子どもの未来を見据える予防治療。定期検診は「マイナス1歳」から


子どものむし歯予防については、歯が生えてから考え始めるケースが多いのではないだろうか。しかし、子どもの歯は家族の口腔環境とも深いつながりがあり、できるだけ早めの対処が必要だ。兵庫県尼崎市の「田中歯科」では、お母さんの妊娠期からのケアを含めた「マイナス1歳」の視点を大切にしている。さらに、歯科が苦手な子どもには、無理をさせず、歯科衛生士がやさしく寄り添いながら「慣れる」ことからスタート。子どもの歯の健康維持に注力する同院の田中壯憲院長に、子どもの歯科予防と受診の考え方、家庭におけるケアのポイントについて話を伺った。
田中 壯憲(たなか そうけん)
田中歯科 院長
朝日大学歯学部を卒業。さくら歯科、桜川歯科に勤務後、2007年、父・田中良耕が開院した田中歯科に勤務し副院長に就任。2011年に院長へ就任し、2024年5月には一般社団法人壮意憲心会 田中歯科の代表理事に就任。兵庫県尼崎市歯科医師会では理事として地域歯科医療に携わり、日々の診療では子どもから大人まで一人ひとりに合わせた丁寧な説明と安心感のある診療を大切にしている。
むし歯になりにくい口内環境は、まずお母さんのお口の中から
貴院に来るお子さんの年齢層と、多い症例を教えてください
主に3歳以降のお子さんが来院されています。相談内容は、むし歯治療をはじめ、歯並びの相談などです。
当院では治療だけでなく、「むし歯になりにくい口腔環境が整っているか」を確認するための検査・予防も重視しています。歯の汚れの付き方、歯ぐきの状態、歯の生え方や噛み合わせ、顎やお口まわりの成長の様子まで丁寧に確認し、将来を見据えたお口の健康づくりにつなげています。

子どもは何歳くらいから歯医者さんに診てもらうべきでしょうか? それによりどのようなメリットがありますか?
受診開始に明確な決まりはありませんが、当院ではできるだけ早めの受診をおすすめしています。というのも、3歳前後で初めて来院されたお子さんの歯を診ると、「もう少し早ければ対処できた」と感じることが少なくないからです。
さらに当院では、お口の健康づくりは「0歳から」ではなく、お母さんの妊娠期から始まるという意味で「マイナス1歳」という考え方を大切にしています。お口の中の菌は日常の触れ合いの中で感染しやすいため、赤ちゃんがお腹にいるうちに、お母さんのむし歯や歯周病を治療して口腔内環境を整えておくことが、お子さんの将来のむし歯リスクを下げる第一歩になります。
まだ歯が生えていない段階で、親が子どものお口の手入れを行っていないと、どのようなことが起こりますか?
歯が生えていない時期でもお口のケアを怠ると、むし歯になりやすい環境ができてしまいます。また、早い段階からお口の中に触れられる習慣がないと、歯みがきや歯科医院での診察を嫌がるようになることもあります。将来のケアをスムーズに進めるためにも、早期からのケアが大切です。
永久歯に生え替わる前に、乳歯がむし歯になるとどんな悪影響がありますか? また、乳歯はどのような役割を持っているのでしょうか?
乳歯は、永久歯が正しい位置に生えてくるための重要な役割を担っています。乳歯がむし歯で早く失われたり、形が崩れたりすると、永久歯がずれた位置に生え、歯並びが悪くなる原因になります。
また、噛む力や顎の成長にも影響するため、乳歯の健康状態は将来の口腔環境に直結します。「むし歯になってもどうせ生え替わる歯だから」と軽く考えてはいけません。親御さんは、今ある歯を大切にすることが重要です。

子どもの歯には、歯が生える前から永久歯に生え替わるまで、いろいろな段階があります。一番注意しなければならないのはいつ頃の時期でしょうか?
どこか一つの時期だけが特別に重要というわけではなく、すべての成長段階が大切です。共通して見るべきポイントは、「むし歯になりにくい口腔環境が保てているか」「成長が健やかに進んでいるか」といった点です。
当院では、舌や口唇、頬などの筋肉が正しく育つよう、授乳や抱っこの仕方まで確認します。たとえば、離乳食を上あごになすりつけるように食べさせていると、上唇の筋肉が育ちにくくなるため、お子さんが自発的に食べるのを待つなど、ご家庭でできる日々のケアも一緒に確認していきます。
はじめての歯医者さん経験は、歯科衛生士がやさしく寄り添う

歯医者さんに対して、「痛い」「怖い」といったイメージを持つ子も多いのではないでしょうか。貴院ではどのような対策を行っていますか?
当院では、無理な治療は行わないことを基本方針としています。お口の中は脳に近く、本能的に恐怖心が働きやすい部分だからこそ、まずは「ここは怖い場所ではない」と感じてもらうことを大切にしています。
初回は歯科衛生士が対応し、お子さんの様子を見ながら、歯科医院の雰囲気に慣れるところからスタートします。無理に口を開けさせるのではなく、少しずつ慣れる中で、自然に口を開けられるよう導いていきます。
子どもは歯肉炎になりやすいとのことですが、その原因や治療法について教えてください。また、歯肉炎になるとどのような不都合が起こってくるのでしょうか?
子どもの歯肉炎は、歯の汚れがたまって歯ぐきが腫れたり、歯みがきで出血しやすくなった状態です。原因はみがき残しだけでなく、お口が開きやすく乾燥しやすいことも関係しています。お口を閉じる力が弱いと唾液が行き渡りにくく、汚れが残りやすくなるためです。
当院ではまず、歯科衛生士によるクリーニングで汚れを落とし、歯ぐきの状態を整えます。そのうえで必要に応じて、お口を閉じる力を育てるトレーニング器具「リップルくん」などを用い、口腔機能の改善と乾燥しにくい環境づくりを行いながら治療を進めます。
改めて、小児歯科での貴院の診療の流れについてご説明をお願いします
お子さんがまだ歯科医院に慣れていない場合は無理をせず、まずは診療室の雰囲気に慣れるところから始めます。
3歳前後以降は基本的に母子分離で進め、お子さんの様子を見ながら段階的に対応します。また、日常の触れ合いを通じて菌が子どもに移ることもあるため、保護者ご自身のお口の状態を整えておくことも大切だとお伝えしています。

定期検診とおうちのケアでお子さんの歯をしっかり守る

子どもが歯医者さんに進んで定期的に通う習慣をつけるには、どのような働きかけが大切だと思われますか?
お子さん自身が「歯医者に行きたい」と思うようになることは少なく、実際には保護者の意識がそのまま反映されます。保護者の方が定期的に歯科医院に通い、「歯を守るために通う場所」という姿勢を見せることで、お子さんも自然と受け入れやすくなります。特に、保護者自身がむし歯治療、定期検診やクリーニングを受け、口腔環境を整えていることは、お子さんへの一番の教育だと考えています。
貴院での小児歯科診療(治療)費用全般について教えてください
小児歯科の検査、予防、むし歯治療については、基本的に保険診療の範囲内で行っています。一方で、成長をサポートする装置やマウスピース型矯正など、一部は自費診療となります。その場合も、事前に内容や目的を丁寧に説明し、保護者の方にご納得いただいたうえで進めています。
日常における子どもの歯のケアについてお聞きします。家で親が子どもの歯を見るとき、どのようにすればきちんとした手入れができるでしょうか?
幼稚園までは、歯みがきの後に保護者の方が仕上げみがきを行い、きちんとチェックすることが大切です。小学校の中学年以降になると、保護者が毎日仕上げみがきをするのは現実的に難しくなるため、「歯みがきはできたか」と声をかけ、習慣が途切れないよう見守る形に移行していくことが重要です。

食べ物に関して、子どもは特にお菓子などを欲しがりますが、食べた後はどのような手入れをすればいいでしょうか?
甘いものや炭水化物がお口に入ると、お口の中は中性から一気に酸性に傾き、歯が溶けやすくなります。甘いものを食べるとむし歯になりやすくなるのは、このような理由からです。
特に甘いものをだらだら食べ続けると、酸性の時間が長くなるため、間食はできれば1回(たとえば3時頃)にし、食べた後は必ず歯みがきをすることが大切です。
最後に、Medical DOCのサイトを訪れた読者(親御さん)へのメッセージをお願いします
「歯医者に行くのはまだ早いかも……」と迷う前に、まずは一度ご相談ください。当院では、赤ちゃんのうちからお口のケアについてわかりやすくお伝えしています。
診療ではいきなり処置に入るのではなく、まずお口の状態を丁寧に確認し、お子さんが「ここなら大丈夫」と感じられるよう、無理のないペースで進めます。そのため「今日で終わらせたいので押さえつけてでも」といったご希望にはお応えせず、恐怖心を残さないことを大切な方針としています。
お子さんのお口の健康につながる歯科医院として、親子で安心して通っていただける環境づくりに努めておりますので、お気軽にご来院ください。
編集部まとめ
「単にその場の治療をして終わり」ではなく、将来を支える土台づくりとして子どもの診療全体を捉えている点が印象的でした。無理に進めず、子どもが「ここなら大丈夫と思えるところから始める」「押さえつけて終わらせる治療はしない」という方針には、“通い続けられること”を大切にする誠実さが表れています。
また、むし歯になってから治すのではなく、口腔環境や習慣づくりまで支える「予防歯科」の視点も随所に感じられました。妊娠期から始まる「マイナス1歳」という考え方を含め、家族みんなで通うことができる歯科医院。そんなメッセージが伝わる取材でした。

医院名
田中歯科
診療内容
小児歯科 予防治療 むし歯治療 など
所在地
兵庫県尼崎市塚口町4丁目12-9
アクセス
阪急伊丹線・阪急神戸線「塚口」駅より徒歩11分
尼崎市営バス「塚口小学校」バス停留所より徒歩1分




