MDMAの「幸せは」脳の借金。作用が切れた後に襲いかかる絶望的な虚脱感とは

MDMAを使用すると、多幸感や共感性の増大といった精神作用が現れますが、これらは脳が作り出した一時的な幻影に過ぎません。その裏では判断力の低下や予期しない精神的混乱が生じ、使用者を危険な状態へと導きます。この章では、MDMAによる精神作用の実態と、それが引き起こす危険な行動パターンについて、具体的な症状とともに解説します。

監修医師:
大迫 鑑顕(医師)
MDMAがもたらす精神的な作用と体験
MDMAの使用により現れる精神作用は、使用者が期待する「ポジティブ」なものばかりではありません。予期しない不安や混乱、危険な精神状態に陥ることもあります。これらの作用はすべて、脳内の神経伝達物質のバランスが人為的に、かつ急激に崩された結果として現れるものです。
多幸感と共感性の増大(エンタクトゲン作用)
MDMA使用時に最も特徴的に報告される作用が、強い多幸感(ユーフォリア)と他者への共感性・親密感の増大です。使用者はしばしば、不安や恐怖が薄れ、世界が色鮮やかで美しく見え、周囲の人々に対して強い愛情や一体感を感じると報告します。音楽がより深く感動的に聞こえたり、触覚が鋭敏になったりするといった感覚の変化も一般的です。
しかし、これらの作用は脳が作り出した幻影であり、自然な感情状態ではありません。この人工的な多幸感は、使用を繰り返すうちに脳がダメージを受け、耐性が形成されることで得られにくくなります。その結果、同じ効果を求めて摂取量を増やすという危険な行動につながります。また、このような極端な感情の高揚は、その反動として深刻な精神的落ち込み(クラッシュ)を招くことが避けられません。使用時の一時的な心地よさは、その後に訪れる長期的な心身の苦しみと引き換えになっているのです。
判断力の低下と危険な行動への傾倒
MDMAの作用下では、多幸感や過度の安心感、過信などにより、リスクを正しく評価する力が低下しやすくなります。その結果、普段であれば避けるような危険な行動をとってしまうリスクが高まります。例えば、過度な身体活動による熱中症、水分摂取の調整不全による低ナトリウム血症、無防備で危険な性的行動などがその代表例です。
特に注意が必要なのは、自分の体調の異変に気づきにくくなる点です。体温の異常な上昇や深刻な脱水症状といった生命に関わる状態が進行していても、多幸感によって危険を察知できず、手遅れになる場合があります。また、他の違法薬物やアルコールとの併用は、それぞれの作用を予測不可能に増強させ、急性中毒のリスクを飛躍的に高めます。判断力の低下は、使用者自身の安全を脅かすだけでなく、交通事故や暴力行為など、周囲の人々を巻き込む危険性があることを理解する必要があります。
まとめ
MDMAをはじめとする違法薬物は一度の使用でも深刻な健康被害をもたらす可能性があります。本記事で解説したように、身体的・精神的な影響は多岐にわたり、中には生命に関わるものや長期的な後遺症を残すものもあります。依存性の問題も深刻であり、自分の意思だけでは使用をやめることが困難になることがあります。しかし適切な治療と支援により回復は可能です。もし自身や身近な方が薬物問題を抱えている場合はためらわずに専門機関へ相談することをおすすめします。早期の対応がより良い回復への道につながります。


