むし歯ができてしまったかもしれないと気付きながら、今すぐに歯医者に行くべきなのか、もう少し様子を見てもいいのか迷う人もいると思います。
なかなか歯医者に行く時間が取れない場合もあると思いますが、痛みが出ている場合はむし歯が進行している可能性が高いです。
この記事では、むし歯がどのくらいの速さで進行するのか、進行を早める要因や予防法を解説しています。
むし歯の進行度別の治療法も解説しているので、今、むし歯で困っている人は参考にしてください。
目次 -INDEX-
むし歯の進行速度は?
むし歯の進行速度は、乳歯と永久歯で異なります。永久歯よりも乳歯の方が、むし歯は速く進行します。
進行速度が異なる要因は、個人差もありますが、むし歯の原因菌の多さ・糖分の摂取方法・歯質の状態です。
乳歯の進行速度
乳歯のむし歯はとても速く進みます。乳歯のエナメル質は、乳歯の生え始めから2~4年かけて石灰化が完成するため、永久歯に比べてやわらかく、酸に対して弱いことが原因です。
お子さんは、おやつなど甘いものを好むことも多く、大人の歯磨きサポートがとても重要です。定期的な歯科検診も、お子さんが歯医者をこわがらずに受診できるようになるメリットがあります。
永久歯の進行速度
永久歯に生え変わってから間もない学童期の歯は永久歯のエナメル質が完成していないため、むし歯は速く進行します。
個人差があるため、明確に進行速度を表すことができませんが、永久歯の場合、初期のむし歯(C1)から中期のむし歯(C2)に移行するのにかかる期間は数ヵ月から1年程度です。
その後、中期や末期のむし歯になると、むし歯の進行が速くなるため、異変に気付いたときはできるだけ早く歯科医院で受診するようにしてください。
むし歯の進行速度が速くなる要因
人によりお口のなかにいる細菌の種類は異なりますが、ほとんどの人にむし歯の原因菌は存在しています。
むし歯の原因菌が多くなることが、むし歯になりやすく進行も速くなる要因となります。むし歯の進行が速くなる要因は、具体的に以下のとおりです。
- おやつやジュースなど糖分を頻繁に摂る
- 間食をする
- 食後に歯磨きをしていない
- 歯磨きがうまくできていない
- 体質的に唾液の分泌量が少ない
歯磨きで歯垢(プラーク)が除去できないと、プラーク中の細菌が増殖します。糖分が細菌の栄養となり、さらに細菌が増殖します。
細菌の活動が盛んになり、酸が多く作られ、酸により歯が溶けてしまうことが、むし歯になる過程です。
むし歯の進行には、歯磨きと食生活が大きく影響します。夜食を摂って歯磨きをせずに寝てしまうような習慣もむし歯を悪化させる要因です。
むし歯の治療法
むし歯の進行状況により、治療法は異なります。むし歯の進行が表面だけの場合は、削らずに歯の再石灰化を期待することもあります。
むし歯の進行度別の治療法は以下のとおりです。
C1(う蝕第1度)
歯の表面のエナメル質がむし歯になると、白色や茶褐色に着色します。この状態がC1、う蝕第1度です。
まだ歯に穴が開いていないむし歯は、歯を削らずに治すことが可能です。
初期の段階では細菌によって溶けた歯が再石灰化し、元に戻ることがわかっています。歯科医院での再石灰化に有効な薬剤の塗布と、毎日の歯磨きなどのお手入れが重要となります。
C2(う蝕第2度)
むし歯がエナメル質内部の象牙質にまで達するとC2、う蝕第2度です。細菌が象牙質に達すると痛みを感じるため、自分でむし歯だと気付く人もいます。
歯の表面に穴が開くことや、歯の内部でむし歯が大きく広がることもあります。象牙質まで達したむし歯の治療は、むし歯の部分を削り取り、削った部分に詰め物をするという治療が一般的です。
詰め物の種類は、金属・セラミック・コンポジットレジンと呼ばれる合成樹脂などです。なかでも、レジンは歯とほぼ同じ色のため、治療後の見た目もよいことから、多く用いられています。
また、型を取るなどの工程も不要なため、一般的には1回の治療で終了します。
C3(う蝕第3度)
むし歯の原因菌が歯髄(歯の神経組織)にまで感染を起こした状態がC3、う蝕第3度です。C3になると歯に強い痛みが出てきます。
治療は、歯とその周辺に麻酔を行い、歯の内部の神経と細菌を取り除く根管治療(歯内療法)を行います。
根管治療では感染や炎症を起こした歯髄を除去し、根管と呼ばれる歯髄が通っている管を清掃、そして再度の感染を防ぐために歯根の内部に詰め物をする治療法です。
C4(う蝕第4度)
歯冠部歯質(エナメル質と象牙質)が溶けて歯根だけになった状態をC4、う蝕第4度といいます。
根管治療でも歯を保存できない状態になっている場合は、抜歯を検討することになります。
むし歯の予防法
むし歯は、日常的なお手入れや歯科検診によって予防できます。
フッ化物配合歯磨剤による歯磨きとデンタルフロスや歯間ブラシの併用で、家庭でも日常的に予防することが可能です。
また歯科医院ではむし歯になりやすい奥歯の溝にシーラントを実施してもらうことで予防効果を高めることもできます。
フッ化物の使用
フッ化物の使用は、歯質のむし歯に対する抵抗性を高めてむし歯を予防する方法です。フッ化物を使用すると、耐酸性の獲得・結晶性の向上・再石灰化の促進につながります。
家庭で予防するためには、日常的にフッ化物配合歯磨剤を使って歯磨きをすることが一般的です。幼児から高齢者まで家庭で利用でき、むし歯を予防できます。
剤型としてはペースト状が一般的です。フッ化物イオン濃度は1.450ppmFまでのものが販売されています。1.450ppmF・950ppfFの製品が多く、子ども向けに500ppmF・100ppmFの製品も販売されています。
効果的なフッ化物配合歯磨剤の使用方法(6歳~成人・高齢者の場合)は以下のとおりです。
- 1.450ppmFの歯磨剤を歯ブラシ全体(1.5~2cm)程度使用
- フッ化物配合歯磨剤を使用して、就寝前を含め1日2回歯磨きを行う
- 歯磨きの後は歯磨剤を軽く吐き出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。
歯の強化や再石灰化に必要な成分を唾液中に長く留めさせるため、うがいは1回です。何度もする必要はありません。
シーラント
シーラントは、奥歯の溝をシーラント材により物理的に封鎖し、シーラント材中に含まれるフッ化物により再石灰化を促進するむし歯予防法です。
4年以上で約60%のむし歯予防効果が認められています。フッ化物配合歯磨剤などの併用によりむし歯予防効果はさらに高まります。
一般的なシーラントでの予防方法は、奥歯の溝をレジンという合成樹脂で物理的に封鎖し口腔内の環境から遮断する方法や、グラスアイオノマーセメントで奥歯の溝を物理的に遮断しシーラント材に含まれるフッ化物で再石灰化を促進する方法です。
レジンとグラスアイオノマーの両方の性質をもつシーラント材も使用されています。
シーラントは取れたり欠けたりする場合もあるため、再度の塗布が必要です。そのため、歯科医院での定期的な確認が必要となります。
デンタルフロス・歯間ブラシの活用
デンタルフロス・歯間ブラシは、歯ブラシだけでは取れない歯と歯の間のプラークを取り除くための道具です。
フロスは細い糸でできているので、歯と歯の間の小さな隙間にも入ります。
日本では、デンタルフロス・歯間ブラシを利用する人の割合は半分以下という報告もあります。フロス・歯間ブラシは、むし歯や歯周病の予防にも効果的です。
デンタルフロス・歯間ブラシの使い方は以下のとおりです。
- 歯間に入れる……隙間が小さい場所では入れるのに力がいるので、歯茎を傷つけないように気を付けましょう。
- 汚れを落とす……やさしく前後に動かします。左右それぞれの歯面に当てるようにすると効果的です。
食生活での注意点
食事の仕方に気を配ることで、むし歯リスクを軽減できます。
甘いものを控えるだけではなく、食べ方を注意することでもむし歯の予防となり進行を遅らせるのに役立ちます。
糖分を摂りすぎない
むし歯のリスクを軽減するためには、糖分を摂りすぎないことと、糖分を含む食品やジュースなどの摂る回数を減らすことが大切です。
飴は、お口のなかで長時間なめるものなので、必要でなければ摂らない方がよいでしょう。
のどがイガイガするときに、のど飴が必要になるときがありますが、キシリトール配合でシュガーレスタイプのものを選ぶのもよい方法です。
キシリトールを使ったのど飴でも、果汁やはちみつが配合されているものもあるので、糖分を摂った場合と同じ対応が必要です。
- 摂る回数を決める
- 糖分を摂った後、歯磨きをする
- 歯磨きができない場合はうがいをする、またはお水を飲んで糖分を洗い流す
間食を頻繁にしない
間食を頻繁にしていると、むし歯の原因菌が糖分を栄養として酸を作り続けることになります。
お口のなかは中性pH7.0程度です。お口のなかが酸性になると歯の表面のエナメル質が溶け、むし歯のリスクが上がります。
酸性に傾いた口内が唾液の作用により元の状態に戻るには約1時間かかるため、間食を頻繁に行うとお口のなかは常に酸性に傾いた状態です。
糖分を含むジュースを頻繁に飲むことも、むし歯になりやすい要因のひとつとなります。
就寝中には唾液の分泌量が著しく低下するため、寝る前に夜食を食べ歯磨きもせず寝てしまうことは、してはいけない間食の取り方です。
間食は時間を決めて摂り、歯磨きをしていれば、楽しんでも問題ありません。
よく噛んで食べる
よく噛んで食べると唾液の分泌が促進されます。唾液には、細菌を減らす・酸の影響を少なくする・歯の再石灰化を促進する役割があります。
食べ物をよく噛むことは、歯の表面の汚れを取り除くのに有効です。やわらかい食べ物をあまり噛まずに食べているとプラークが歯についたままで細菌が増殖しやすくなります。
よく噛んで食べることが、むし歯の予防に効果的です。
食後はすぐに歯磨きをする
食事に砂糖が含まれていなくても、むし歯の原因菌の栄養となる糖分は含まれています。
食事をすると、プラーク中の細菌が糖分を取り込んで酸を作るため、食後すぐの歯磨きが予防に有効です。おやつも同様に食べたら歯磨きをします。
しかし、食事のたびに歯を磨くことは現実的に難しいため、朝食後・昼食後またはおやつの後・就寝前に歯を磨くとよいでしょう。
寝ている間は唾液の分泌量が減るため、お口のなかの細菌は活動しやすくなります。寝る前によく歯を磨いて細菌を減らしておくことが重要です。
むし歯を早期発見するためには?
セルフチェックでC1の状態を発見するには、歯の表面のエナメル質が白色や茶褐色に着色していることに気付かなければなりません。
しかしセルフチェックだけでは見落とすことも少なくありません。むし歯を早期発見するためには、定期的な歯科検診が必要です。
定期検診は、むし歯にならないこと、再発させないことが目的です。
定期検診を受けていると、むし歯が見つかっても初期の段階なので早期治療できます。年に3~4回のペースで定期的な検診を受けることが大切です。
定期検診では、新たなむし歯のチェックだけではなく、治療した歯でむし歯が再発していないかの確認も行います。治療後の詰めた部分のまわりや内側で2次感染が起こることがあるためです。
セルフチェックでは気付かないむし歯の発見は、定期検診でのチェックが必要となります。
また、むし歯の原因になるのは、プラークに存在する細菌です。歯ブラシやデンタルフロス・歯間ブラシを使用したセルフケアでは、すべてのプラークを取り除くことは不可能です。
取り残したプラークが歯石となってしまい、さらに落としにくくなります。定期検診では、セルフケアでは取り除けないプラークや歯石のクリーニングも重要な役割です。
まとめ
むし歯は重度になる程、進行が速くなるといわれています。むし歯が進まないように初期の段階での治療が大切なポイントとなります。
初期の段階でむし歯を発見するためには定期的な歯科検診が必要です。
歯が痛くなってからではなく予防的に検診を受け、むし歯のチェック、プラーク・歯石のクリーニングをしてもらいましょう。
フッ化物配合歯磨剤の使用、デンタルフロスや歯間ブラシの併用や、朝と寝る前の歯磨き(可能であれば毎食後)などの日常的なお手入れもむし歯の進行を遅らせることに役立ちます。
また、おやつ・ジュースを頻回に摂ることは、むし歯リスクを増やすことになるため控えましょう。食事やおやつの時間は決めておくことが大切です。
むし歯が進まないように、日常のお手入れと食生活管理、定期的な歯科検診を続けることが必要です。
参考文献