元宝塚・加茂さくらさん「肺がん」で逝去 発症しやすい年齢や死亡率を医師が解説
女優で宝塚歌劇団でも活躍した加茂さくらさんが、20日に肺がんのために逝去したことが報じられています。87歳でした。肺がんの罹患数は、男女ともに年齢が上がるほど増える傾向があります。そこで肺がんになりやすい年齢や罹患率、死亡率などについて、医師の武井智昭先生に解説していただきました。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
肺がんとは
肺は呼吸を行うための器官で、左右の胸部に1つずつあり、気管・気管支・肺胞から構成されています。肺がんは、肺の正常な細胞が何らかの原因でがん化したものです。
肺がんで命を落とす方は年間約7万5千人を超え、これはすべてのがんのなかでも決して少ない数値とはいえません。肺がんは進行するにつれて、周囲の組織を破壊しながら増殖する性質があり、リンパ節や反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎などに転移することもあります。そのため、注意が必要です。
肺がんの罹患率は年々増加しており、早期発見のためには定期検診が欠かせません。
非小細胞肺がん
肺がんは、治療の効きやすさや進行速度の違いから、非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2つの組織型に大別されます。非小細胞肺がんは、肺がん全体の約8〜9割を占め、さらに腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんなどに分類されます。
このうち、肺がん全体の約5〜6割を占めるのが腺がん、次いで多いのが全体の約3割を占める扁平上皮がんです。
腺がんは末梢部分に生じることが多いとされておりますが、症例により異なります。これに比べて、扁平上皮がんは肺門部に発生しやすく、咳や血痰などの症状が現れやすいかもしれません。
小細胞肺がん
小細胞肺がんは、肺がんの約10〜15%の確率で発症する病気です。転移が速く、部位によって骨転移による疼痛・ホルモンを異常に産生する内分泌異常(クッシング症候群、SIADH)・下腿を中心とした筋力低下(Lambert-Eaton症候群)など、いろいろな症状が現れるでしょう。また、進行が極めて速いため、迅速な診断と早期の治療開始が必要な点にも注意してください。
特徴としては喫煙者の男性に多く見られ、増殖が早く転移しやすく、抗がん剤や放射線に対する感受性が高いことが挙げられます。さらに、肺の入り口である肺門近くに多く発症するため肺門型肺がんとも呼ばれ、血痰が出ることも特徴的です。
肺がんになりやすい年齢
肺がんになりやすい人には、どのような特徴があるのでしょうか。以下に、肺がんの患者さんが増えやすい年齢や男女差についてまとめました。
肺がんの患者さんが増えてくる年齢
肺がんの罹患数は、男女ともに年齢が上がるほど罹患率が高くなる傾向があります。特に60歳以降になると急激に増加し、70歳以上ではその増加が顕著です。
男性の場合、40歳以上では胃がん・大腸がん・肝臓がんなどの消化器系がんが約5〜6割を占めますが、70歳以上になると肺がんと前立腺がんの割合が大きくなります。女性の場合は、50歳代から肺がんと消化器系のがんが増え始めます。
男女差
国立がん研究センターの統計によると、2019年度の肺がんの罹患数は126,548例で、全がんのなかで3番目に多いことが報告されています。そのうち、男性は84,325例、女性は42,221例と、男性の方が女性の約2倍多いのです。男性の場合、70歳以上で肺がんの罹患率が急増し、80歳以降も増加が続いています。
一方、女性では40歳代で乳がん・子宮がん・卵巣がんなど女性特有のがんが約7割を占めますが、閉経を迎える50歳代を境にその割合が減少します。
年齢階級別の罹患率・死亡率
肺がんは、罹患率・死亡率ともに年々増加している肺の病気です。国立がん研究センターの2019年度のデータをもとに、肺がんの年齢階級別罹患率と死亡率をまとめました。
年齢階級別罹患率
男性も女性も50歳を境に肺がんの罹患率が増え始め、60歳以降は年齢が上がるにつれてさらに罹患率が上昇していきます。2019年度の年齢階級別罹患率では、男女ともに95歳でピークを迎えました。
男性の具体的な罹患率の推移は、65歳で290.2、75歳で540.2、85歳で644.7、95歳で703.4と、右肩上がりの傾向を示しています。一方、女性は65歳で113.4、75歳で195.1、85歳で205.9、95歳で239.8と、70歳以降はほぼ横ばいの状態であることがわかります。
年齢階級別死亡率
2020年に肺がんで亡くなった人は75,585人(男性53,247人、女性22,338人)でした。肺がんの年齢階級別死亡率は男女ともに60歳から増え始めますが、男性は70歳から、女性は80歳から急増しています。男性の肺がんによる死亡数は54,247人と、ほかのがん種と比べても特に多く、部位別がんの死亡原因としては第1位です。女性の場合も大腸がんに次いで多く、22,338人が肺がんで亡くなっています。
肺がんのステージ別の生存率
がんの進行度を示すステージ(病期)は、肺がん取扱規約に基づき、国際的指標であるTNM分類で決定されます。さらに、ステージごとに手術、薬物療法、放射線治療のいずれかを検討し、がんの性質や患者さんの体の状態も考慮して治療方針を決めていきます。
2014〜2015年度の国立がん研究センターの集計によると、ステージ別の肺がん(非小細胞肺がん)の5年生存率は以下のとおりですので、参考にしてください。
ステージ1
早期肺がんの病期であるステージ1の5年生存率は、84.1%です。治療方針としては、肺にがんがありリンパ節転移がない場合、できるだけ優先的に手術が検討されるでしょう。
がんとその周囲の健康な組織の一部を取り除くことで、がんの根絶を目指します。また、再発のリスクを最小限に抑えるために、手術前後に化学療法などが行われることがあります。
ステージ2
ステージ2での5年生存率は、47.7%です。がんがある側のみにリンパ節転移がある場合は、根治を目指して外科的手術が行われます。患者さんの年齢、希望、合併症を考慮して、放射線治療が行われることもあります。
ステージ3
ステージ3での5年生存率は、28.2%です。肺にあるがんが周囲の組織に浸潤している場合や、肺と同じ側だけでなく縦隔のリンパ節まで広がっている場合には、手術、放射線治療、抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。
治療方針は患者さんの状態によって異なるため、詳しくは担当の医師と十分に相談してください。
ステージ4
ステージ4での5年生存率は、8.4%です。より進行した状態の肺がんであるため、病気の進行を遅らせる、症状を和らげる、生活の質を向上させることを目的に、抗がん薬を用いた化学療法が優先されるでしょう。
また、がんを治癒させることよりも延命が主な目的となるため、痛みや呼吸困難などの症状を和らげる緩和ケアも重要な選択肢のひとつになります。
肺がんになりやすい年齢についてよくある質問
ここまで肺がんになりやすい年齢・罹患率・死亡率などを紹介しました。ここでは「肺がんになりやすい年齢」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
肺がんを疑うべき症状を教えてください。
武井 智昭 医師
- 顔のむくみ
- 皮膚に血管が浮き出る
- 手のしびれ・力の入り辛さ
- まぶたが垂れてくる(眼瞼下垂)
- 指が太くなる(ばち指)
- ゼイゼイというような咳が出る
- 血痰
上記の症状がある方や、血混じりの痰が一定期間続く方は注意が必要です。特に、眼瞼下垂・ばち指など肺がん特有の症状が現れた場合は、なるべく早めに肺の専門科または呼吸器内科を受診してください。
肺がん検診は何歳から受ければよいですか?
武井 智昭 医師
早期発見して適切な治療を受けるためには、40歳以上の方であれば男女問わず定期検診を受けることが重要です。肺がんは、レントゲン撮影やCT検査などを受けた際に、症状がないまま偶発的に発見されることもある病気です。肺がんには「この症状があるから必ず肺がん」という決まった症状はありません。そのため、気になる症状があれば、何歳であろうと早めの受診をおすすめします。呼吸器症状が続く場合は、かかりつけの医療機関に相談することで、早期発見につながる可能性があります。
編集部まとめ
今回は、肺がんになりやすい年齢や年齢階級別の死亡率、ステージごとの治療法について解説しました。
現代では、喫煙や年齢に関係なく、誰でも肺がんになる可能性があります。「私は女性だし、非喫煙者なので肺がんにはならないだろう」と油断せず、気になる症状があればすぐに医療機関を受診しましょう。
また、40歳を過ぎたら症状がなくても年に1回は定期検診を受け、数年に1回はCTを撮るなどの定期検査を行い、早期発見に努めてください。
※この記事はMedical DOCにて【「肺がんになりやすい年齢」はご存知ですか?罹患率や死亡率も解説!<医師監修>】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。