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落語家・桂雀々さん逝去 罹患していた「糖尿病」はどのような合併症を引き起こすのか

 公開日:2024/11/22

落語家の桂雀々さんが、11月20日亡くなったことが報道されました。64歳でした。雀々さんは10月下旬に一度倒れ、緊急搬送・入院しており、その後は回復しリハビリをしていました。しかし、今月15日に所属事務所が「持病の糖尿病により、現在入院加療中です」と報告し、年内出演予定の落語会を全て休演していました。

雀々さんが患っていた「糖尿病」は、進行すると様々な合併症を引き起こす恐ろしい疾患です。本記事では糖尿病の合併症や主な症状などについて、医師の久高先生に伺いました。

久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

糖尿病の合併症はなぜ起こる?

糖尿病の合併症はなぜ起こる?
糖尿病の合併症が起こる理由には、糖尿病によって血糖値が高くなることが関係しています。糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、血糖値が常に高い状態になる病気です。
本来、ブドウ糖はインスリンの働きによって血液中から体の各細胞に入り、エネルギー源として活用されます。
しかしインスリンが何らかの原因により十分に機能しなくなると、ブドウ糖が吸収されずに血液中に増えてしまうのです。この状態を糖尿病といいます。
血液中に多いままになったブドウ糖は、ヘモグロビンと結合してヘモグロビンの働きを阻害したり、血管を傷つけ硬化させたりしてしまいます。
この状態が続くと、血管を通して運ばれるはずの酸素や栄養が十分に行き渡りません。これにより体中のさまざまな臓器や神経に影響が出て、合併症が引き起こされるのです。
特に心臓や脳の血管が影響を受けやすい傾向があり、脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる病気の原因にもなります。

糖尿病の合併症の種類

糖尿病の合併症の種類
糖尿病は体中のさまざまな臓器や神経に関わる合併症を引き起こします。どのような合併症があるのか、具体的に解説します。

神経障害

神経障害は、糖尿病の三大合併症に数えられている合併症です。血糖値が高いと神経に必要な栄養を運べなくなり、運動神経・感覚神経・自律神経といった神経の働きが鈍くなります
これにより心身にさまざまな不調を引き起こすのが神経障害です。神経障害が起こると以下のような症状がみられるようになります。

  • 物を掴んだときの感覚が鈍くなる
  • 階段の上り下りなどのちょっとした動作で息切れしやすくなる
  • 胃腸の調子が悪い状態が続く
  • 汗をかきにくくなる

感覚神経が鈍くなると、物を触った感覚が十分に脳に伝わりません。血が出るような怪我をしていてもすぐに気づけなくなるケースもあるでしょう。
運動神経に障害が出ると、足や腕の筋力が低下することもあります。臓器や細胞の働きに深く関係している自律神経の働きに障害が出ると、消化器官の不調につながります。
また、自律神経は血圧の調整にも関係している神経です。
そのため自律神経に障害が出ると血圧調整がうまくできなくなり、起立性低血圧や徐脈のほか、無痛性心筋梗塞を引き起こす可能性もあります。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、神経障害と同じく糖尿病の三大合併症に数えられる合併症の一つです。糖尿病網膜症になると網膜や視神経の働きが阻害され、視力の低下や失明につながる危険性があります。
網膜は、視覚情報を脳に伝える重要な役割を担っている組織です。視覚情報を脳へ正常に送るためには、網膜に広がっている毛細血管から視神経へ酸素や栄養を行き届かせる必要があります。
しかし糖尿病になると血液中の糖の濃度が高い状態が続き、毛細血管に酸素や栄養が届きにくくなります。
これにより、視神経が十分に働かなくなってしまうのです。また、血糖値が高い状態が続くと網膜内の血管が傷つけられ、進行すると網膜出血や網膜剥離が起こります。
糖尿病網膜症が重症化すると最悪の場合失明しかねないため、早期発見と血糖コントロールなどの早期治療が必要です。

糖尿病腎症

糖尿病腎症も三大合併症の一つです。血糖値が高い状態が続くことが原因で腎臓の機能が慢性的に低下する病気であり、発症すると体にさまざまな不調があらわれます。
腎臓は血圧の調整や老廃物の排泄、血液生産に必要なホルモンの分泌など、さまざまな役割を担っている臓器です。
腎機能が低下すると、不要な水分や老廃物の排泄機能が低下してむくみやすくなったり、血圧の調整がうまくできず貧血を起こしたりします。
腎症は初期症状がなく、進行してから体の不調があらわれる点もこの病気の特徴です。
病気が進行し腎機能が著しく低下した場合には、透析療法が必要になります。腎臓の機能は一度低下すると回復は困難とされており、透析療法によって人工的に腎臓の機能を補います。

動脈硬化

動脈硬化
動脈硬化は動脈が硬くなる状態を指します。通常、血管は柔らかくしなやかな形状をしているものです。しかし、血液中にブドウ糖が多くなると血管を傷つけ、弾力性が失われてしまいます。
血管の弾力性が失われると、血液の流れが悪くなったり血管が詰まりやすくなってしまいます。これにより引き起こされる恐れがあるのが、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの病気です。
特に心臓や脳などの重要な臓器の動脈が硬化することを細動脈硬化と呼び、細動脈硬化が起きると命に関わる病気を発症する可能性が高くなります。
動脈硬化は、糖尿病以外にも加齢・高血圧・喫煙・肥満・運動不足などさまざまな要因が重なることで発症率が高くなります。

糖尿病足病変

糖尿病足病変は、水虫やタコ、足の変形などさまざまな症状が足にあらわれる病気です。糖尿病によって足の血管が細くなり、足の神経に障害が出ることによってさまざまなトラブルが発生します。
たとえば、糖尿病による神経障害で足の感覚神経が鈍くなったことによって傷や感染症に気づきにくくなり、傷口の化膿や水虫の悪化が進んでしまうなどの症状が代表的です。
また、足に広がる末梢動脈が細くなり血液の流れが悪くなると、足潰瘍や足の組織が死んでしまう足壊疽が起こる危険性もあります。
糖尿病足病変を早期に発見するためには、定期的な足の観察が欠かせません。定期的に観察することで足の異変に気づけるだけでなく、もし気づかないうちに傷ができていても放置することなく適切な治療ができます。
足の感覚に違和感がないか、足の状態が変化していないかなどを定期的に観察し、異変があれば医師に相談しましょう。

糖尿病の合併症の症状

糖尿病の合併症の症状
糖尿病の合併症によって引き起こされる症状はさまざまです。続いて、合併症の症状を解説します。

手足のしびれ

糖尿病の合併症を発症していると、手足のしびれが症状としてあらわれます。これは神経障害や糖尿病足病変、動脈硬化が起こっている場合にあらわれる症状です。
先述したとおり、動脈硬化が進むと血管の弾力性が失われ血管が細くなります。手足に広がっている末梢動脈の動脈硬化が進むと、手足の血流が悪くなり、さまざまな不調を引き起こすのです。
血流が悪くなることで手足の冷えを感じやすくなるほか、しびれを感じるようになります。これは、末梢動脈から手足の神経に十分な栄養が行き渡らなくなることによって起きるものです。

手足の痛み

手足の痛みも、糖尿病の合併症によってあらわれる症状の一つです。先述した手足のしびれと同じ原因によって起きる症状であり、手足のしびれが悪化すると痛みを感じるようになります。
末梢動脈が細くなることや神経障害が大きく関係しており、感じる痛みは「チクチクする」「ヒリヒリする」と表現されたり、うずくような痛みと表現されたりします。
症状が進むと歩いているうちに足が重くなり痛みを感じるようになり、さらに悪化するとじっとしても痛みを感じるようにもなるでしょう。

視力が落ちる

視力が落ちる
視力の低下も合併症によって引き起こされる症状の一つです。糖尿病網膜症を発症している場合に起きる症状であり、発症前に気づくことが難しい症状でもあります。
糖尿病網膜症を発症していると、網膜の血管がむくんだり壊れたりして白斑や出血が起きますが、初期段階では特に自覚症状はありません。網膜内に酸素や栄養が行き渡らない状態が続くと、足りない分を補おうと新しい血管がつくられます。
この新しい血管は壊れやすく、網膜の内側にある硝子体内で出血を引き起こすと、視力低下の原因となる網膜剥離につながってしまうのです。
また網膜内にある黄斑にむくみができることも、視力低下につながります。この黄斑のむくみを糖尿病黄斑浮腫といい、糖尿病網膜症のどの段階でも起きる可能性がある病気です。

失明

先述した視力低下の低下のほかに、糖尿病の合併症によって失明する可能性もあります。先述した硝子体内での出血により網膜剥離が起こると、視力の低下だけでなく失明にもつながる可能性があります。
糖尿病網膜症は自覚症状がほぼなく、硝子体出血や網膜剥離などの症状が起こった場合に気づくことの多い病気です。
気づいた時には重症化している可能性もあるため、糖尿病網膜症を早期に発見するには、定期的な眼科検診が欠かせません。

腎臓の働きが悪くなる

腎臓の働きが悪くなる
糖尿病の合併症により、腎臓の働きが悪くなるといった症状もあらわれます。これは血糖値が高い状態が続くことによって腎臓の血管が細くなり引き越される症状です。
腎臓のなかには糸球体と呼ばれる毛細血管があり、この血管が血液を濾過して体に必要な栄養を取り込んだり、老廃物を排泄したりといった働きをしています。しかし糖尿病になり腎臓の血管が細くなると、この働きが鈍くなります。
糖尿病腎症によって腎臓の働きが悪くなっているかどうかを早期発見するには、微量アルブミン尿検査が有効です。
また、腎機能が低下していると糸球体で濾過される血液の流量が減少するため、血液検査によってどのくらいの量が濾過されているかを確認する方法もあります。

水虫

水虫も糖尿病の合併症によってあらわれる症状の一つです。水虫は皮膚の感染症の一種であり、真菌である白癬菌が原因となって発症します。
足の指の間がかゆくなる趾間型白癬や、水ぶくれができる小水疱型白癬のほか、爪が厚く変形し色が白く濁る爪白癬などの種類があります。
糖尿病足病変の代表的な症状の一つであり、感染している場合は真菌薬や抗生物質などによる治療が一般的です。
また、糖尿病足病変の検査では感染症の検査を行うケースもあり、その際に真菌の検査を行う場合があります。
水虫を放置すると傷口から雑菌が入り二次感染を引き起こす可能性もあるため、早めの治療が必要です。

足の変形

糖尿病の合併症によって、足の変形が起きるケースもあります。水虫と同じく糖尿病足病変の症状の一つであり、神経障害が関係している症状です。
外反母趾・内反小趾のほか、シャルコー足などの変形が起き、靴擦れをしたりタコができたりしやすくなります。
神経障害によって痛みを感じにくくなるため、変形によって怪我や骨折をしていても気づきにくいため、定期的な足の観察が必要です。
また変形した足には靴が合わなくなる可能性もありますが、神経障害のために靴が合っていないことに気づけない可能性があります。
靴が合っていないと靴自体にも負担がかかって変形したり靴擦れで出血した血が付着していたりするため、足の変形が疑われる場合には靴も確認してみましょう。

自覚症状がないケースも

糖尿病の合併症には自覚症状がないケースも少なくありません。糖尿病網膜症や糖尿病腎症など、初期段階では自覚症状がなく、進行してから発症に気づくケースもあります。
そのため糖尿病になると、合併症の症状の有無にかかわらず合併症に関する検査が必要です。
糖尿病網膜症を発見するための眼底検査などの眼科検診、糖尿病腎症に気づくための尿検査・血液検査など、合併症発見に必要な検査を適切に行いましょう。
自覚症状がなく、検査で問題ないからといって合併症を発症していないとは限りません。合併症が重症化すると命に関わる可能性もあるため、医師の指示に従い、定期的な検査や予防を行いましょう。

糖尿病の合併症が起こりやすいのはどのような人?

糖尿病の合併症が起こりやすいのはどのような人?
糖尿病の合併症は血糖値が高いことのほかに、高血圧が関係しているものが多くあります。
高血圧は糖尿病網膜症・糖尿病腎症・神経障害といった三大合併症にも関係しており、糖尿病の合併症の治療では血圧コントロールも行われるケースがほとんどです。
糖尿病や高血圧を発症する原因は、食生活や運動不足など生活習慣の乱れが関係しています。肥満・運動不足・喫煙者であるなど、生活習慣に問題がある場合に合併症も起きやすくなります。
そのため、糖尿病や合併症の治療には食事療法や運動療法が取り入れられるのが一般的です。これらの治療によって生活習慣を見直し、血糖値や血圧の改善を目指します。

糖尿病の合併症で行われる検査は?

糖尿病の合併症で行われる検査は?
糖尿病の合併症では、さまざまな検査が行われます。合併症別の代表的な検査方法は以下のとおりです。

  • 糖尿病網膜症:眼底検査・視力検査・眼圧検査
  • 糖尿病腎症:尿検査・血液検査
  • 神経障害:アキレス腱反射・振動覚検査・心拍変動検査
  • 動脈硬化:動脈エコー

糖尿病網膜症の検査では網膜に白斑や出血が見られないかを観察し、もし見つかれば進行を止めるための治療を行います。
糖尿病腎症の検査は、腎臓が正常に機能しているか確認する検査です。検査結果から腎機能に問題が見られれば、病気の進行度にあわせた治療を行います。
神経障害の検査は神経が正常に機能するかを見るため、音叉を当てたりアキレス腱の反射反応が起こるかなどを確認します。
また、上記に挙げた心拍変動検査は自律神経の働きを確認する検査です。呼吸によって生じる心拍のゆらぎを自律神経がコントロールできているかを検査します。
動脈硬化の検査で行われる頸動脈エコーは、首の頸動脈に超音波を当て画像化する検査です。頸動脈の壁の厚さを確認でき、厚くなっていると動脈硬化が疑われます。
ほかにも合併症の検査はさまざまなものがあり、これらの検査は病状を正確に把握するために欠かせません。

糖尿病の合併症を予防する方法はある?

糖尿病の合併症を予防する方法はある?
糖尿病の合併症を予防するためには、糖尿病の治療に専念し、血糖コントロールや血圧コントロールなどを行うことが大切です。
糖尿病は食事療法や運動療法、インスリン療法などによって血糖値や血圧などの改善を目指す治療を行います。これらの治療を行うことが、合併症の予防にもつながります。
また喫煙や体重管理など、生活習慣の見直しも重要です。
生活習慣の乱れは、合併症の発症や悪化につながる可能性があります。合併症を予防するためにも、健康的な生活習慣を心掛けましょう。

編集部まとめ

まとめ
糖尿病は合併症を引き起こす可能性の高い病気であり、合併症では体のさまざまな不調が起こります。なかには命に関わる病気につながる合併症もあり、注意が必要です。

初期段階では自覚症状がない合併症を早期発見するには、定期的な検査・検診が欠かせません。

また、予防には生活習慣の見直しも大切です。生活習慣の見直しは糖尿病の治療にも有効なもののため、医師の指示に従い、合併症の予防・早期治療を目指しましょう。

この記事の監修医師