すべての歯を失ったときの選択肢、総入れ歯とインプラントの違いとは?【埼玉県久喜市 いしはた歯科クリニック】
石幡 一樹
いしはた歯科クリニック 院長
昭和大学歯学部卒業後、中村歯科医院などでの勤務を経て、2011年、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科部分床義歯補綴学分野大学院修了、歯学博士号取得。2012年、いしはた歯科クリニック開院。日本歯科医師会会員、日本補綴歯科学会会員、日本顎関節学会会員、日本歯周病学会会員、久喜歯科医師会会員。本顎咬合学会認定医。
もちろん、どちらにするかはその先のお口の健康や生活の質にも関わってくるので、迷われるケースもあります。ただ、端的な話、両者は費用に格段の差があるので、それが決め手となって、あまり悩む余地は少ないようです。
保険適用でつくる入れ歯なら1万円程度、自費の入れ歯なら40~60万円ほどですが、保険適用外のインプラントの場合、2本のインプラントで総入れ歯を支えるタイプ(後述するインプラントオーバーデンチャー)だと、約130万円。そしてすべての歯を固定式インプラントにすると総額400万円程度かかります。
もちろん、両者の治療後の咀嚼効率やお口の中の違和感などにおいて、いわゆる費用対効果の点での差がそこにも大きく影響してきます。
【複合的な治療法!】インプラントオーバーデンチャーとは?
はい。インプラントオーバーデンチャーという、いわば第三の選択肢です。これは、顎の骨に数本のインプラントを埋め込み、磁石や専用器具でインプラント用入れ歯を固定します。つまり、「インプラント併用義歯」です。
総入れ歯の場合、それを支えるために3~4本のインプラントが必要ですが、失った歯1本に対して固定インプラントを埋める方法よりは、ずっと手軽で費用も抑えられます。この方法だと、入れ歯は取り外しがきくため自分でケアができる上に、お口の中の違和感も少なく、しっかりと噛めるようになります。
数本の入れ歯の場合、通常の入れ歯のような留め金が不要なので、見た目にもきれいですし、残っている歯を削ることもなく健康な歯にやさしい点が特徴です。要は、インプラントと通常の入れ歯のメリットの「いいとこ取り」をした治療法といえます。
まず、総入れ歯で義歯が外れる、痛いなどの問題があるケース。こういった装着のずれが原因で不具合が生じる場合では、インプラントオーバーデンチャーにすることでぴったりとくっつき、不具合や違和感が解消されます。
次に、骨量が少ないケース。骨が薄くなると通常のインプラント治療が不可能になることがあるからです。また、通常の入れ歯は高齢などによりお手入れに不安が生じますが、インプラントオーバーデンチャーなら、入れ歯同様自分で取り外しができるので、メンテナンスも手軽にできます。そして、費用もインプラント数本分で済むことから、経済面がネックになっている方におすすめです。
普通の入れ歯よりはお口の中に装着したときに違和感が少ないなど、メリットの多いインプラントオーバーデンチャーですが、取り外しができるつくりだけに、通常のインプラントほどの噛む力は望めません。
通常のインプラントでもそうですが、インプラントオーバーデンチャーでも、素材はプラスチック系などの人工物なので、もちろん寿命はあります。使用する素材や日頃のメンテナンスの状況にもよりますが、おおむね10~20年といったところでしょう。オーバーデンチャーを装着した後も、インプラントや入れ歯の処置をしたとき同様に数カ月に1回のメンテナンスを行うことで、清潔さを保ち、長持ちさせることが期待できます。
【各治療法のメリット・デメリット】どれが自分にとって最適?
インプラントのメリットは、何といっても咀嚼効果です。自分の本来の歯と同じくらいしっかりと、しかも左右バランスよく噛めるようになること。それは、食べ物それぞれの食感を楽しみ、おいしく味わうという「食事の意義」を失くさずにいられることで、ひいては心身の健康にも繋がります。また、失った歯の代わりにインプラントの歯でしっかり噛むことは、残っているほかの自分の歯への負担が減り、ケア次第では、それらの歯が長持ちすることも期待できます。
入れ歯でよくある問題が、発音が乱れて聞きづらくなること。インプラントならそれも解消できます。入れ歯の金具などがない、外れる心配もない、美しい口元で、笑顔に自信が持てるのもインプラントならではです。
一方、デメリットとしては、そもそもインプラントを埋め込むのに必要なだけの、顎の骨に十分な厚みや骨量がないとインプラントという選択肢はあり得ません。骨を移植する治療法もありますが、基本はそのままの状態でインプラントを埋め込むことです。そして、インプラントを実行する場合、それが外科手術で、その弊害=デメリットになる可能性があることを承知しておいてください。
手術の後は、痛みや腫れ、出血、合併症などに見舞われることも皆無ではありません。もちろん、当院ではそれを軽減するような努力をしておりますし、万が一、何か起きた場合には、素早く適切に対処いたします。インプラントの一般的なデメリットとして挙げられるのは、治療期間が長引くことと、高額な治療費ですね。期間についてはケースバイケースですが、長いときには数年かかることもあります。費用については前述のとおりです。
この3つの治療法自体に、それぞれメリット・デメリットや、向き不向きがあることは理解していただけたと思います。そこで、どれを選ぶか、という段階では、まず患者さんのお口の状態と、何を望まれるかによってポイントは絞られていきます。
たとえば、歯茎や骨量の問題でインプラントが最初から無理な場合もあれば、入れ歯のような取り外しを避けたい方はインプラントで固定するべきでしょう。あるいは、入れ歯がいいけれど、外れたり違和感が気になったりする方、舌をよく動かす癖のある方にはインプラントオーバーデンチャーがおすすめ、といった具合です。
どの方法が自分にふさわしいかは、歯科医とじっくり相談していくうちに見えてくるはずです。当院でも、カウンセリングに時間をかけて、患者さんのご要望などを伺ってから決めているのはそのためです。
いずれにしても、歯を失ったら、そこを放置せずに、できるだけ速やかに代替の歯を入れるべきです。さもないと、咬み合わせが乱れたり、うまく噛めないことによる弊害などお口や全身の健康へのリスクが生じるからです。
失った歯の代わりに3つの治療法。どれがいいかまずは相談
むし歯や歯周病、外傷などで歯を失うケースは案外多いそうです。特に、総入れ歯が必要なほど多くの歯を失ったら、もう放置はできません。そこで、入れ歯・インプラント・インプラントオーバーデンチャーという3つの治療法によって、対処できるということがわかりました。ただし、口腔内の状態や期間・費用といった問題も含め、自分に合った方法の最終的な決断を下すまでに、やはり主治医とのコミュニケーションを図り、納得して決めるべきだというのが今回の結論です。