「喫煙」によって肺機能はどれくらい低下する? タバコによる呼吸器・循環器への影響【医師監修】

タバコは特に呼吸器系と循環器系に深刻なダメージを与えます。肺は煙に直接さらされる臓器であり、血管は化学物質の影響を全身で受けるため、これらの系統では顕著な機能低下が起こります。慢性閉塞性肺疾患や心筋梗塞など、生命に関わる疾患のリスクが著しく高まることが医学的に明らかになっています。

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
呼吸器系および循環器系への具体的影響
タバコは特に呼吸器系と循環器系に深刻な影響を及ぼします。これらの臓器は生命維持に不可欠であり、その機能低下は日常生活の質を大きく損なう可能性があります。
肺機能の低下と呼吸器疾患のリスク
喫煙による呼吸器への影響は段階的に進行します。初期段階では慢性気管支炎が発症しやすくなり、朝の咳や痰が日常的になります。気管支の粘膜が慢性的に炎症を起こし、粘液の分泌が過剰になるためです。この状態が続くと、気管支の壁が肥厚し、内腔が狭くなります。
さらに進行すると、肺胞の破壊が起こり肺気腫を発症します。肺胞は酸素と二酸化炭素の交換を行う微細な構造ですが、タバコの煙に含まれる化学物質によって弾力性が失われ、融合して大きな空洞になります。この変化は不可逆的であり、一度破壊された肺胞は元に戻りません。
肺機能の指標である1秒量(FEV1.0)は、非喫煙者でも加齢により年間約20〜30mL低下しますが、喫煙者では年間40〜70mLの低下が認められます。40歳から喫煙を続けた場合、60歳時点での肺機能は同年齢の非喫煙者と比べて30〜40%低下することがあります。
また、喫煙は気管支喘息の発症リスクを高めるだけでなく、既存の喘息症状を悪化させます。気道の過敏性が増し、発作の頻度や重症度が上がるため、治療薬の効果も減弱します。
心血管系疾患の発症メカニズム
タバコは血管内皮細胞に直接的なダメージを与え、動脈硬化の進行を加速させます。正常な血管内皮は一酸化窒素を産生し、血管を拡張させて血流を調整していますが、喫煙によってこの機能が障害されます。結果として血管は収縮しやすくなり、血圧が上昇します。
さらに、喫煙は血液の凝固性を高めます。血小板の凝集能が亢進し、血栓が形成されやすくなるのです。同時に、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の酸化が促進され、酸化LDLが血管壁に沈着して粥状動脈硬化を引き起こします。HDLコレステロール(善玉コレステロール)は逆に低下するため、脂質代謝のバランスが崩れます。
冠動脈疾患のリスクは喫煙本数に比例して上昇します。1日10本未満の軽度喫煙でもリスクは約1.5倍になり、1日20本以上では2.5〜3倍に達します。また、若年者ほど喫煙の相対リスクは高く、40歳未満の心筋梗塞患者の約70%が喫煙者というデータもあります。
脳血管疾患では、特に脳梗塞のリスクが顕著に上昇します。喫煙は血管の動脈硬化を全身的に促進するため、脳血管でも血流障害や血栓形成が起こりやすくなります。くも膜下出血のリスクも約2〜3倍に増加し、これは血管壁の脆弱化が関与していると考えられています。
まとめ
タバコの影響は身体、精神、社会生活の広範囲に及び、その多くは深刻かつ不可逆的です。しかし、禁煙によって得られる健康改善効果は明確で、禁煙開始から時間経過とともに段階的にリスクが低下します。禁煙が困難に感じられる場合でも、医療機関での専門的なサポートを活用することで成功率は大きく向上します。自身の健康と生活の質の向上のため、禁煙を検討されている方は、呼吸器内科や禁煙外来への相談をおすすめします。
参考文献




