部下が「発達障害」かも? 専門医が教える曖昧な指示を避ける「シングルタスク指導法」

働く大人の発達障害が増加している現代。特に、発達障害を抱えた部下に対する上司の適切な対応も必要とされています。企業によっては部下への対応に対して、上司を対象に講習会などを開催しているところもありますが、一体、上司は部下に対してどのように指導したら良いのでしょうか。渋谷365メンタルクリニックの渡辺先生に教えてもらいました。

監修医師:
渡辺 佐知子(渋谷365メンタルクリニック)
編集部
自分の部下が発達障害かもしれないと思ったら、上司はどうしたら良いのでしょうか?
渡辺先生
発達障害の人は、コミュニケーションやマルチタスクが苦手な傾向があります。よくある職場での指示ですが、「なるはやでお願い」「臨機応変にやってね」「クライアントのことをよく考えて」など、抽象的に指示されると一体何をやればいいのか理解できず、「悩んでいるだけで時間が過ぎてしまった」ということも珍しくありません。そのため発達障害かもしれない部下に対しては、できるだけシングルタスクでわかりやすく指示することが大切です。
編集部
一つずつ、ステップを踏んで指示するのですね。
渡辺先生
そうです。たとえば今日中に完了すべきタスクが6項目あるとします。優先順位付けが苦手なため、丸ごと渡してしまうと、本人はパニックになってしまいます。そのため「〇〇が終わったら報告に来てください」など、一つずつタスクを渡すように工夫してみてください。そして指示するときにも、できるだけ具体的な表現を意識することも重要です。
編集部
ほかに、どのようなことに注意したら良いでしょうか?
渡辺先生
発達障害の人は空気が読めなかったり、「社交辞令」と「業務上の重要な会話」の区別が苦手な傾向にあったりするので、相手の言葉をそのまま捉えてしまいがちです。そのため、余計な会話をなくして端的に指示すると、本人が「わかりやすい指示」と認識してくれるようになります。
編集部
指示の出し方も大切なのですね。
渡辺先生
それから発達障害の人のなかにはメモを取ることが苦手な人も多いのですが、そういうとき、上司に「(メモを取らないなんて)記憶力がいいんだね」と皮肉を言われると、『記憶力がいいと褒められた』と受け取り、メモを取らなくても覚えられる人と認識されてしまったので、以後、逆にメモを取りにくくなってしまうという方もいます。そういうときには直接的に「メモをとろうね」と促して大丈夫です。本人の対処能力に合わせて、本人に成長するチャンスを与えることが大切なのです。もちろん、うまくできた時はわかりやすく褒める、評価することが重要です。
編集部
会社側の対応としてはどうすれば良いですか?
渡辺先生
何か仕事でつまづいていたり、働きづらさや生きづらさは感じていたりする部分はあると思います。定期的に1on1でミーティングを開き、何が辛いのか、何に困っているのかなどをヒアリングすると良いと思います。おそらく、上司が想定していた回答とはまったく違う、場合によっては珍回答が返ってくるかもしれません。しかし、そういうときでも心のシャッターを下ろさず、しっかり聞いてあげること。本人は、上司にシャッターを下ろされたという感覚はしっかり認識していますから、相手の回答が自分の想定外だったとしても、まずは耳を傾けてあげることが大切です。
※この記事はメディカルドックにて<上司が知っておくべき「発達障害」を抱える部下への適切な指導方法【医師解説】>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。




