス

近鉄大阪線「近鉄八尾」駅より徒歩15分
JR大和路線「八尾」駅より徒歩17分

この記事の監修医師

S