「働く大人の発達障害」部下との信頼関係を壊さない受診の促し方【医師が解説】

働く大人の発達障害が増加している現代。特に、発達障害を抱えた部下に対する上司の適切な対応も必要とされています。企業によっては部下への対応に対して、上司を対象に講習会などを開催しているところもあります。今回は部下が発達障害の場合、周囲の社員に対して気をつけた方が良いことについて、渋谷365メンタルクリニックの渡辺先生に教えてもらいました。

監修医師:
渡辺 佐知子(渋谷365メンタルクリニック)
編集部
そういう症状が見られたら、受診を勧めた方が良いのでしょうか?
渡辺先生
はい、受診はすぐに促してほしいですね。クリニックの外来には、数ヶ月~1年程度、ひたすら耐えていたという方が多く見られます。発達障害は社会に出てから悪化してしまうケースがありますので、ぜひ受診を促していただきたいところです。本人との信頼関係がまだ構築されておらず、いきなり「病院へ行ってきて」と言うのも反感を買ってしまいかねないため、産業医面談を設定するのも良い方法です。
編集部
一方、周囲の社員に対して気をつけた方が良いことはありますか?
渡辺先生
上司から周囲の社員にどう説明し、理解してもらうかについては、とても難しい問題です。というのも例えば、発達障害が疑われる社員のタスクを半減させたり、残業なしで定時退社を促すなど、仕事を融通させたりすると、ほかの社員から「自分だって頑張っているのに」「あの人だけ特別扱いしている」という不公平さを感じさせてしまうことがあるからです。その結果、モチベーションが下がり、組織のエンゲージメント力の低下までひきおこしてしまいます。
編集部
そうしたときは、どうすれば良いのでしょうか?
渡辺先生
一番大事なポイントは、上司が1人で対処しようと考えないことです。人事部や産業医など専門職の手を借りましょう。人事部は上司からのエスカレーションがないと気づけませんし、場合によっては部署異動や配置換えが必要です。産業医面談を実施して、医学的な見地から得意・不得意を考慮して、仕事の量や「質」を調整することも大切です。
編集部
なるほど、上司が一人で抱え込まないということも大事ですね。
渡辺先生
はい。コロナ禍以降、多様な働き方が浸透・定着し、経営層、管理職層が若かった頃の時代背景と違って、業務の成果や評価も多様化してきています。発達障害を抱える人が活躍できる働き方も増えてきており、自分の適性に応じた業務を担当することで、評価されていなかった能力を発揮できるかもしれませんし、周囲の人からの信頼や期待も得られるはずです。「あいつはミスばかりで使えない」という切り捨てのような考え方もなくなるでしょうし、会社は誰もが自分らしく働ける場所になるはずです。ぜひそうした環境を作ることを意識していただきたいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡辺先生
「発達障害かもしれない」という部下がいることで、悩んでいる上司はとても多いと思います。そんなときはまず、本人の働きづらさや悩みを聞いてあげて、何が辛いのかを勝手に憶測せず、本人の言葉から理解してあげること。そして「これは産業医に相談すべき案件だ」と思ったら、迷わず人事へ相談する方がよいと思います。上司が一人で問題を抱えてストレスを感じるのは会社の損失にもつながりますし、場合によっては上司もメンタルヘルスケアが必要となってしまいます。「上司だからあれもこれもやらなければいけない」と気張らず、ぜひ、いろいろな人の力を頼ってほしいと思います。
※この記事はメディカルドックにて<上司が知っておくべき「発達障害」を抱える部下への適切な指導方法【医師解説】>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。



