網膜剥離の原因や症状、治療方法とは?
網膜剥離(読み方:もうまくはくり)とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
この記事の監修ドクター:
木村隆 医師(きむら眼科 院長)
網膜剥離とは
網膜剥離とは、眼球の内側にある網膜という膜が剥がれて、視力が低下する病気です。
網膜とは、目の中に入ってきた光を刺激として受け取り、脳への視神経に伝達する組織で、カメラでいうとフィルムのはたらきをしています。
網膜が剥がれるときには痛みを伴わないため気づきにくいのですが、前兆として飛蚊症(モノを見ているときに黒い虫のようなものが動いて見える状態)があらわれることがあります。また、網膜の中心部である黄斑部分まで剥がれた場合、急激に視力が低下し、失明に至る恐れもあります。
網膜剥離の症状
目の前に糸くずや虫のようなものが見える、いわゆる「飛蚊症(ひぶんしょう)」は、生理的に生じるもので加齢によって生じます。しかし、急に大きな影のようなものが見えるようになった場合には、網膜剥離が疑われ、注意が必要です。 また、硝子体が網膜前面から外れるときに、キラキラと光が見えるように感じる(光視症:こうししょう)のも、網膜剥離の前段階として特徴的な症状です。進行してくると、カーテンや幕がかかっているように見えるなど、視野の欠けを自覚します。
網膜剥離が網膜の中心で最も重要な黄斑部(おうはんぶ)にまで及ぶと、視力低下が起こり、放置しておくと失明に至る場合もあります。
網膜剥離の原因
網膜剥離の主な原因は、網膜裂孔(網膜の亀裂)です。
一般的に、網膜剥離といえばこの網膜裂孔による「裂孔原性網膜剥離」を指します。網膜裂孔が起こるのは硝子体と網膜の癒着が強い場所です。
原因が加齢性のものと、その他の影響によるものがあります。
もともと硝子体は無色透明のゲル状の物質で、眼球内部を満たしているのですが、加齢とともにサラサラの液体に変化して少しずつ容量が減ってしまいます。そこに網膜が引き込まれて隙間ができ、裂孔原性の網膜剥離が起きてしまいます。一方で、交通事故やスポーツ中の衝突などで受けた頭部・目への物理的衝撃、近視度の強さで変化する網膜の円孔(円形の穴)も発症原因になります。
近視の度合いが強い人は、正視(いわゆる目が良い状態で、屈折異常がない目)の人よりも眼球に奥行きがあります。これによって、網膜の面積が広くなり、萎縮して薄くなった部分に円孔ができて網膜裂孔が生じるのですが、このような裂孔原性網膜剥離は、20代の若い人に見られることがあります。
網膜剥離の検査法
網膜剥離は網膜が剥がれているので、まず、網膜に剥がれている部分があるかどうかを徹底的に調べます。通常、瞳(黒目)の大きさは小さく、虹彩の陰に隠れている部分の網膜は見えないため、点眼薬を使って瞳を大きくして(散瞳して)眼底検査をします。散瞳薬の効果は3-4時間続きますので、検査が終わっても薬の効き目がなくなるまでの間は、まぶしかったりピントがぼやけたりします。そのため、眼底検査を行った後の数時間は、車の運転を控えた方が良いでしょう。
網膜剥離や網膜裂孔があれば、目の上に検査用コンタクトレンズを乗せてさらに詳しく調べます。
硝子体出血などで網膜の状態がよく見えないときは、眼科用超音波検査を行って網膜剥離の有無を調べることもあります。また、網膜細胞がどの程度傷んでいるかを知るために、目の上にコンタクトレンズ電極を乗せ、強い光を目に当てて網膜から出る弱い電流を測定する場合(ERG検査)もあります。
網膜剥離の治療方法
網膜剥離の治療方法は、状態によって異なります。
(1)網膜裂孔だけで網膜が剥がれていないとき
網膜裂孔が生じても、網膜がはがれていない場合は、網膜裂孔のまわりを凝固(糊づけのようなもの)して、網膜剥離への進行を予防できることがあります。
網膜凝固には、網膜光凝固と網膜冷凍凝固があり、凝固によって裂孔周囲の神経網膜と網膜色素上皮に瘢痕を形成し、神経網膜の下に網膜剥離を誘発する水分が流入するのを防ぎます。ただし、裂孔の大きさや硝子体がひっぱる程度によっては予防効果が弱いこともあり、治療の適応や経過観察の方法が異なります。(2)網膜が剥がれていたとき
網膜裂孔から網膜剥離に進行していたら、手術が必要となります。網膜剥離のタイプ(裂孔の大きさや位置、網膜剥離の進行程度、硝子体出血の有無、他の眼疾患の合併など)によって、手術の方法が異なります。手術は、強膜バックル術(強膜内陥術)と硝子体手術に大別できます。