歯科医院にて、親知らずを抜歯した方が良いと提案されたことはありませんか。
親知らずとは18〜20歳くらいに生えてくる臼歯のことで正常に生えてくるのが稀で、骨の中に埋まったまま出てこなかったり、横や斜めから生えてきたりします。
そのため、歯磨きが難しく、むし歯になりやすいことから痛みや腫れが生じた場合は治療方法として抜歯が行われます。
しかし、親知らずは必ずしも抜歯しなければならないというものではありません。では、どのようなケースで抜歯が行われるのでしょうか。
本記事では、親知らずの抜歯方法について、リスク・費用・抜いた方が良い親知らずも解説します。
これから親知らずの抜歯を予定している方、親知らずが炎症を起こしていて治療を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次 -INDEX-
親知らずの抜歯方法
親知らずの抜歯方法としては、正常に生えている場合は麻酔をかけて親知らずをそのまま引き抜きます。
しかし、横向きに生えていたり埋没していたりする場合は歯茎を切開したり、骨や歯を削ったりすることもあります。
親知らずを抜歯するときは抜歯する親知らずの歯茎周辺に表面麻酔を塗布し、局所麻酔をかけるので手術中は痛みを感じることが少ないです。
麻酔がかかっているのが確認できたら、抜歯を行います。正常に生えている場合は、そのまま親知らずを抜き、抜いた箇所に血餅ができたら縫合し止血です。
親知らずが埋まっている場合は麻酔後歯茎を切開し、親知らずがみえる状態にしてから抜歯します。
また、横向きや斜めに生えていてそのまま引き抜くのが難しい場合は歯冠を分割してから抜歯していきます。
親知らずの抜歯は生え方の状態を検査してから行われるため、検査結果から抜歯の必要性や治療方法について担当の歯科医師と相談して決めましょう。
抜歯に伴うリスク
親知らずの抜歯をする前にはレントゲンやCTなどで抜歯する箇所の状態を確認してから行われますが、起こりうるリスクがいくつか挙げられます。
抜歯後、痛みや腫れを引き起こすことがあります。抜歯は局所麻酔を使用するため、術中に痛みを感じることは稀ですが、麻酔が切れた後に痛みや腫れを感じやすいでしょう。
また、抜歯すると出血が伴いますが、かさぶたができずに出血が止まりにくい可能性があります。
加えて、下の親知らずを抜歯する場合は下顎に通っている歯の神経を傷つけてしまうと、舌の痺れや麻痺などを引き起こすことがあります。
抜歯後に感じる痛みや腫れへの対処法としては、歯科医院から痛み止めを処方してもらうことです。
また、術後の経過については自己管理になるため、異変を感じた場合はすぐに歯科医院へ連絡して通院するようにしましょう。
抜歯するうえで注意が必要な人は?
親知らずを抜歯するうえでは、下記の疾患を患っている場合は注意が必要です。抜歯前の麻酔や抜歯による出血でリスクが高いといえます。
- 心臓病のある人
- 高血圧症の人
- 肝臓病を持つ人
- 糖尿病の人
- 血液疾患を持つ人
それぞれどのような点に注意が必要なのでしょうか。詳しくみていきましょう。
心臓病のある人
心臓病がある人は抜歯で起こる出血の際に血が止まりにくく、急激な血圧低下を引き起こすリスクがあります。
心臓病患者が服用する薬の中に血液凝固を抑制する作用があるものがあり、抜歯の際に止血が難しくなる可能性が高いです。
また、抜歯する行為自体に体への負担だけでなく、精神的にも負担に感じられる場合があります。
すると心身の負担から持病の心臓病にも悪影響を及ぼす可能性も否定できません。親知らずの抜歯に関して不安を強く感じる方は控えた方が良いでしょう。
そして、親知らずの抜歯は出血が不可避のため、抜歯が必要と診断された場合は、かかりつけの内科の医師に抜歯の可否を相談しましょう。
高血圧症の人
高血圧症の人は血圧の変動に注意が必要です。抜歯前から血圧の管理を行い、安定した状態で抜歯を行います。
抜歯後は血圧が低下しやすく、低下した状態が長く続くと血液が循環せず、心臓や肝臓などの臓器に酸素が行き届かなくなる恐れがあります。
高血圧症の人が抜歯する場合は、抜歯前から抜歯後まで血圧が安定している状態を確認しながら進めていかなければならない点に、注意が必要です。
肝臓病を持つ人
肝臓病を持つ人は麻酔管理に注意が必要です。肝臓が悪いと薬物の代謝が遅くなり、麻酔からの覚醒が遅れることがあります。
また、血小板の減少によって出血が多くなることもあるため、抜歯で出血量が多くなる可能性がある場合は抜歯自体ができない可能性もあります。
そのため、肝臓病と親知らずの状態をかかりつけの医師に相談しながら抜歯が必要かどうか決めると良いでしょう。
糖尿病の人
糖尿病の人は血糖コントロール指標が不良の場合、免疫不全などで抜歯後に細菌への感染リスクが高くなります。
糖尿病の場合、高血糖状態が続くため、血糖値がどのくらいコントロールできているかが重要になります。
血糖コントロール指標が良く、合併症がない場合は抜歯後の感染リスクに注意すれば問題ありません。
しかし、血糖コントロール指標が不良の場合は抜歯前に血糖値のコントロールを行います。また、合併症がみられる場合は抗菌薬の服用による予防が必要です。
血液疾患を持つ人
血液疾患を持つ人も血液凝固を抑制する薬を服用しているため、親知らずの抜歯は注意が必要です。
血液疾患がある人は心臓病の人と同様に血流を良くするために、血液が凝固しにくくする薬が処方されることがあります。
親知らずの抜歯は抜歯後しばらくは出血が伴うため、薬の影響から止血しにくくなる可能性が高いです。加えて、抜歯後の自己管理が不十分な場合は感染症に罹患するリスクがあります。
血液疾患がある場合は更にリスクが高くなるため、抜歯が可能かどうかについてはかかりつけの内科の医師に相談しましょう。
親知らずの抜歯費用
親知らずの抜歯費用では、抜歯治療のみの費用相場が1,500円〜4,000円ほどとなっています。
親知らずを抜歯する場合、抜歯前にレントゲンやCTを使って親知らずの状態を確認します。
これらの検査費用・抜歯後に処方される痛み止めなどの薬代・初診代などを含めると、抜歯の総額費用は5,000円〜10,000円程度といえるでしょう。
ただし、親知らずが横や斜めに生えているケースや大学病院などで入院を伴う抜歯手術になる場合は、入院費用などが加算されます。
そのため、抜歯の総額費用が高額になるケースも考えられるでしょう。 親知らずの抜歯を検討している場合は、あらかじめ抜歯費用がどのくらいになるのか試算しておくことをおすすめします。
親知らずを抜いた方が良いケース
親知らずは必ずしも抜歯しなければならないというわけではありませんが、次のような場合は親知らずを抜歯した方が良いです。
- 智歯周囲炎
- 親知らずの痛みがある
- 親知らずが前方の歯に悪影響を及ぼしている
- 歯並びがおかしい
- 手前の歯にむし歯がある
- 口臭がある
- 顎が痛い
- 口が開けにくい
これらの症状があらわれた場合はどのように対応すれば良いのでしょうか。各ケースについて詳しくみていきましょう。
智歯周囲炎
智歯周囲炎(ちししゅういえん)とは、親知らずが萌出したときに周辺で炎症があらわれる状態を指します。
親知らずが出てくるのは永久歯の中で最も遅く、歯肉から一部だけ出ている状態が多いです。そのため、歯磨きが行き届きにくく、汚れが残りやすいです。
智歯周囲炎は汚れが溜まって衛生状態が良くないため、歯肉に炎症を引き起こします。智歯周囲炎を発症した場合は抗菌薬や鎮痛剤を投与して、親知らずにかかっている歯肉を切除します。
親知らずの生え方に異常がみられたり、炎症が落ち着かなかったりする場合は原因のもとになっている親知らずを抜歯して解消することも可能です。
親知らずの痛みがある
親知らずは普通に生えてくることが珍しく横向きに生えてきたり、歯肉の隙間から生えてきたりするため、歯磨きが非常に難しい歯です。
そのため、親知らずがむし歯や歯周病に罹患しやすくなり、痛みが生じやすいです。むし歯や歯周病になってしまった親知らずは治療が難しいため、抜歯することで痛みが解消できます。
また、むし歯や歯周病が広がる前に抜歯することで隣接した歯にむし歯がうつることを防げます。
親知らずに痛みがある場合はかかりつけの歯科医院で、親知らずの状態を確認してもらいましょう。
親知らずが前方の歯に悪影響を及ぼしている
親知らずが横向きに生えてきた場合は、前方の歯に悪影響を及ぼす可能性があります。
横向きに生えた親知らずは、成長してくると隣にある前方の歯が吸収してしまう可能性が高いため、早期に抜歯しましょう。
前方の歯への吸収が進んだ状態で親知らずを抜歯すると、前方の歯が将来的に抜けた場合に、歯の噛み合わせに不具合が生じ、入れ歯やインプラントを入れなければなりません。
親知らずがどの向きから生えているかはレントゲンやCT撮影するとわかります。親知らずが生えてくる頃にどのような状態なのかを歯科医院で検査してもらいましょう。
親知らずが横向きに生えていることが分かり、将来的に隣接している歯に影響を及ぼす場合は早い段階で抜歯することをおすすめします。
歯並びがおかしい
親知らずの生え方によって歯並びがおかしくなる恐れがある場合は、抜歯することで解消できます。
親知らずは生え揃った永久歯の最後に奥から出てくるため、横向きや斜めから生えてくると歯並びを悪くしてしまう可能性があります。
将来的に歯並びが悪くなったことで噛み合わせなどにも影響を及ぼす状態であれば、親知らずを抜歯することで噛み合わせが悪くなるのを防げるでしょう。
またもともと歯並びが良かったが年々変化して歯並びが悪くなってきていると感じた場合は、親知らずが影響している可能性があるため、歯科医院でみてもらいましょう。
手前の歯にむし歯がある
親知らずに問題がなくとも、隣接している手前の歯にむし歯がある場合は、親知らずもむし歯になるため、予防策として抜歯することがあります。
むし歯は歯垢が残ったままの状態で糖分を摂取すると歯垢の細菌が酸を生み出し、歯を溶かしてしまうため、歯質が崩壊していくことを指します。
むし歯になった歯は進行すると隣接する歯にも影響を及ぼし、親知らずがむし歯になってしまうと治療が非常に難しいです。
そのため、むし歯の広がりを防ぐために抜歯してむし歯の拡大を防ぎます。むし歯を広げないためには、普段から丁寧な歯磨きが重要です。
口臭がある
親知らずが不衛生な状態が続くと口臭が発生してしまうことがあります。親知らずは歯の一番奥にあるうえ、歯肉に一部覆われているケースがほとんどなので、歯磨きがしにくい歯です。
歯磨きが不十分なままであると親知らずに汚れが溜まったままの状態が続き、歯周病を引き起こすとプラーク菌によって口臭が発生しやすくなります。
親知らずを丁寧に歯磨きできるのが一番の解決策ですが、歯ブラシでは行き届きにくい生え方をしている場合は、親知らずを抜歯することで口臭の原因を根本から断ち切ることが可能です。
ほかにも、親知らずを覆っている歯肉の切除のみで解決できる場合もあるため、歯科医師に相談して抜歯の有無を決めると良いでしょう。
顎が痛い
親知らずは上下4本全て生えてくるとは限らず、片側だけ生えてきたり、1本だけ生えてこなかったりなどまちまちです。
そのため、生えてこない親知らずの箇所との噛み合わせが悪く、顎の運動に影響を与えるため、顎が痛くなることもあります。
生えてこない親知らずとのバランスを整えるために、抜歯することで噛み合わせが良くなるケースもあります。
顎に痛みを感じることが増えた場合は、親知らずによる影響も考えられるでしょう。
口が開けにくい
親知らずの生え方や出てくる箇所によっては顎の動かし方にも影響し、口が開けにくくなるケースも存在します。
今まで口を開けるのに支障がなかった場合でも、親知らずの生え方が異常な場合は歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼすため、口が開けにくくなります。
このような場合は親知らずを抜歯することで歯並びや噛み合わせが元の良い状態に戻り、今まで通りに口が開けられるようになるでしょう。
日帰りで親知らずを抜歯することは可能?
親知らずの抜歯は基本的には抜歯治療時間が約15分程度で終了するため、日帰りで親知らずを抜歯することは可能です。
ただし親知らずの生え方に異常があり抜歯が難しいケースや、心臓病・糖尿病などの疾患があるケースの場合は、大学病院などで親知らずの抜歯が行われます。
その際、抜歯中の緊急事態に備えたり、抜歯後の経過を確認する必要性が高かったりするため入院が必要になります。
親知らずの抜歯で日帰りで可能かどうかはそれぞれの親知らずの状態や疾患によって異なるため、かかりつけの医師に相談しましょう。
まとめ
本記事では、親知らずの抜歯方法について、リスク・費用・抜いた方が良い親知らずを併せて解説しました。
親知らずの抜歯は基本的に局所麻酔を使用した後そのまま引き抜きますが、横に生えていたり埋まっている状態だったりした場合は、歯肉を切除したり歯冠を刻んで抜歯したりします。
親知らずがあることで悪影響を及ぼしているケースや痛み・口の開けづらさを感じるケースなどは抜歯することで状態が改善し、将来的に悪くなる要素を未然に防げます。
ただし、心臓病や糖尿病などの疾患がある人は止血しづらかったり、抜歯後に感染症に罹患する可能性が高いため、注意が必要です。
親知らずの抜歯は保険適用が可能で、日帰りで受けられるケースが大半ですので、気になる方はぜひかかりつけの歯科医院へ相談してみましょう。
参考文献