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スズキ元会長・鈴木修氏「悪性リンパ腫」により逝去 前兆となる“3つの初期症状”を医師が解説

 公開日:2024/12/27

自動車メーカー「スズキ」で社長や会長を務めた鈴木修相談役が「悪性リンパ腫」のために亡くなっていたことが報じられました。94歳でした。悪性リンパ腫は血液のがんの一つで、病気のタイプによって様々な症状が表れます。今回、悪性リンパ腫の前兆となる3つ初期症状を医師の杉山先生に解説していただきました。悪性リンパ腫の特徴を理解し、早期発見に努めましょう。

杉山 圭司

監修医師
杉山 圭司(医師)

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2011年、東海大学卒業。卒業後は国立病院機構名古屋医療センター(腫瘍内科)、東京都済生会中央病院(血液・腫瘍・感染症内科)、愛知がんセンター(薬物療法部)で悪性腫瘍の治療(薬物療法)について研修。現在は名古屋医療センター腫瘍内科に勤務。専門はがん薬物療法。内科認定医、がん薬物療法専門医(日本臨床腫瘍学会)、血液専門医(日本血液学会)。

「悪性リンパ腫」とは?

悪性リンパ腫は、白血球の1つであるリンパ球ががん化する血液がんです。リンパ球が存在する「リンパ系組織」にはリンパ節、胸腺、脾臓、扁桃といった臓器が含まれ、身体を病原体から守る役割を担っています。悪性リンパ腫はこれらのリンパ系組織の他、全身のあらゆる部位にできうるため、症状が出現する部位もさまざまです。本記事ではどんな時に悪性リンパ腫が疑われるか、悪性リンパ腫が見つかった時にどんな検査・治療をするのか解説します。

大人の悪性リンパ腫の前兆となる初期症状

首や脇の下のしこり

悪性リンパ腫の初期症状として、首や脇の下にしこりが見られることがあります。これは、リンパ節が腫れていること(リンパ節腫脹)による症状です。悪性リンパ腫によるリンパ節腫脹は一般的に痛みを伴いません。リンパ節腫脹は悪性リンパ腫のみならず、いろいろな原因で生じます。よくある原因は風邪や扁桃腺炎に伴うリンパ節腫脹です。
風邪症状や咽頭炎に伴うリンパ節腫脹であれば様子を見れば、そのうち自然と良くなります。何週間もずっとリンパ節が腫れていることが気になる場合や、首や脇の下、鼠径部(太ももの付け根の溝の内側部分)などのしこりがだんだん数が増え大きくなってきていることに気づいた場合は医療機関を受診しましょう。悪性リンパ腫の専門診療科は血液内科です。まずはかかりつけの内科を受診してください。リンパ節腫脹の原因は色々あります。悪性リンパ腫について詳しく調べる必要がある時は血液内科へ紹介してもらいましょう。

発熱

発熱は「B症状」と呼ばれる悪性リンパ腫の代表的な症状です。発熱はウィルスや細菌に感染して起きることが多いですが、検査をしても原因が見当たらない場合は悪性リンパ腫を含む他の原因についても考えます。
今起きている発熱が悪性リンパ腫のせいなのかどうか判断するのは非常に難しいです。医師は熱のパターンや、発熱以外の症状や所見、検査データなどを総合して、熱の原因を評価します。

皮膚のかゆみ

悪性リンパ腫、特に皮膚リンパ腫では皮膚のかゆみが生じることがあります。皮膚リンパ腫で最も多いのは菌状息肉症(きんじょうそくにくしゅ)と呼ばれるタイプです。最初は湿疹や乾燥肌のような、かさかさした赤みが身体に出てきます。この時点ではかゆみがあまりないことが多いです。その後、病気が進行すると皮膚に特徴的な盛り上がりが出てきてかゆみが生じます。また、全身が真っ赤になる紅皮症という状態になることもあります。アトピー性皮膚炎と似ていることがあるため、このような症状が出現した時には皮膚科を受診してください。必要に応じて血液内科に紹介してもらいましょう。

子どもの悪性リンパ腫の前兆となる初期症状

小児の悪性リンパ腫であっても、基本的には成人と同様の症状が出現します。ただし、小児は成人と異なり、症状を大人にうまく伝えることができないことがあるため、客観的な症状に注目する必要があります。

寝汗がひどい

寝汗、発熱、体重減少は「B症状」と呼ばれ、悪性リンパ腫の代表的な症状です。この時の寝汗は「寝具(マットレス以外の掛け布団,シーツなどを含む,寝間着は含まない)を変えなければならない程のずぶ濡れになる汗」と定義されており、ただの寝汗では説明ができないくらい汗の量が多い点が特徴です。厚着をして寝てしまった時や緊張している時、風邪を引いて高熱が出ている時も一時的にたくさん汗が出るようなことはあります。もし寝汗がひどくて気になるような場合は、まずかかりつけの小児科に相談してみましょう。

お腹のしこり

小児と成人では同じ悪性リンパ腫でも発生しやすいタイプが異なります。成人より小児で発生しやすい悪性リンパ腫の1つにバーキットリンパ腫というものがあります。このタイプはお腹の中でリンパ節が大きく腫れることがあります。お腹になにか硬いものが触れる時、それは悪性リンパ腫を含むしこりの病気かもしれません。この腹部腫瘤は腸管の一部が後ろの腸管に引き込まれ重なってしまう“腸重積”の原因となることもあり、腸重積になると腹痛や嘔吐が出現します。お腹によくわからない硬いものを触れるような場合は早めに小児科を受診し相談しましょう。

すぐに病院へ行くべき「悪性リンパ腫の初期症状」

ここまでは悪性リンパ腫の初期症状を紹介してきました。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。

原因のわからない発熱としこりが続く場合は、かかりつけの内科へ

発熱とリンパ節腫脹、これらは上気道炎(風邪)や扁桃腺炎でも出現する一般的なものなので、リンパ節が腫れているからといってすぐに慌てる必要はありません。しかし、風邪が流行っている訳でもないのに発熱を繰り返している時や一度腫れたリンパ節がずっと腫れ続けているような場合は詳しい検査が必要です。まずはかかかりつけの内科への受診を検討してください。

受診・予防の目安となる「悪性リンパ腫」のセルフチェック法

  • ・痛みのないしこりが長く続く場合
  • ・痛みのないしこりが徐々に大きくなっている場合
  • ・原因不明の発熱が続く場合
  • ・寝汗がひどい場合

悪性リンパ腫の検査法

リンパ節生検

リンパ節生検は、リンパ腫の診断に不可欠な検査です。この検査では、腫れたリンパ節や腫瘍の一部を採取し、顕微鏡で細胞の特徴を詳しく調べます。採取した組織は、リンパ腫のタイプの決定や病気の進行具合、治療方針の検討に役立ちます。また、染色体や遺伝子の異常を分析することもあります。

血液検査

血液検査はリンパ節生検と比べると体へのダメージが小さく、行いやすい検査であるため、悪性リンパ腫の治療経過を見る時に重宝します。この検査では、白血球、赤血球、血小板などの数をチェックしたり、肝臓や腎臓の機能評価を行ったりします。これらの情報は、感染症を起こしていないか、薬の副作用で肝臓や腎臓が悪くなっていないかなど、悪性リンパ腫以外のトラブルが起こっていないかをチェックする際にも役立ちます。

画像検査

画像検査には造影CTやMRI、PET、超音波検査が含まれます。これらの検査は、リンパ腫の広がりや病変の位置を詳しく調べるために用いられます。造影CTでは自分で触れるリンパ節だけでなく、身体の中にあるリンパ節腫脹も確認することができ、検査の中心になります。MRIは特に脳や脊椎、筋肉などに異常があるかどうかを評価するのに適しています。
PET検査は、がん細胞が通常より多くのエネルギーを消費する性質を利用して、ブドウ糖に似た成分の薬を投与し、がん細胞のある部分を浮き上がらせる検査です(核医学検査のひとつ)。悪性リンパ腫の場合、治療前に加えて治療後にも行うことがあります。

骨髄検査

骨髄検査は腰や胸の骨に針を刺して骨髄液を吸引する「骨髄穿刺」という方法で検体を採取します。この検査は悪性リンパ腫が骨の中(骨髄)まで染み込んでいないか調べることができます。

悪性リンパ腫の治療法

薬物療法

悪性リンパ腫の治療で中心となるのが薬物療法です。薬物療法では抗がん剤や分子標的薬、ステロイドが用いられますが、どの薬を使用するかはリンパ腫の種類や進行度に応じて様々です。
一般的な治療法は、複数の抗がん剤を組み合わせる多剤併用療法で、これによりがん細胞を効果的に攻撃します。例えば、日本人に多い非ホジキンリンパ腫のひとつである
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫では5種類の薬(リツキシマブ、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)の投与が行われます。これはR-CHOP療法と呼ばれます。このなかで、リツキシマブが分子標的薬に該当しますが、最近では、ポラツズマブなど新たな薬も登場し、治療の進歩がみられます。治療開発が盛んに行われており、治療の進歩が期待されています。化学療法の代表的な副作用は吐き気・悪心、脱毛、粘膜炎(口内炎など)、骨髄抑制(血球細胞の減少)、感染症の他、悪性リンパ腫治療に特徴的なものとして、腫瘍が壊れることで起こる腫瘍崩壊症候群などがあります。
抗がん剤治療のときには吐き気止めを併用する他、必要に応じて、栄養補給やリハビリテーション、緩和ケア(痛みの緩和など)も並行して行い、治療がうまくいくことをサポートしていきます。

放射線療法

放射線療法は、がん細胞を破壊するために放射線を使用する治療法です。薬物療法が全身に効く治療であるのに対し、放射線療法は局所病変(がん細胞の集まっている部分)を狙い撃ちするのが得意です。放射線療法は薬物療法と併用して用いたり、病変が小さく、進行も速くない一部の悪性リンパ腫の場合は、放射線療法単独で治療したりすることもあります。
放射線療法はリンパ腫の完治目的以外にも、腫瘍を小さくすることで一時的に苦痛を和らげる緩和目的の照射、造血幹細胞移植時の拒絶反応抑制と腫瘍縮小目的の全身照射などがあります。

造血幹細胞移植

抗がん剤投与や放射線治療を強力に行うと、正常な臓器も大きなダメージを負ってしまいます。特に骨髄の造血幹細胞は影響を受けやすく、免疫力低下や貧血、出血傾向(あざが出来やすい、血が出やすい)といった症状が出てしまいます。この問題への対処法の一つが造血幹細胞移植です。
造血幹細胞移植には自家移植と同種移植の2種類があります。自家移植では事前に患者さん自身の幹細胞を採取し保存してから、大量の抗がん剤投与や放射線治療を行い、治療後に保存しておいた自身の幹細胞を身体に戻します。そうすることでより強力な治療を行うことができます。悪性リンパ腫の治療では、この自家末梢血幹細胞移植を用いることが多いです。対して、同種移植は他の人(ドナー)からの幹細胞をもらって使用する方法になります。ドナーになれるのは白血球の型(HLA)が患者さんと同じ人であり、兄弟姉妹であれば4分の1の確率で同じ型なので、兄弟姉妹間での造血幹細胞移植がしばしば行われます。

「悪性リンパ腫の初期症状」についてよくある質問

ここまで悪性リンパ腫の初期症状などを紹介しました。ここでは「悪性リンパ腫の初期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

悪性リンパ腫を発症すると、どこにかゆみを感じることがありますか?

杉山 圭司杉山 圭司 医師

悪性リンパ腫、特に皮膚リンパ腫では、皮膚に赤みがあってカサカサしている部分や皮膚の盛り上がっている部分にかゆみが出ます。全身が真っ赤になる紅皮症の場合は体全体がかゆくなります。

悪性リンパ腫を疑う首のしこりには、どのような特徴がありますか?

杉山 圭司杉山 圭司 医師

悪性リンパ腫のしこりは痛みがなく、押しても硬くて動かないのが特徴です。風邪を引いた時などにできる反応性のリンパ節腫脹の場合は、丸くつるんとしていて触るとよく動きます。また、炎症を反映してしこりに触ると痛みを感じることがあります。

編集部まとめ

悪性リンパ腫の初期症状は一般的な風邪症状に似ている部分もあり、初期には見分けがつきにくいものです。原因不明の発熱や違和感のあるリンパ節の腫れを自覚した時には、悪性リンパ腫の可能性も考えて、一度かかりつけの医療機関を受診しましょう。

※この記事はメディカルドックにて《「悪性リンパ腫を疑う3つの初期症状」はご存知ですか?子どもの場合も医師が解説!》と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその執筆時のものです。

この記事の監修医師