お酒で眠くなるのは逆効果?睡眠の質を下げないための飲酒のタイミングと量【医師解説】

お酒を飲むと眠くなるという経験をされた方は多いでしょう。しかし、この入眠促進効果は表面的なものに過ぎず、睡眠全体の質という観点では逆効果となることが明らかになっています。アルコールの分解過程で生成される物質が睡眠を浅くし、夜中に何度も目が覚めたり、早朝に覚醒してしまったりする原因となります。また、睡眠時無呼吸症候群を悪化させる可能性もあります。本記事では、アルコールが睡眠に与える影響のメカニズムと、睡眠の質を守るための飲酒習慣の見直し方について解説します。

監修医師:
水野 靖大(マールクリニック横須賀)
京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院、北野病院、日赤和歌山医療センター、東京大学医科学研究所附属病院などで腹部外科医として患者の全身管理や救急の現場に従事。
2012年にマールクリニック横須賀(神奈川県横須賀市)を開院し、院長を務める。
【専門・資格・所属】
日本外科学会 外科専門医
日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医
日本旅行医学会 旅行医学認定医
目次 -INDEX-
お酒が睡眠に与える影響のメカニズム
アルコールは中枢神経を抑制する作用により入眠を促進する一方で、睡眠全体の質を低下させることが明らかになっています。体内でのアルコール分解過程や生理的な作用によって、睡眠構造が変化し、翌日の疲労感や日中の眠気につながります。
アルコールによる入眠促進と睡眠の質の低下
お酒を飲むと眠くなるという経験をされた方は多いでしょう。アルコールには中枢神経を抑制する作用があり、飲酒後には一時的に眠気を感じやすくなります。このため、寝つきが良くなると感じる方も少なくありません。しかし、この入眠促進効果は表面的なものに過ぎず、睡眠全体の質という観点では逆効果となることが明らかになっています。
アルコールは体内で分解される過程でアセトアルデヒドという物質を生成します。この物質には覚醒作用があり、入眠後数時間が経過すると睡眠を浅くする働きをします。その結果、夜中に何度も目が覚めたり、早朝に覚醒してしまったりする中途覚醒や早朝覚醒が起こりやすくなります。また、より深い睡眠であるノンレム睡眠の時間が短くなり、夢を見やすいレム睡眠の割合が増えることも報告されています。
さらに、アルコールは利尿作用を持つため、就寝中にトイレで目が覚めることも増えます。このような睡眠の分断は、翌日の疲労感や日中の眠気、集中力の低下につながります。睡眠は身体と脳の回復に不可欠な時間であり、その質が損なわれることは健康全般に悪影響を及ぼす可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群とアルコールの関係
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が一時的に止まる、または浅くなる状態を繰り返す病気です。この病気は高血圧や心疾患、脳卒中などのリスクを高めることが知られていますが、アルコールの摂取はこの症状を悪化させる要因となります。
アルコールは喉や舌の筋肉を弛緩させる作用があり、これにより気道が狭くなりやすくなります。その結果、いびきが増えたり、無呼吸の回数や持続時間が増加したりします。もともと睡眠時無呼吸症候群の傾向がある方はもちろん、日常的にいびきをかく方も、就寝前の飲酒は症状を悪化させる可能性が高いため注意が必要です。
また、睡眠時無呼吸症候群によって睡眠の質が低下すると、日中の強い眠気や疲労感、集中力の低下といった症状が現れます。これらは仕事や日常生活に支障をきたすだけでなく、交通事故などの重大な事故のリスクも高めます。お酒と睡眠の関係を正しく理解し、就寝前の飲酒習慣を見直すことが大切です。
睡眠の質を守るための飲酒習慣の見直し方
良質な睡眠を確保するためには、飲酒のタイミングや量について意識的に管理することが求められます。就寝前の飲酒を避け、適量を守ることで、睡眠への悪影響を最小限に抑えることができます。
適切な飲酒時間と量の目安
睡眠への悪影響を減らすためには、就寝時刻の3時間から4時間前までに飲酒を終えることが望ましいとされています。これは、体内でアルコールが代謝され、血中濃度が低下するまでに一定の時間が必要だからです。個人差はありますが、一般的にアルコールの分解速度は1時間あたり約4グラムから9グラム程度といわれています。
飲酒量についても配慮が必要です。厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒」は、1日あたり純アルコール量で約20グラム程度とされています。これはビール中瓶1本、日本酒1合、ワイングラス2杯程度に相当します。この量を超える飲酒は、睡眠だけでなく肝臓や全身の健康にも影響を及ぼす可能性が高まります。
また、週に2日程度の休肝日を設けることも推奨されています。連日の飲酒は身体への負担を蓄積させるため、定期的にアルコールを摂取しない日を設けることで、身体の回復を促すことができます。ただし、体質や健康状態によって適切な飲酒量は異なるため、ご自身の状況に合わせた調整が重要です。
睡眠環境の整備と生活習慣の改善
飲酒習慣の見直しと並行して、睡眠環境を整えることも重要です。寝室の温度や湿度、照明、音などを適切に管理し、リラックスできる空間を作ることが質の高い睡眠につながります。また、就寝前のカフェイン摂取やスマートフォンの使用を控えることも効果的です。
規則正しい生活リズムを保つことも大切です。毎日同じ時刻に起床し、朝日を浴びることで体内時計が整い、夜の自然な眠気を促すことができます。適度な運動習慣も睡眠の質を高める要因となりますが、就寝直前の激しい運動は逆効果となるため、夕方までに済ませるようにしましょう。
これらの対策を組み合わせることで、飲酒による睡眠への影響を軽減し、より良い睡眠を得ることが期待できます。ただし、睡眠障害が続く場合や日常生活に支障をきたす場合には、医療機関への相談をおすすめします。
アルコールが肝臓に与える負担の実態
肝臓はアルコールを分解する主要な臓器であり、飲酒による影響を直接的に受ける部位の一つです。継続的な飲酒は肝細胞に持続的な負担をかけ、さまざまな肝疾患の原因となる可能性があります。
肝臓におけるアルコール代謝の仕組み
摂取されたアルコールの約90%は肝臓で代謝されます。肝臓ではまず、アルコール脱水素酵素という酵素によってアルコールがアセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは有害物質であり、顔が赤くなったり、頭痛や吐き気を引き起こしたりする原因となります。その後、アセトアルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸に変換され、最終的には水と二酸化炭素に分解されて体外に排出されます。
この一連の代謝過程には肝臓の細胞が大きく関与しており、継続的な飲酒は肝細胞に持続的な負担をかけることになります。特に大量飲酒や長期間の飲酒は、肝細胞の機能低下や損傷を招き、さまざまな肝疾患の原因となります。
また、アルコールの代謝過程では活性酸素が発生し、これが肝細胞を酸化ストレスにさらします。酸化ストレスは細胞の老化や損傷を促進し、肝臓の炎症や線維化を引き起こす要因となります。このような変化が積み重なることで、肝機能は徐々に低下していきます。
肝機能障害の進行と自覚症状の乏しさ
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるほど、障害が進行しても自覚症状が現れにくい特徴があります。初期の段階では血液検査で肝機能の数値異常が見られる程度で、日常生活に支障をきたすような症状はほとんどありません。このため、気づかないうちに病状が進行してしまうケースが少なくありません。
肝機能障害が進行すると、倦怠感や食欲不振、黄疸、腹水、むくみといった症状が現れることがあります。しかし、これらの症状が出現する頃には、すでに肝臓の機能がかなり低下している可能性が高く、治療が困難になることもあります。
定期的な健康診断や血液検査を受けることで、早期に肝機能の異常を発見することができます。特に日常的に飲酒する習慣がある方は、年に1回以上の検査を受けることが推奨されます。早期発見と適切な対応により、肝機能の悪化を防ぐことが可能です。
肝臓を守るための具体的な対策と生活習慣
肝臓の健康を維持するためには、飲酒量の管理とともに、日常生活全般にわたる配慮が必要です。栄養バランスの取れた食事や適度な運動習慣も、肝臓の機能維持に寄与します。
飲酒量のコントロールと休肝日の設定
肝臓への負担を軽減するためには、飲酒量を適切な範囲に抑えることが重要です。前述したように、1日あたりの純アルコール量を約20グラム以下に抑えることが推奨されています。飲酒する際には、アルコール度数と飲む量を意識し、自分がどれだけのアルコールを摂取しているかを把握することが大切です。
週に2日以上の休肝日を設けることも効果的です。連続して飲酒すると肝臓に休息を与える時間がなくなり、修復機能が追いつかなくなります。休肝日を設けることで、肝細胞の回復を促し、長期的な肝機能の維持につながります。
また、飲酒時には食事も一緒に摂ることが望ましいとされています。空腹時の飲酒はアルコールの吸収速度を速め、肝臓への負担を増大させます。たんぱく質やビタミンを含む食品を一緒に摂取することで、肝臓の代謝機能をサポートすることができます。
栄養バランスと運動習慣による肝臓サポート
肝臓の健康維持には、栄養バランスの取れた食事が欠かせません。特に、良質なたんぱく質、ビタミン、ミネラルは肝細胞の修復や代謝機能の維持に重要な役割を果たします。大豆製品や魚、野菜、果物を積極的に取り入れることが推奨されます。
適度な運動習慣も肝臓の健康に寄与します。運動は全身の血流を改善し、肝臓への酸素や栄養の供給を促進します。また、適切な体重管理は脂肪肝の予防にもつながります。ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を週に3回から5回、1回あたり30分程度行うことが目安とされていますが、体力や健康状態に応じて無理のない範囲で行うことが大切です。
これらの生活習慣を継続することで、肝臓への負担を軽減し、健康な状態を維持することが期待できます。ただし、すでに肝機能の異常が指摘されている場合には、医師の指導のもとで適切な対応を行う必要があります。
まとめ
お酒と健康の関係は複雑であり、睡眠、肝臓、脂肪肝、がんといったさまざまな側面から影響を受けます。適度な飲酒を心がけ、自分の体質や生活状況に合わせた飲酒習慣を築くことが大切です。気になる症状があれば、早めに医療機関に相談し、専門的な指導を受けることで、健康な生活を維持することができるでしょう。本記事で提供した情報は一般的な知識であり、個別の診断や治療に代わるものではありません。ご自身の健康状態については、必ず医師にご相談ください。




